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文献詳細

雑誌文献

精神医学15巻4号

1973年04月発行

文献概要

特集 痴呆の臨床と鑑別

てんかん性痴呆

著者: 岡本重一1

所属機関: 1関西医科大学神経精神医学教室

ページ範囲:P.403 - P.407

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I.はじめに
 昨今,てんかんに関して,ややもすれば単なる神経疾患のごとく,発作だけに注目されがちである。しかし,てんかん患者にとって,発作よりもむしろ精神障害の方が,その社会生活に妨げとなる場合の多いことを顧みる必要がある。ただ,てんかんには原因的にも現象的にもあまりにも多種多様のものがあること,H. Gastaut1)がてんかんの国際分類を提案した意図にもみられるようにその分類や名称が不統一でそれに伴う精神障害の考察を妨げていること,脳疾患にもとづく場合,てんかん性障害と脳疾患自体による非特異的な障害との区別が必ずしも容易でないことなどが,てんかん性精神障害の実態を捉えにくいものとしている面もある。
 かつて,H. W. Gruhle2,3)はてんかんを痴呆型(demente Form)と非痴呆型(nicht demente Form)に区別しているので,まず,彼のいうDemenzに触れてみたい。Gruhleはてんかんにおける痴呆の主徴候として,統覚能力の脆弱性apperzeptive Schwächeをあげ,さらに,その具体像として次のごとく記載している。患者は,万事に領解も習得も容易ではなく,反応もきわめて緩慢遅鈍になる。これらは一見して顕著ではあるが辛抱強く検査してみるとそれほどでもない。記憶,心像は長年にわたり保存されているが,ただ追想に手間取り,徐々に真の記憶障害も現われる。執念深く,ささいなことを長年にわたって根にもつ。領識の障害とならんで表現も困難となり,著しく迂遠になる。杓子定規で,小心翼々とし,極端なほど瑣事に拘泥する。敬虔で信心に凝る反面,偽善的で自己満足的でもある。末期には,人格的に荒廃し,自発性がなく,あらゆる動作が緩慢遅鈍で,関心の範囲がなんらかの日常的習慣に限られ,しかもそれを軽視すると激しい亢奮状態を招く。また,初期には,刺激性が亢進し,気むずかしく,怒りっぽく,突発的に粗暴な反応が起こりやすくなる。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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