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研究と報告
精神分裂病に対するアミンプレカーサー療法の可能性—L-DOPAの投与を通じて
著者: 更井啓介1 木村進匡1 石井知行1 伊関勝彦1 今田寛睦1 河村隆弘1 木野孫史2 越後敬2
所属機関: 1広島大学医学部神経精神医学教室 2広島静養院
ページ範囲:P.189 - P.196
文献購入ページに移動精神分裂病にアミン代謝障害があり,それが原因につながるという仮説は,現在かなり注目をあびている。メスカリンなどの幻覚惹起物質が生体アミンと構造がよく似ていることから,脳内アミン代謝に注意が向けられ,多くの報告がなされた2〜5,7〜10,15〜21)。しかし,アミン代謝産物の中には不安定で測定困難な物質があり,とくに分裂病者の脳については実験不可能で,体液に関する資料と,また諸種の薬物を投与した動物についての行動変化と脳内アミンの動態から,病因を推測するのが一般的な分裂病の生化学的アプローチとなっている。ところが,臨床家にとってはさまざまな治療手段を通して,なぜそれが有効かを究明することにより,逆にその本態をうかがうことができると思われる。
さきに著者らは,諸種の抗パーキンソン剤が無効の向精神薬によるパーキンソン症状を有する分裂病者にL-DOPA(ドーパミンの前駆物質)を使用し,向精神薬によるパーキンソン症状が著明に改善されるとともに,精神症状も改善された例や悪化した例があることを報告した14)。つまり,L-DOPAが錐体外路症状ばかりでなく精神作用にもかなり影響を与えることがわかった。稲永ら12)は3例の分裂病者にL-DOPAを向精神薬と併用して著効を示したと報告している。彼らは,L-DOPAの作用機序として,向精神薬により脳内アミン,ことにノルエピネフリン(NE)が脳内で低下する可能性があり,動物実験では脳内NEを増量させるにはL-DOPAの少量投与がよいので,患者にL-DOPAを少量投与したという。
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