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雑誌目次

雑誌文献

精神医学14巻6号

1972年06月発行

雑誌目次

巻頭言

未来の精神治療薬

著者: 稲永和豊

ページ範囲:P.494 - P.495

 日本の春頃の気温だときいて冬服と合服を準備し,また下着もそのつもりで持って行ったが,太陽の国メキシコの11月下旬の日中は日の光が強く,かなり暑い。しかし夕やみがせまって来るとひえびえとした空気につつまれるようになる。1日のうちに日本の四季が経験されると誰かが言っていたが,それ程ではないにしても気温の変動はかなりひどい。メキシコ市では酒に酔い易いので注意する方がよいときかされていたが,たしかに少量のビールでもふつうより酔いがまわり易い。またはじめの2〜3日はゆっくり歩かないとすぐ胸さわぎがするようだ。やはりメキシコ市は2,000メートルをこえる高地にあり,空気が稀薄なために身体の調子がおかしい。メキシコの人々があせらず急がず悠然としているのも生活の知恵がそうさせたのかもしれない。
 昨年の11月28日から12月の4日まで1週間にわたってこのメキシコ市で第5回世界精神医学会が開催されたが,その第2日目の午後“Drogas del Futuro”(Drugs of the future)と題したシンポジウムが会場の一つで行なわれた。このような学会で未来を語るというのは楽しい企てであるが,一面では現在の精神治療薬にあきたらなくなったこと,さらに現在の精神薬物療法に対して反省の動きが出てきたことのあらわれでもあろう。

座談会

諏訪敬三郎先生をかこんで

著者: 加藤正明 ,   逸見武光 ,   五十嵐衡 ,   諏訪敬三郎

ページ範囲:P.496 - P.511

 諏訪 逸見さん,あの向こうに見える森が国府台台地の南の端になります。その先の水門が間々川の出口。手古奈媛の祠があそこから少し奥に入ったところにあります。しかし,昔はあの辺りまで海だったようです。ここら辺りは,第2回目の国府台戦争,永祿7年1月ですね,里見義弘と北条氏康の戦いの主戦場だったのです。当時,里見氏がここに陣を張ったのでここをいまでも里見というのです。いま通った里見公園,あそこで古い国府台陸軍病院が発足し,後に国府台の分院になっていました。本院から里見分院までの間は美しい桜並木でしてね,外地から帰ってきた人たちにとても喜ばれたものです。それから,国府台から見る夕陽がとてもきれいでしてね。クーラーなど使わずに川風に吹かれるのもまた良いものでしょう。
 加藤 諏訪先生が国府台をお離れになってもう四分の一世紀たちました。しかし,先生はますますお元気で,いろいろ活動していらっしゃるので,きょうは,ぜひ先生から戦前,戦後についてご活躍のご様子をうかがいたいということで,とくに読者から希望がございました。

研究と報告

男性仮性半陰陽者の心因反応

著者: 市川潤 ,   木村美津子

ページ範囲:P.513 - P.520

I.はじめに
 半陰陽者に対する道徳的あるいは宗教的干渉は古く,既に古代ユダヤ教典に半陰陽者に対する取扱いに関しての記載があるという1)。すなわち,半陰陽者の場合には例外的に不浄の法(the law of uncleanliness)は適用されないために割礼は必ずしも行なわれなかったようである。また古い英国法では,半陰陽者は自らの性を自ら決することを命ぜられ,もし後に性転換を試みるような場合には死刑に処せられたともいう1)。現代ではこのような半陰陽者の処遇の問題は半陰陽者自らと医師の意見とに基づいて解決されることが可能である。
 しかし,このように社会的制約の改善された今日でも,半陰陽者個人の苦悩は決して軽減されたとはいえない。われわれの許に激しい精神異常を呈して来院した男性仮性半陰陽者の場合にも,そのような深刻な問題がまざまざと示されており,また,医学的処置を行なう場合のよって立つ根拠にも誠に微妙なものがあった。わが国におけるこの種の報告,とくに精神医学的・心理学的問題に触れたものはきわめて少ないので,われわれの経験した症例について上述のような観点からの考察を加えてここに報告したい。

精神科領域におけるオーストラリア抗原の意義と対策について

著者: 前田利男

ページ範囲:P.521 - P.530

I.序文
 最近ウイルス性肝炎との関係におけるオーストラリア抗原(以下Au-抗原と略す)の意義が注目されてきている。精神科領域における肝障害の問題は,(1)向精神薬の飛躍的発展に伴う長期療法や大量療法による肝障害,(2)生活様式の向上・変化に伴う酒精中毒,眠剤中毒などによる肝障害,(3)集団生活を原則とする精神病棟内でのウィルス性肝炎の接触・経口感染による集団発生の危険,の3点にしぼることができるようである。
 このような状況において,Au-抗原が臨床的にもひろく利用されるに至り,(1)向精神薬,酒精その他の中毒性肝障害と,ウィルス性肝炎との鑑別がある程度可能となり,その治療も異なってきたこと,(2)精神障害者においては比較的自発的訴えが少ないことが多く,ウィルス性肝炎もその初発症状が嘔気,嘔吐,食欲不振,腹痛,倦怠など心気的訴えと誤られたり,向精神薬によってそれらの症状が隠蔽されやすいこと,(3)ウィルス性肝炎が患者のみならず,看護者,医師,およびその家族に対して感染の危険をもつこと,などの点から,精神科領域においてもAu-抗原の意義は少ないことはない。

森田学的側面からみた禅の公案についての精神医学的一考察

著者: 鈴木知準

ページ範囲:P.531 - P.537

I.はじめに
 禅の公案による修練というものは,精神医学的に,どのように価値づけられるものか,とくに森田療法との関連については,きわめて興味深く,この点に関して考察してみたいと思う。まず,一般に公案の問題にふれ,次に禅宗第一の書といわれる無門関の代表的公案四つをあげて,その内容を検討し森田のものの考え方と相触れ,同じ方向を指向している点をあげたいと思う。森田のいうように,彼の創始した神経質の森田療法が禅から出発したものではないかも知れないが,多くの同じような思考,理解の仕方,心的修練の方向をもっていることがわかるように思われる。禅の公案の理解について,あるいは正鵠を得ていないものがあるかも知れないが,これらについては教えを得たいと思う。

分裂病患者の社会復帰—病院工場(ベルトコンベアによる組立作業)の経験

著者: 西川喜作 ,   田村忍 ,   喜多健 ,   田代巌 ,   松田幸子 ,   大河原正子

ページ範囲:P.539 - P.548

I.緒言
 1955年以来,精神薬物の進歩によって精神分裂病の治療は病院の内外を問わず,著しい発達をみた。分裂病の寛解はより多く,人格荒廃状態に陥る者もかなり減少したように思われる。しかしわが国においては精神障害者の社会復帰が他の西欧諸国に比してきわめて困難である。すなわち一般社会における精神病に対する偏見,受け入れ家族側での封建的および旧来の風習,人間関係,また受け入れ企業側での不十分な態度,法的制度の問題等々,数え上げると際限がない1)
 精神分裂病のいわゆる欠陥状態といわれるものは人によりこれが施設症候群(institutional syndrome)であるとさえいわれている2)。すなわちこれらの人格荒廃を一見示している患者でもその導き方,ことに生活療法および社会的刺激と興味への参加のさせ方によっては大いに変化させられるのだといわれており,欠陥状態といわれる患者も閉鎖的な,社会と没交渉の暗い病院内にあっては長い期間にかかる状態になることも十分想像できる。

遁走の力動的構造分析

著者: 小林亮三

ページ範囲:P.549 - P.555

I.はじめに
 従来から遁走はその突発的な発症のためにいゆる衝動行為にかぞえられ,「基礎疾患」の一症状として症候論的に,あるいは心理学的に研究されてきた。このことはあとにのべる研究の歴史で明らかにされる。
 しかしこのような方法論でとらえられた遁走は,疾病論の擁護と確立あるいは心理学的機制の解明には役立ったが,反面,遁走という行為そのものの意味は見逃され,究明されることのないままに経過してきたように思う。

精神分裂病でみる機能的類型とその予後—方法論的試み(第1部)

著者: 広田伊蘇夫

ページ範囲:P.557 - P.566

I.はじめに
 私は3回にわたり,ほぼ20年近く在院する陳旧性分裂病例を対象として,いくつかの操作を介し,その存在的・機能的特徴を報告した1)。そのさい,得られた宝さがしの移動軌跡を整理しながら,注意とか,志向性と呼ばれる機能をみるこれまでの方向が,その“持続”に偏っており,“拡がり”,“配分”の方向での分析も必要なのではないかとの疑問を抱いた。そこで,発病経過10年以上の分裂病例を対象としたデータを整理しなおし,この注意,志向性の“配分”様式を調べなおしてみる気になってきた。実はここで記すデータは,陳旧例を担当する前年に得たものであるが,未整理のままであった。したがって,データを手にして3年間経過し,その間にある者は退院し,ある者は再入院となり,治療の失敗を身につまされながらも,そのことによって,それぞれの患者の特徴はある程度まで把握できたつもりである。
 以上の経過をもとにして,ここではまず,対象とした分裂病例で,注意の配分様式がどのように分化していたかを示してみる。ついで次回に,これに注意の持続様式の分化像を加え,以上の機能的特徴と臨床的特徴との関連について記すことにしたい。

フェノチアジン系薬剤イレウスの1回復症例—臨床症状,治療方針および文献的考察

著者: 栗岡良幸

ページ範囲:P.567 - P.571

 (1)“フェノチアジンイレウス症”の報告はきわめて乏しく予後の悪いショック例でありながら輸液およびクロルプロマジンの休薬で回復した症例を報告した。
 (2)フェノチアジンイレウス症の発生病理を考察した。
 (3)文献的考察を加え,フェノチアジンイレウスの早期診断,病状の追跡,輸液療法が効果的であることを述べた。

C.P.C. 松沢病院臨床病理検討会記録・8

高NH3血症,低γグロブリン血症と脳紫斑症を呈した類癖痕脳型肝脳疾患の1例

著者: 竹中星郎 ,   松下正明 ,   吉田哲雄 ,   石井毅

ページ範囲:P.573 - P.578

I.まえがき
 肝脳疾患の一つとして猪瀬型に続いて白木らによって類瘢痕脳型肝脳疾患が提唱され,それらの疾患の独自性と共通性が論じられる中で病因の追究がなされている。後者について白木らは病因として代謝障害などの仮説を提示しているが,その根拠は病理学的所見の域を出ず,病態生化学的な追究は少ない。
 今回は臨床的に多彩な意識障害と軽い性格変化を呈し,臨床検査で高NH3血症,低γグロブリン血症,血中アミノ酸異常などを示し,脳波で三相波の他に初期に6 & 14c/s陽性棘波を認めた症例を検討する。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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