icon fsr

文献詳細

雑誌文献

精神医学14巻8号

1972年08月発行

文献概要

研究と報告

長年,社会から遮断されて育った3きょうだい

著者: 西田博文1 伊藤禎子2 高木和子2 山上敏子3 村田豊久3

所属機関: 1九州厚生年金病院 2聖マリヤ病院 3九州大学医学部精神医学教室

ページ範囲:P.705 - P.714

文献購入ページに移動
I.はじめに
 わたくしたちは,約10年間,親から外出を禁止され,両親以外との対人接触をまったくもたなかったという,きわめて特異な環境のもとに生育した3人のきょうだい(14歳,女;12歳,男;10歳,女)について,調査,研究する機会を得たので,彼らのパーソナリティの特性,ならびにその後の変化について報告したい。(以下,長子より順に,第Ⅰ子,第Ⅱ子,第Ⅲ子と略記する)。
 パーソナリティがいかに形成されてゆくかという問題は,数多くの性格理論のなかで,最も重要な課題であろう。古来,素質論と環境論とが対立してきたことは,周知のとおりである。この複雑な課題に対して,“アマラとカマラ(Gesell, A.)”1)や,“アヴェロンの野生児(Itard, J.)”2)などの症例報告が多大の寄与をなした。ここに報告する症例は,これら2症例ほど環境が異例というわけではない。ただ,長期間にわたって両親以外の人々との接触をもたずに育ったという点で特異である。パーソナリティ形成過程において,対人関係が非常に重要な因子のひとつであることには,異論はないであろう。パーソナリティは,母親や家族,すなわちいわゆる第1次集団との狭い人間関係から,さらに家族外の第2次集団との接触,相互作用の過程のなかで発展し,展開してゆくと考えられているが,もし家族外との接触を体験しなかった場合,パーソナリティにいかなる影響があらわれるかという疑問は,精神医学的にも教育学的にも,はなはだ興味深い問題である。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?