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文献詳細

雑誌文献

精神医学15巻2号

1973年02月発行

文献概要

展望

失語症の言語治療について—歴史と現況

著者: 浜中淑彦1

所属機関: 1京都大学医学部精神神経科

ページ範囲:P.120 - P.143

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I.はじめに
 従来,失語症の治療,ことに言語治療に対して抱かれた関心と払われた努力は,病理学的現象としての失語症そのものに関するそれ―失語症の記載と失語型の分類,解剖学的,生理学的,精神病理・心理学的側面の研究―に比べると決して大きいものではなかった。Goldstein(1919,1948),Weisenburg & McBride(1935)らの著作を別とすれば,Wernicke(1874)以来失語症研究史上の重要な里標となった,たとえばHenschen(1920),Head(1926),Kleist(1934),第2次世界大戦後ではRussell & Espir(1961),Hécaen & Angelergues(1965)らの単行本を繙いても(言語)治療についてはまったくといってよいほどに頁が割かれていない。
 これについては種々の事情が考えられ,治療の基盤となりうるほどの統一的理論が失語論で確立されていなかったこともその一因であろうが,最近十年余の間に指摘されるようになつた,失語症研究におけるmultidisciplinary or interdisciplinary approachの必要性が言語治療についてもいえるにもかかわらずそれが十分に認識されず,その結果,症状としての失語症の病因,脳疾患の身体医学的治療に終始して言語訓練については時間的余裕がないか悲観的な神経学者,主として聾唖,吃音,発語器官障害を対象とする音声言語障害治療学を発展させてきた耳鼻科医,音声言語病理学者,教育・心理学者,身体的神経症状の訓練に従事する理学療法士などのパラメディカルスタッフの研究領域の,いわば谷間に置かれていたことも無視できぬであろう。また近年最も広く言語治療が行なわれているアメリカにおいてもなお神経学者の間には悲観的な空気が支配的であるという事情にみるごとく,言語治療の効果に関する説得的実証的研究がごく最近まで試みられなかったことも挙げられよう。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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