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雑誌目次

雑誌文献

精神医学15巻12号

1973年12月発行

雑誌目次

特集 精神障害と家族 巻頭言

家族力動論と家族治療の効用と限界

著者: 加藤正明

ページ範囲:P.1250 - P.1251

 大ていの精神科医は,家族力動について考えなかった時代から,ことに子供の行動障害や精神分裂病の治療にあたって,親の取り扱いが必要であることに気づいていた。しかし,問題の親をどう扱ってよいかわからず,ただその異常性を遺伝素因とみなすことによって,働きかけることをしなかった。また,神経症患者の治療にあたって,患者のもつ家族イメージが客観的事実よりも大切であり,この家族イメージがいかに変容するかが神経症治療の手がかりとなっていた。しかし患者の家族への接触は患者自身も望まないことが多かったし,その必要も感じなかった。
 家族力動に関する知識がかなり一般化された今日においても,これにどの程度のウエイトを置くかは,精神科医の学問的立場によっても,患者によっても大きなちがいがあるのは当然であろう。いわゆる「家族因」といわれる要因が,患者のパーソナリティ形成に重要な役割を演ずることは認めても,ある疾病の病因としてどの程度のウエイトを与えるかに大きなちがいがある。多次元診断と多次元治療の立場に立って,家族因と家族の治療が多かれ少なかれ必要であるとするもの,疾病の原因として家族因はpathoplasticな要因ではあってもpathognomonicな要因とは考えないもの,病因としての家族因ではなく,疾病による行動や体験が家族力動とかなりの相関をもつとするものなどさまざまである。

児童精神医学における親の問題

著者: 小倉清

ページ範囲:P.1252 - P.1260

I.はじめに
 一般の成人精神医学でも患者と家族の関係は診断や治療の面できわめて大切であるが,児童精神医学で親の問題がとくに重要な地位を占めているのにはそれなりの理由があるものと思われる。
 人間の場合,他の動物と違って,生まれたばかりの赤坊はまったく一方的に親の被護のもとにあり,その後もかなり長期にわたって親に依存している。それだけに子供は親から強い影響を直接的に受けているのである。良しにつけ悪しきにつけ,このことはまったく避けられないことなのである。「親はなくとも子は育つ」とはいっても,この場合でも,親に代る人が育ててくれるという前提条件があってのことである。そしてそこでもやはりその人から強い影響を受けていることには変わりがないのである。

人格発達と家族—Life Cycleの観点から

著者: 逸見武光 ,   広瀬恭子

ページ範囲:P.1261 - P.1270

I.はじめに
 "個人の人生は,ただ1つのlife cycleと,歴史の一節との偶然の一致である"というErikson, E. H. の言葉はわれわれの臨床活動や研究を支える基本理念を的確に表わしている。彼は"親であることparenthood"を精神的健康の第七段階の規準としてあげ,この段階を経たものが"自分自身のただ1つのlife cycleを受けいれ,自分のlifecycleにとって,存在しなければならないし,どうしても代理がきかない重要な人物を受けいれること"つまりego integrityに到達すると指摘した。
 Rappaport, D. が,Eriksonの心理-社会的発達理論について"各life cycle相互間の歯車のかみあいcogwheelingを仮定している"と評したが,われわれの関心はまさしく,そのかみあいにある。したがって,逆説的になるが,われわれは"ただ1つのlife cycle"に焦点をしぼってはみるものの実はそのlife cycleに集約的に現われている無限のかみあいを可能な限り展望してみたいと考えているのであり,さらに,かかる展望を欠いた精神医学は成立しないだろうと信じている。ところで,かみあいは無限であり,われわれの視野は有限である。無限の連鎖を1つでも多く具体的に捉えようとする志向は大切であろうが,しかし,このような作業には終りがない。しかも,かみあいの連鎖に関するファイルの頁数が増加したなら,あるlife cycleについてより深く理解できるというものでもない。視座は常に,ある1つのlife cycleのある時点にある。もし視座を変えるとすれば,それは提起される問題が変わった場合に限られよう。そこで,求められることはわれわれの視野の広さと,洞察の深さということになる。あるlife cycleが示す,一見些細なエピソードをも見逃さない注意力と,それが意味するものを推察して臨床的にフィード・バックする理解力がわれわれのアプローチの武器となるわけである。

精神障害と母子関係—母子心中を中心として

著者: 大原健士郎

ページ範囲:P.1271 - P.1278

I.はじめに
 精神障害の発現に,人間関係,とくに家族内対人関係が重視されるようになってから,すでに久しい。中でも,母子関係の歪みは,神経症,各種精神病,あるいは非行,犯罪,自殺などの精神医学の重要課題と深くかかわり合っていることが広く知られている。これはもちろん,母子関係のあり方が基礎人格の形成に重要な意味を持つことを示唆するものであるが,一方では,精神障害者の治療やアフター・ケアーでも,同じように母子関係が重視されてきている。しかし,人格の形成にしろ,精神障害の発現にしろ,単純に,母子関係の歪みのみを原因と考えるのは早計であり,母子以外の家族内対人関係や家族外対人関係,さらには,遺伝の問題も無視することはできない。その他,その地域社会における文化的特徴も見逃しえない重要な因子である。1人の精神障害者が発生しても,1つの社会精神医学的な事件が出現しても,その背景はきわめて複雑である。
 ここで,母子関係と精神障害とのかかわり合いを各側面から深く追究する余裕はないし,筆者自身にもその能力はないが,きわめて日本的特徴をもつ「母子心中」をとおして,母子関係のあり方が,その発生にどう関与しているかについて,若干の社会精神医学的考察を加えてみたいと思う。

青年期における主体の硬直的な退去とその現代的背景—不登校,いわゆる学生のApathieを中心に

著者: 辻悟

ページ範囲:P.1279 - P.1289

I.問題の定位
 学園における学生を中心とした批判・告発の活動が,社会的な現象として表面化する以前に,大体昭和38年度大学入学の世代から,留年率が飛躍的に増加する現象が見られた。いわゆる大学における大量留年といわれた現象である。筆者17)は,先にこれら留年学生に見られる特徴が,それに先立って問題となっていた中・高校生に見られる不登校と,その本質は同じものとしてとらえるべきものであること,およびこれらの現象が,教育ならびに精神医学の領域,さらには社会現象として目立つようになった世代は,世代として一致しており,主として敗戦後に生をうけ,戦後のいわゆる経済成長という社会情勢の中で,自己形成の場を持つようになった世代層であることを指摘した。
 不登校症例は,学校恐怖症,登校拒否症例などとも呼ばれ,その特徴や分類,成因などについての報告がかなりの数になってきている。一方,大学においては,その後に生じた上述の学園の混乱によって,大量留年をここで問題にしている現象の現われとして直線的にとらえることができなくなった。しかしそれによって問題が消失したのではなく,大学生にみられる学校恐怖症とか,大学生のApathieなどとして問題にされてきており,さらに世代の年齢的な進行とともに,職域においても同じような問題が生じてきていることに,人人は気づくようになってきている。

配偶者の精神障害をめぐる諸問題—精神障害と結婚および離婚

著者: 畑下一男

ページ範囲:P.1291 - P.1299

I.はじめに
 配偶者というのは,いうまでもなく,法律用語で,「夫に対して妻を,また,妻に対して夫を,それぞれ指していうことば」である。それを借用して,わたしは,本稿のタイトルに使用したが,だからといって,ここで法学的な論考をしようと企てているわけではない。当初,わたしが与えられた課題は,副題に残してあるように,社会精神医学の重要な問題のひとつとして取り上げられた「家族」というテーマのなかで,「精神障害と結婚および離婚」について述べていることであった。
 しかし,この課題は,少なくともわたしにとって,あまりにも厖大なとりとめのないものに思われた。実際,あれこれと思案はしてみたものの,どこに焦点を置いたらいいか途方に暮れるばかりだった。わたしの知るかぎり,いままで,わが国の社会精神医学において,「家族」というテーマが爼上にのせられたとき,「結婚」や「離婚」に関しては,あまり主題として論ぜられたことがなかったと思う。

老人患者と家族

著者: 岩崎稠 ,   大原健士郎 ,   吉沢勲

ページ範囲:P.1301 - P.1313

I.はじめに
 近年,各研究分野において,家族集団を1つの機能単位として取り上げようとする動きが活発になってきた。これにはいくつかの理由がある。まず第1に,家族集団は社会において,取り扱いやすい1つの単位組織だということである。単位として取り上げることのできるものには,家族のほかに個人および社会があるが,家族をまず取り上げようとする理由の第2は,この両者と相互に関与し合う重要な位置を占めることである。いうまでもなく,家族は社会における福祉追求の第一次的担い手であり,家族員の健全な結合は,その小集団で維持し,安定をもたらし,また成員それぞれの生活行動発展の基盤となり,福祉を追求する源となる。
 現代社会では,工業化や都市化が進行するにつれて,教育・職業・結婚などの機会を求めて,人間の社会的移動が激しくなっている。その結果,核家族化が進展し,とくに過疎地域における老齢者家族としての核家族的形態の維持に問題を生じている。わが国の高齢者世帯(男65歳以上女60歳以上の者のみで構成されるか,または,これに18歳未満の者が加わった世帯)数は,昭和30年を100.0(425千世帯)とすると,45年は281.4(1196千世帯)と激増し,総世帯に占める高齢者世帯の割合は,35年2.2%,40年3.1%から45年には4.0%へと増加している。高齢者世帯の中でも問題の多い高齢者単独世帯については,30年の262千世帯を100.0とすると,35年110.7,40年169.5,45年には233.6(616千世帯)と増加も加速度的になってきている。厚生省による一人ぐらし老人の健康状態の調査では,「弱い,病気がち」と回答した者が35.7%もあり,「床につききり」が1.6%,世話を必要とするにもかかわらず,世話を受けられない者が21%にも達するという(厚生行政基礎調査資料,および老齢者実態調査,昭46)。

分裂病患者と家族の関係をめぐる臨床的な問題

著者: 川久保芳彦 ,   末次哲朗 ,   牧原浩

ページ範囲:P.1315 - P.1322

I.はじめに
 ふだん臨床にたずさわっている時,患者と家族の間に何か切っても切れない関係があると実感せざるを得ないことがしばしばある。
 たとえば,家族を激しく批判し,もうあんな家には帰らないと述べていたのに,退院が近づくとともにぴたりと批判をやめて家族のもとへ帰っていく患者,よくなって家族のもとへ帰るとまもなく再発して入院し,入院すると短時日で軽快して家へ帰りたがり,始終自宅と病棟間を往復している患者,短期間に何回も自宅と家族外の社会の間に住居を変える患者,などに遭遇し,われわれは患者と家族間に何か名状し難い深いきづなが存することを痛感せざるを得ない。

精神障害者家族会について—その家族社会学的考察

著者: 榎本稔

ページ範囲:P.1323 - P.1329

I.はじめに
 「家族は,人々が家族に求めるものが少ないとき,明るい集団であることができる。……しかし,家族に求めるものが大きくなった途端に,今日の家族は何の力も持っていないという事実が明らかになる」と清水1)は述べている。
 さて,社会は常に変わり,まさに動いている。社会変動の波は,人々の心に影を落とし,さまざまな現象をひき起こす。日本においては,昭和30年代に高度経済成長のもと,産業化・都市化が急速に進み,大量生産,大量消費の時代が到来した。それとともに,マス・メディアは異常なまで発達し,社会はいわゆる大衆社会状況へと移行してきたのである。ほぼ時を同じくして,日本の家族はわずか10年の間に,5人家族から4人家族になり,「核家族」化への道を歩み始めた(平均世帯人員は昭和30年の4.97人から,昭和40年4.08人,昭和47年3.7人へと減少傾向にある)。

犯罪と家族

著者: 武村信義

ページ範囲:P.1331 - P.1340

 I.
 犯罪と家族に関しては,いろいろな問題について,いろいろな学問分野において数多くの研究がなされている。とくに家族の犯罪原因としての(犯因性の)意義は犯罪学の最も重要な課題の一つとして,つとに生物学,心理学,社会学などの各方面から研究された。それは生物学の立場では主として犯罪者の遺伝負因の見地から眺められている。心理学的には家族成員の情動的な関係が,社会学的には家族の構造・機能および社会・文化約役割の問題が検討されてきた。しかしまた今日,犯罪者の治療・処遇における家族問題の重要性の認識も一層深まりつつある。さらに家族は犯罪の対象(被害者)として,犯罪現象論においても重要な位置を占める。このように多岐多方面にわたる犯罪と家族に関する諸問題のうち,ここではとくに著者が関心をもつ犯罪原因論における家族の問題に絞って述べたいと思う。

躁うつ病の精神病理と社会病理—奥能登の故郷文化変貌のなかで

著者: 荻野恒一 ,   上谷博宣 ,   久場政博

ページ範囲:P.1341 - P.1349

I.はじめに
 ここ十数年来,精神医学的研究の1つの新しい動向として,精神病者を単に病んでいる個人としてみていくだけではなく,また病者の生活史の途上において内面化されていった他者像,これとの葛藤や不満などの消息を分析していくだけでもなく,病者が1つの立場を占め,そこである役割を果たしている家族全体の対人的力動へと視点を移した研究,すなわち一言にして家族力動についての研究が進められ,さらには視点が拡大されて,病者が生きている職場や地域社会における人間関係の分析もなされてきた。これらの諸研究は要するに,一定の家族,あるいはこの家族を包んでいる家(いえ),血のつながり,土地,故郷(ふるさと),地域社会などのなかで病んでいる人間についての精神医学的研究であるといえよう。ところが今日の文化的状況においては,こうした家や土地や故郷や既存のコミュニティー自体が変貌し,さらには崩壊しつつあるわけであり,ここで臨床精神医学は,まったく新しい課題に直面しなければならなくなってきた。ここ5年ないし10年来,にわかに盛んになってきたいわゆるtranscultural psychiatry(以下かりに超文化精神医学と訳すことにする)は,少なくとも筆者たちにとっては,このような臨床精神医学的課題に根拠を置いているわけである1)。しかもわれわれが奥能登の分裂病者について報告してきた超文化精神医学的調査によると,文化変貌のなかで発病した分裂病についての上述の観点からの研究が,かえって分裂病一般についての新しい見方を示唆してくれるもののごとくなのである1〜4)
 そこで今回は,われわれが3年来行ってきた奥能登における超文化精神医学的調査のうち,躁うつ病について知り得た事柄を報告したいと思う。しかもわれわれにとって,奥能登の躁うつ病の精神病理と社会病理は,他のいずれの精神疾患にもまして,人間存在における家と土地と故郷の意味を開示してくれるように思われるのである。

座談会

精神障害と家族

著者: 畑下一男 ,   川久保芳彦 ,   広瀬恭子 ,   土居健郎 ,   福島章 ,   中根千枝

ページ範囲:P.1350 - P.1369

精神医学と家族研究
 土居(司会) きょうは皆さまお忙しいところをお集まり下さって"精神障害と家族"という題で座談会を開くことができて嬉しく思います。きょうはとくに,中根先生に大変お忙しいスケジュールのところを都合していただきまして有難く思います。
 きょうお集まりいただいた方は何らかのかたちで家族に,精神科の医者,あるいはケースワーカーとして関心をお持ちの方です。

紹介

家族精神療法と家族研究—概要について

著者: 高臣武史

ページ範囲:P.1260 - P.1260

 1971年「精神分裂病の精神療法」に関する第4回国際シンポジウムがフィンランドで催された。7年前の第3回シンポジウムにくらべて大きな特徴の1つは,編者も強調しているように,分裂病患者の家族とコミュニティへの関心が高まったことであった。第3回シンポジウムでは家族に関する報告は1つだけで,環境療法については1つもなかったが,今回は全部で44報告のうち,家族に関するものは10,コミュニティと親族に関するもの9,個人精神療法に関するものが6論文であった。
 これは主催国の代表であり,編者でもあるAlanenともう1人の編者Rubinsteinの2人が家族研究者であったことと無関係ではないかもしれないが,分裂病を対人関係の障害としてとらえたばあい,患者がその一員である家族やコミュニティに関心をむけることも当然であろう。

家族精神療法と家族研究—家族力動に関するtransactionの研究

著者: 高臣武史

ページ範囲:P.1270 - P.1270

 子供の精神発達に悪影響を与える両親のtransactionalな様式についてStierlin, H. とWynne, L. C. が報告している。
 StierlinはNIMHの家族研究室での5年間における研究から「潜在的分裂病の家族力動と分離パターン」について述べている。彼が問題にしているのは,拘束(binding),使命の委託(delegating),追放(expelling)の3様式である。

家族精神療法と家族研究—分裂病者の家族治療における臨床的諸問題

著者: 高臣武史

ページ範囲:P.1299 - P.1299

 これは編者の1人であるRubinstein, D. の報告のタイトルであるが,他の演者のなかにもこれに言及している人が多い。
 Alanen, Y. O. はかつて患者への同一視から患者の親や他の家族成員を攻撃していたこと,この攻撃と結びついた罪悪感が自分の心に生まれ,自分は攻撃されるのではないかとおそれ,ことにしばしばみられる支配的な患者の親の前で患者に対する忠誠を守りうるかどうか頼りなく感じていたこと,それが彼が家族治療を避けていた理由であることを告白している。これは多くの精神療法者にある気持であろう。しかし彼は自分の個人的な精神分析でこの不安は少なくなり,治療者として患者の親に関係をもてるようになったので家族治療を始めたという。

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精神医学 第15巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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