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研究と報告
精神分裂病患者の自己像—予備的研究
著者: 牛島定信1 佐藤美丸2
所属機関: 1九州大学医学部精神医学教室 2国立肥前療養所
ページ範囲:P.39 - P.47
文献購入ページに移動創作,たとえば絵画,彫刻,詩,小説などのなかに,創作者のパーソナリティーや不安,葛藤などが投影されていることはよく知られた事実である4)。そのことから,逆に,創作されたものからその人のパーソナリティーや不安,葛藤を推察することが行なわれてきた。病跡学が,絵画療法,芸術療法,ある種のレク療法など最近,精神科領域で広く行なわれるようになったのはそうした事実を背景にしているといえよう。とくに,言葉で自己表現のできない陳旧性の分裂病の場合,彼らの創作が,彼らの精神力動(不安,葛藤)を理解するうえで,重要な手がかりになることは論ずるまでもないであろう。
わたくしが陳旧性の患者たちに自分の姿を描かせるようになったのはそのような事実を根拠にしている。そのきっかけは次のような些細な体験からである。ある日,汗を流して面接にやってきた患者に,汗を拭かずに気もちがわるくないかときいたところ,患者のなんともないという返事に改めておどろいたのである。ここで"おどろいた"というのは,わたくしは,これまで,身体像の変容を訴える患者たちには自分の身体を否認し歪曲する機制をみとめていたわけであるが,この患者のように身体に無関心という消極的なかたちで身体の否認歪曲という機制のあることを発見したからであった。
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