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雑誌目次

雑誌文献

精神医学14巻4号

1972年04月発行

雑誌目次

巻頭言

精神医療の発展のために

著者: 有岡巖

ページ範囲:P.294 - P.295

 現在の精神医療は重篤な病にかかり続けている。医療の理論・方法そのものにはそれほどの問題はないとしても,その遂行・発展を妨げるものがある。その基本的なもののひとつは診療報酬である。
 経験的に治療にとりいれられ,それを中心として,つぎつぎに開発されてきた現在のmajor tranquilizerではあるが,このものは薬物療法において,現在のところ大きな価値を有している。最近試用されたL-5HTPにいたっては,まさに本質的な薬物療法への歩みを踏みいれたものである。

展望

精神分裂病者におけるクロールプロマジンの生体内代謝

著者: 桜井征彦 ,   高橋良

ページ範囲:P.296 - P.308

I.はじめに
 1944年より,フランスのRhône-Poulenc Research Laboratoriesにおいてphenothiazineの種々のアミン誘導体が合成されてきたが,1950年に至り,Charpentierがchlorpromazine(CP)の合成に成功し,本物質が中枢神経系や自律神経系などに著明な薬理学的作用を有することがわかってきた。1953年,Courvoisierらが動物におけるCPの薬理学的作用を発表して以来,精神科領域に導入され,その後種々の向精神薬の出現とあいまって,精神病の治療に画期的な進歩をもたらしたことは言を待たない。CPの臨床的効果についてはこの十数年間全世界で立証されてきた。しかしながら今日に至るまで,その作用機序に関してはほとんどが知られないままである。
 多くの臨床的知見は,phenothiazine系薬物の代謝や,作用に関する個人的なcapacityに著明な相違があることを示している。ある患者は初日から反応し,10〜25mgの少ない1回量の投与で精神的,または生理的な効果をもたらし,一方,ある患者は1日量,1,000mg以上の,しかも長期間の投与でさえも,目に見える程の反応を示さない。正常者に比し,分裂病者が驚くべきCP耐性を示すことも衆知の事実である。また,薬物による副作用の種類,軽重においても,著明なvariationが存在する。これらのことは分裂病者の病態生理が分裂病者間でも異なり,また正常者とは非常に異なったものとして薬物代謝の上に反映されているとみなすことができる。ある患者はCPまたはその代謝産物のあるものが,ある程度の血中および組織レベルに達するが,ある患者は代謝の速さ,または代謝経路が異なるために,一定のレベルに到達できないのかも知れない。

研究と報告

神経科精神科領域において観察されたMuリズム

著者: 越野好文 ,   大塚良作

ページ範囲:P.309 - P.317

 1)神経科精神科患者脳波947記録中に厳密な判定基準を満たすMuリズムを含む脳波が43記録(4.5%)あった。
 2)Muリズムの出現頻度には年齢差があり,11歳から40歳までに多く(7.5%前後),それより高年者でも,若年者でも少なかった(1〜2%)。
 3)臨床診断としては偏頭痛で26.7%(4例),神経症群で14.3%(7例)と高率に出現した。その他に外傷後の状態,てんかん,頭痛など多彩な疾患において出現した。
 4)Muリズムは11〜13c/secの速い周波数で,双極導出記録で20μV以下の低振幅のものが多く,出現に左右差を認ある場合が多かった。しかし,若年者には遅い周波数,高振幅のMuリズムが多く,また出現に左右差のない場合が多い傾向があった。
 5)単極導出記録で中心領優位にMuリズムの認められる例は20.9%にすぎず,単極導出記録のみではMuリズムを見逃す危険が大きい。
 6)Muリズムを有する患者群と正常成人を比較して,背景脳波のαリズムの出現量には差がない。βリズムの出現量はMuリズムを示す患者群に多いが,薬物の影響が除外できない。

性周期に一致して周期性経過をとる精神病について

著者: 遠藤雅之 ,   高橋三郎 ,   浅野裕 ,   山下格

ページ範囲:P.319 - P.328

I.はじめに
 “性周期に一致して周期性経過をとる精神病”は,日常の臨床において稀ならず経験されるものである。ここでいう“性周期に一致して周期性経過をとる精神病”とは,性周期に一致して著しい精神症状を呈し,少なくとも3回以上の周期を反復し,その中間期は寛解ないし寛解に近い状態になり,一定期間後には人格変化を残さず,まったく健康な状態にかえるものを指している。ところで,これらの疾患群については,非定型精神病に関するいくつかの論文5)6)8)に類似の症例を見出すことができるが,病像や予後などについて十分にまとまった記載はまだみられていない。非定型精神病に関しては,これまでにさまざまの角度から論じられてきたことは周知のごとくであるが,ある見方からすれば,それは本態を異にする種々の精神疾患をやや無原則に包含したものということもできる。諏訪22)は,内因性精神病における定型-非定型の問題が本質的難点を含んでいることを指摘して,非定型精神病が独自の身体的基盤をもつとしたら,それはすでに非定型ではなくなるとも述べている。
 私どもは精神疾患の内分泌学的研究にさいしてとくに性周期に一致して周期性経過をとる症例があることに以前から注目してきた28)29)30)。その後さらに検討をすすめるうちに,この性周期に一致した精神症状の発現が,ある限られた年齢層のみにみられ,経過および予後の面においても際立った特徴を示す一群の患者を見出した。この症例群は,身体的基盤が十分明らかにされたわけではないが,しかし漠然と非定型精神病のなかに含めることなく,臨床的立場から“性周期に一致して周期性経過をとる精神病”として別個に取り上げて検討をすることがふさわしいと思われた。このような類型化を行なうことには十分な慎重さを必要とするが,ひとつの試みとして意義のあるものと考えられる。以下,私どもがこの数年間に経験した症例を中心に若干の検討を加えることにする。

『Willis動脈輪閉塞症』の精神症状について—自験例および本邦379例の検討

著者: 平野正治 ,   桜井俊介

ページ範囲:P.329 - P.338

I.はじめに
 A. E. MonizとA. Limaが1927年に発表した頸動脈撮影は,その後手技の改良や造影剤の進歩により広く一般に施行されるようになった。その結果,いくつかの新しい知見が中枢神経系疾患にもたらされた。「頭蓋内に異常血管網を示す疾患」1)として,昭和41年第25回日本脳神経外科学会の特別討議に取り上げられた疾患もそのひとつといえる。昭和31年工藤が"Willis動脈輪閉塞症"として報告2)以来,症例数の増加とともに,その病態・成因などについて,主として日本の脳神経外科医を中心に活発な議論があり,現在すでに400例余りの発見があるとされている。その臨床症状は多種多様であるが,なんらかの神経症状を主徴とするものが大部分である。精神症状を主徴として精神医学的に問題となった症例や精神病院入院の既往のある症例も少数ではあるが報告されている。
 著者らは,神経衰弱状態→性格変化→昏迷状態と精神症状を主徴として精神病院に入院し,次第に高度の器質性痴呆状態となった50歳の女性患者で,脳血管写上本疾患群に相当する所見を経験した。

オプタリドンOptalidon中毒について

著者: 上野陽三 ,   渡辺治道 ,   山崎学 ,   露木新作 ,   萩原信義

ページ範囲:P.339 - P.347

I.はしがき
 近年薬物依存の種類および患者の増加とともに,従来あまりその対象とされなかった薬物までも,依存の対象とされるようになってきている。既に麻薬類は別として,methaqualone(Hyminal),ethynamate(Valamin),hexobarbitalum(Cyclopan)などの眠剤,麻酔剤や,シンナー,ボンドなどに至る各種の薬物依存については,知られているところであるが,さらに鎮痛剤のごときも依存の対象とされるに至っている。われわれは最近,鎮痛剤として市販(昭和40年7月より)されているオブタリドンOptalidonの急性中毒1例と慢性中毒7例とを診療する機会を得たので,それらの症例について報告し,併せてこの種の薬物依存の増加の傾向についての注意を促したいと考える。

陳旧性分裂病でみる分化像—慢性病棟での覚え書き(第2部)

著者: 広田伊蘇夫

ページ範囲:P.349 - P.356

III.他とのかかわり——(2)——
 前回は同室であること,同室になることを前提として,陳旧例がどのように他とかかわり,かかわろうとしているかを記した。今回は別の視点から,他とのかかわりを軸とした陳旧例の分化を検討してみる。その視点は映像に対する反応,および薬物治療の経過でみる反応様式からなる。

精神症状と脳波異常を伴った全身性エリテマトーデスの1剖検例

著者: 東村輝彦 ,   藤本圭一 ,   藤川行村

ページ範囲:P.357 - P.363

I.はじめに
 全身性エリテマトーデス(以下SLEと略す)の精神神経症状ならびにその病理学的所見については多くの報告があり,前にわれわれも精神症状と脳波異常を伴ったSLEの1例を報告した(精神医学,第11巻,第5号,昭44年)。今回はその病理学的検索の機会をうることができたので脳所見を中心に報告する。

二重盲検法,逐次検定法によるOxazolamの薬効検定(神経症に対する効果判定)—とくにその催眠作用について

著者: 山根秀夫

ページ範囲:P.365 - P.369

I.はじめに
 日常の診療において,神経症の薬物療法の中心は,diazepam(以下Diと略す)および,chlordiazepoxide(以下Chと略す)であるのが現状であるが,もし副作用がこれら薬剤より軽微で,効果がこれらと同等またはそれ以上の新しいminortranquilizerが出れば,神経症の治療に大変好都合なことである。
 Oxazolam(以下Oxと略す,その構造式は図1)にすでに各科での臨床治験が相当報告されているがそれらを読むとかなり上記の要求を満足させる薬剤であるかのようである。しかしOxをDiやChと比較した報告は意外と少ない。今回,わわわれは,三共株式会社より提供を受けたOxをDiと二重盲検,逐次検定法で比較してみたので,その結果の報告とこれまでの治験報告をあわせ考察を加えてみたい。

C.P.C. 松沢病院臨床病理検討会記録・6

側頭葉型Pick病

著者: 松下正明 ,   市場和男 ,   石坪毅 ,   吉田哲雄

ページ範囲:P.371 - P.376

I.まえがき
 松沢病院は,Pick病の症例が比較的豊富なところで,現在まで剖検例11例,入院中の症例が3名います。今回の症例は,つい最近臨床研究会で診察した側頭葉型Pick病で,合併症で急死した例です。病前性格のこと,側頭葉症状のこと,Pick病としては比較的初期の剖検であることなどいくつかの特徴をもった症例で興味がもたれます。

動き

第1回国際睡眠精神生理学会(APSS)

著者: 高橋三郎

ページ範囲:P.377 - P.386

会場はフランダースの古都プルッゲ
 睡眠精神生理学会APSS:the Association forthe Psychophysiological Study of Sleepの第1回国際学会が1971年6月19日より23日の間,ベルギーのブルッゲ市(BruggeまたはBruges)において開催された。今回は国際学会としては第1回目の会合であるが,実はこの学会の第11回目の年次総会にあたる。1961年米国において,睡眠を研究する多数の臨床家を中心に設立され,睡眠の精神生理学を共通のテーマとして,各分野からの研究交流を目的として開催されてきた。最近3年間の開催地は1968年デンバー,1969年ボストン,1970年サンタフェであったが,今年はヨーロッパ諸国における睡眠研究者との直接的な討論をもつ場として地をベルギーに移すこととなった。この10年来,米国では睡眠の臨床研究の分野で,逆説睡眠と夢の問題などについて著しい進歩がみられるが,一方ヨーロッパにおいても,かの有名なリヨンのM. Jouvetの脳内アミンと睡眠に関する基礎的研究1)をはじめとして,フライブルグのJungやエジンバラのOswaldらの研究も,そのアイデアにおいて米国研究者を先導していることは広くしられている。
 今年は,地元ベルギーのPetre-Quadensと,米国UCLAのChaseがCongress Cochairmanとなり,Program CommitteeにはClemente,Kales,McGintyの3人が選ばれて運営された。この学会での公用語はもちろん英語だし,学会の運営もアメリカ的能率主義で通されるので,米国からの多数の出席者にとっては国内学会と大差なかったことであろう。それに経済的な面でも,ニューヨークからブリュッセルまで,学会のチャーター便を利用すれば空路往復僅か175ドルしかかからない。これはニューヨーク,ロサンジェルス間の国内航空運賃片道120ドルと比べても,大した出費ではない。睡眠覚醒の体内リズムの乱れを除けば,まったく国内の学会出席と異なることのない気楽さであろう。私はこの期間中,たまたま,北欧オスロで研究中であったので,幸いにもこの学会に出席し,研究発表を行なう機会に恵まれた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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