文献詳細
文献概要
研究と報告
老人患者の精神療法
著者: 大原健士郎1 岩崎稠1 藍沢鎮雄1 小松順一1
所属機関: 1慈恵医大精神神経科教室
ページ範囲:P.19 - P.25
文献購入ページに移動精神療法とは,心理学的な手段を用いて患者を治療することと定義することができるが,一般にその適応は主として心因性疾患,それも青年期から壮年期の患者に有効であるとされている。このことは,精神療法を施行するにあたり,一応の人格完成をみ,verbalな治療手段によって自己洞察が望める患者が選択されていることを意味している。その意味から,幼少年期の患者には,個人精神療法だけを施行することはまずなく,もっぱら遊戯療法や家族ぐるみの精神療法や環境調整などが施行され,効果をあげていることは周知のとおりである。一方,老年期の患者に対しては,これといって有効な精神療法は望めないとして,投薬や身体的治療に走るのが現状のように思われる。Freud, Sも40歳以上の患者には精神分析療法は有効でないとして,積極的なアプローチは行なわなかった。これは,老人患者には器質性疾患,人格の偏り,知能低下などを伴うものが多く,自己洞察がなかなか得られないためと思われる。また,小児と異なり,老人には将来に対する周囲のものの役割期待が乏しいため,治療がなおざりにされる傾向も否定できない。
近年,精神科領域でも老人患者に接することが多くなってきたが,この論文では,症例を通して,老人患者に対してどのように精神療法的なアプローチをすべきかという点から考察をすすめたいと思う。
掲載誌情報