文献詳細
研究と報告
てんかん発作とヒステリー発作のKombinationについて—その治療抵抗の問題を中心に
著者: 大原貢1 工藤勉2
所属機関: 1名古屋市立大学医学部精神神経科学教室 2岐阜県立多治見病院精神神経科
ページ範囲:P.229 - P.236
文献概要
従来起源を異にすると考えられているてんかん発作とヒステリー発作が同一患者に現われうるということは,既に古くから臨床的に知られている。1816年Louyer-Villermay7)がこのような現象を示す疾病にHystérie-épileptiformeの名称を与え,1874年Charcot4)がそれをHystéroépilepsieとして系統的に記述して以来,今世紀前半にかけてこの問題についての論議が活発になされるようになった。そしてその臨床的事実を描写し,それを説明しようとする努力は当然のことながらてんかんとヒステリーの間の境界をめぐる診断的,疾病分類的,病因的,病態遺伝的問題へと集中されることとなり,その結果論争の中心は前世紀末から今世紀初頭にかけてのてんかんとヒステリーの結合の立場をとるHystéro-epilépsieの問題から,Affektepilepsie(Bratz,19113)),さらにはPsychomotorische Epilepsieの問題へと移っていった。しかしこれらはいずれも結局は発作現象を器質性あるいは心因性のいずれかへ帰属せしめようとする二者択一的,二元論的立場から論ぜられていたのであり,てんかんとヒステリーとの関係についての疑問には何ら基本的に答えていなかったといえよう。その後このような現象を示す病者が治癒しにくいという治療面の困難性もあって,この問題はほとんど論ぜられなくなった。そしてRabe19)も指摘するように,この30年間における文献においては「それぞれの発作のKombinationは,存在しないかあるいは少なくとも診断学的にはさして価値ある問題ではない」といった傾向がうかがわれており,さらに最近30年間においてはきわめて少数の人々がその発作のKombinationの可能性について報告しているにすぎない(Marchandund de Ajuriaguerra9)1948,Arnold1)1954,Gastaut5)1954,Paal15)1961など)。
一方日本においてもこの問題についての報告はきわめて少なく,わずかに三浦(1941),丸井(1952),浅尾(1954),新福,田中(1956)のそれがあるにすぎない。しかし彼らもそのKombinationの存在することは認めながらも,その症例の臨床的記述はきわめて簡単であり,またその論点も診断的,疾病分類的問題のみに終始しており,従来の外国における報告の域を一歩も出ていない。
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