icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

精神医学15巻3号

1973年03月発行

雑誌目次

巻頭言

実践の場にこそ科学としての精神医学を

著者: 高橋良

ページ範囲:P.222 - P.223

 この標題の意味はきわめて当り前のことであり今さら何をと人は思うであろうし,筆者もいささか気恥かしい思いであるが,しかし最近種々の機会にこのことの重要さを痛感しているので,あえて掲げさせてもらった次第である。
 たとえばここ数年「精神科医療・精神医学」という併列用語的表現がよく使われるようであるが使う人の頭の中には精神科医療と精神医学とは互いに排他的な領域であるか,またはそうでないにしても相補的な独立領域であり,併列して用いないと精神医学的活動全部を包含しないという考えがあるのであろうか。または精神科医療は治療的実践面を,精神医学は理論面を表現するものと考えるのであろうか。しかし精神医学は本来臨床医学であり,実践なしでは存在しえないし,診療実践も科学的理論なしでは医療ではなくなってしまうのは当然である。したがって医療も医学も同一活動であり,またあらねばならないはずである。従来の我国の医学が反省されねばならない点は正に医学と医療が分離している面が多かったからである。それ故悪しき意味における医療と医学を表現しようとして併列的用語を用いるならば尤もであろうが,現在の自己の活動についても精神科医療・精神医学と表現することは批判的立場に矛盾することになろう。そして従来の医学を反省し批判することは容易でも,自己の診療実践の中に真の科学を打ち立てることは容易なことではない。

展望

小児期の行動特徴の成人期における転機—問題行動の長期予後を中心として

著者: 阿部和彦 ,   天富美禰子

ページ範囲:P.224 - P.235

I.まえがき
 母親が子供の行動について精神科医や小児科医を訪れる場合,必ずしもその行動が本人または家族員に現在直接与える影響だけを考慮して来院するものではない。むしろ最近では,そう大した問題でもないと考えられることでも,平均から目立った行動特徴があれば,放置しておけば将来に困ったことが起きるのではないかと考えて受診する場合が増加したようである。これは家事の近代化により母親が育児に関して考える時間が多くなったことや,マスコミの影響などによるものであろうが,「治療より予防」と先を考える現代医学の傾向に通じ,好ましい態度とも考えられる。
 このような母親の相談相手になるためには,さまざまな行動特徴ないし問題行動の自然経過や長期予後に関して調べておかねばなるまい——と考え,筆者らはこの方面の文献を集めていた。それをまとめたのがこの展望である(短期予後については3年前の展望41)で少しまとめている)。

研究と報告

対人恐怖症について

著者: 塚本嘉寿 ,   高垣忠一郎 ,   山上雅子

ページ範囲:P.237 - P.242

I.はじめに
 この小論は比較的定型的と思われる1対人恐怖症例を中心に,はじめに対人恐怖症者に特徴的な対他者関係の形成の仕方をとりあげ,ついで伝播性(自分の症状が相手に移ってしまうのではないかという不安)の問題を考察しようとするものである。

Muリズムの家族出現

著者: 越野好文 ,   大塚良作

ページ範囲:P.243 - P.250

 (1)Muリズムを有する患者29人の家族47人(父;13人,母;26人,同胞;8人)の脳波記録を行なった。
 (2)発端者以外に他に少なくとも1人以上のMuリズムを有する家族構成員が認められたのは14家族であった。
 (3)同胞ならびに両親と比較的多勢の家族構成員の脳波を記録できた12家族のうち8家族に発端者以外にもMuリズムを有する人がいた。
 (4)父親では13人中1人のみにMuリズムを認めた。母親では26人中12人に,同胞では8人中5人にMuリズムを認め,この両者にMuリズムの出現が多いことが知られた。
 (5)Muリズムは遺伝によって規定されるものが多く,その遺伝形式として常染色体優勢遺伝を考えた。
 (6)脳波パターンの家族出現・遺伝について文献的考察を加えた。

神経性腹部緊満症の1例—その精神療法過程について

著者: 成田善弘

ページ範囲:P.251 - P.256

I.緒言
 腹部緊満を示す疾患のうち,器質的原疾患がきわめて軽微であるにもかかわらず著明な腹部の膨隆と腹壁の緊張をきたし,しかもその症状が患者の心理的要因により変動しやすい症例を,亀田5)は神経性腹部緊満症と名づけている。著者は,7年間以上にわたって,持続的な高度の腹部緊満を示した,亀田のいう神経性腹部緊満症の典型例と思われる1症例に対して,精神療法的接近を試みたのでこれを報告し,若干の問題点を述べて,この病態の理解にささやかな一寄与をなしたい。

分裂病様症状を呈したWerner症状群の1例

著者: 大沢郁子 ,   大内田昭二

ページ範囲:P.257 - P.266

 われわれは分裂病様精神症状とWerner症状群の多彩な身体症状が並行して増悪改善を示す1症例を数年余にわたって診る機会を得た。本例は14歳時分裂病と診断され治療を受けた後,23歳より若年性白内障,糖尿を指摘され,24〜25歳夏の2回にわたり幻覚妄想状態,自我障害,緊張症状群などの分裂病様精神症状を呈した。しかし①不機嫌,易怒,執拗の特徴を有し,②精神症状寛解時の人格像は情意減弱,自閉などの特有の分裂病欠陥状態はみられず,③精神症状増悪時は脱毛,皮膚の角化萎縮変化,無月経,糖尿,血中Ca値低下などの身体症状が並行して消長を示した。また本例は別に痙攣発作,不随意運動発作,偽死反射様無動状態の発作などの症状も示したが,これらは血中Ca値低下と並行して慢性副甲状腺機能低下にもとづく可能性も考えられた。また上記3項から本例の分裂病様症状は分裂病過程にもとづくものではなく症状性のものであると解した。また身体症状の一部が軽快再燃の経過をとることから,Werner症状群の障害を早期老化なる退行機制で説明することは困難であろうと批判を行ない,症状精神病に関する一寄与となることを願ってここに詳細な報告を試みた。

二重盲検法によるClozapineの精神分裂病に対する薬効検定

著者: 谷向弘 ,   乾正 ,   高橋尚武 ,   金子仁郎

ページ範囲:P.269 - P.284

 化学構造上も,薬理学的にも,従来の強力安定剤とはかなり異なった特徴をもつclozapineの精神分裂病に対する臨床効果を,thioridazineを対照薬とした二重盲検・並列比較試験法によって検討した。1週間のplacebo投薬ののち,実薬を固定可変法で10週間投薬し,経過を観察,諸検査を施行した。試験を完了したものはclozapine群41例,thioridazine群43例,途中で脱落したものはそれぞれ4例および1例であった。
 得られた結果をで検定法,直接確率計算法,一部は平均値の区間推定法を用いて解析したところ,全般的な分裂病像の改善率において,clozapine群がthioridazine群より危険率10%水準で有意にすぐれていた。また病型では緊張型,経過類型では慢性欠陥(荒廃)移行型,罹病期間では発病後3〜5年と10年以上の症例群,発症より治療開始までの期間が6カ月未満の症例群で,clozapine群の改善率がすぐれていた。clozapineによる治療で高い改善率のみられた症状は幻覚および自我障害,言葉数の異常,接触性,妄想,感情の異常などで,言葉数の異常,接触性,疏通性の改善率はthioridazine群のそれを有意に上まわった。

資料

東京女子医大神経精神科における患者の推移統計(昭和25〜45年,1950〜1970)—第1部 外来初診患者の推移統計

著者: 末田田鶴子 ,   高津明實 ,   上條節子 ,   山下恵子

ページ範囲:P.285 - P.295

I.緒言
 統計的研究は,それが明瞭,確実な資料にもとづいて,一定の基準に下に行なわれたものであれば,いずれの学問においても重要なことで,とくに臨床医学にあっては,日々の診療経験の集積を改めて一望の下に振り返ることが必要である。私ども精神医学の領域でも事情はまったく同じであるが,不幸にして私どもの領域では,これまでのところ真の統計的研究がきわめて少ない。しかもある限られた短期間内のある特定疾患について行なわれたものが多く,長期間にわたって神経精神科領域の全疾患を取り上げたものは見当らない。今回私どもは昭和25年千谷教授就任以来昭和45年末に至る期間の外来初診および入院の患者について統計的観察を行なった。この観察は21年の長期にわたり,しかも多数症例を対象とした点,年次の推移に伴いつつ診断基準の変遷を見たが,その時ごとにはほぼ同じ基準の下に行なわれたものであることなどから,私どもの精神医学の推移を如実に物語る貴重な資料の提出と信じるし,いわゆるEinheitspsychoseに迫る重要な示唆となるであろう。今回はその第1部として外来初診患者についての調査結果を報告する。

紹介

和田豊種先生記念講演—大阪大学医学部神経科同窓会—和風会—における講演から—昭和24年6月12日

著者: 金子仁郎

ページ範囲:P.297 - P.302

 「精神医学」誌上に,これまで「先覚者にきく」と題して,何人かの先生方を囲む座談会がもたれた。これらの記事を興味深く読むうちに,和田豊種阪大名誉教授が終戦後間もなくの頃に,教室の同窓会の席上で記念講演をされ,明治・大正の精神医学について,また阪大精神神経科の成り立ちについて講演された記録が教室に残っていることを思い出した。昔の精神医学をしのぶよすがにもと思い,紹介する次第である。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?