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雑誌目次

雑誌文献

精神医学16巻1号

1974年01月発行

雑誌目次

巻頭言

新年に思う

著者: 秋元波留夫

ページ範囲:P.2 - P.3

 このところ,段々ひどくなっている精神科医療のどろ沼のような状態に,はたして今年は明るい光がさしこむだろうか。今年もまたどうにもならなかったという嘆きが避けがたいとしても,一人の精神科医として,精神科医療のかかえている難問がいくらかでも打開のいと口を見いだすことを願って新年の所感を記すことにする。
 まず私自身の身辺から話をはじめよう。長い大学での生活を離れて,国立武蔵療養所に移って8年になる。この間に,大学に居た時に考えていた国立医療機関のあるべき姿と国立武蔵療養所との間の大きなギャップをいつも思い知らされながら,すこしでも良い医療ができるようにして,患者と家族に喜こんでもらえる病院にしたいと願いつづけてきた。

展望

Phantom Spike and Wave Complexないし6/sec Spike and Wave Complexについて

著者: 田中恒孝

ページ範囲:P.4 - P.18

I.はじめに
 Bergerが1929年に頭皮上から脳波を記録することに成功して以来,脳の各種疾患や病態と脳波との関係が追求されて,臨床脳波学は著しい発展をとげた。今日では臨床脳波に関するすぐれた著書が数多く出版されており,その枚挙にいとまがないほどである。しかしこのような状況の中にあって,今なお十分な解明がなされていない波形やパターンも少なくない。phantom spike and wavecomplexもまたその中の1つに数えられている。
 ここでphantom spike and wave complexに関する研究の歴史を,本波形を中心に取り扱った報告をもとに概観してみる。この波が注目されるに至ったそもそもの発端は,1950年にWalter74)が小発作波型に似ているが,それより速くてしかもきわめて小型の棘徐波複合をphantom petit malとして記述したことに始まる。その後1955年にMarshall37)がwave and spike phantomと呼んで小論文を著わし,1957年にThomas68)がより詳細な報告を行っている。しかし,本格的な研究がなされるようになったのは1960年代も後半に入ってからのことで,このころに,Hughesら23)(1965),Tharp69)(1966),Silverman58)(1967),Thomasら71)(1968),Small59)(1968),Smallら60)(1968),Bennetら1)(1969)などがしだいに研究の成果を報告している。当時の研究は主としてphantom spike and wave complexの実態を明らかにしようとしてなされたもので,出現頻度とその性比,年齢分布,波形の特徴,賦活の影響,臨床症状との関係などが追求されている。この中でSmallのみは精神病患者を対象として臨床相関の研究を行った。1970年代に入ると,Olsonら46)(1970),Olsonら47)(1971),Milsteinら39)(1971)などの報告がみられ,ここではphantom spikeand wave complexと精神症状との関係を追求する動きがさかんになっている。

研究と報告

対人恐怖症における愛と倫理(その1)—「恥じらい」から「恥辱」へ

著者: 内沼幸雄

ページ範囲:P.19 - P.29

I.序論
 対人恐怖症の病態変化の中軸に「恥」→「罪」→「善悪の彼岸」という倫理的問題がみられ,しかもこの変化とともに対人恐怖症がきわめてパラノーイッシュとなっていくことは,たいへんおもしろいことだと思われる。対人恐怖症と敏感関係妄想との類縁性についてはすでに高良3)が論じており,最近では笠原ら2)も臨床的な観点からパラノイアとの関連を指摘しているが,欧米で敏感関係妄想またはパラノイアといわれる臨床型と比べて対人恐怖症はわが国に比較的多くみられるばかりでなく,対人恐怖症の概念自体がかなり拡張可能であり,極言すれば人間とは対人恐怖的存在であるとすらいえなくはないのであって,実際,たとえばサルトルの『存在と無』などで対人恐怖症的な存在論が展開されているのを見れば,そのような拡張は可能であり,そうだとすれば,わが国の臨床は対人恐怖症をめぐってパラノイアというきわめて人間的に興味ぶかい問題を考究する格好の地盤となり得ると考えられる。
 ところでパラノイア問題は,現代の精神医学においてはなはだ肩身の狭い思いをさせられており,パラノイアなど存在するかどうかすら疑問であると見なす論者もいるくらいである。私は,このような考えは精神病を疾病概念の中にほうり込んでかえりみない誤った臆断の現われと見ているが,それはともかくとして,このような現状をもたらしたものにクレペリンのDichotomieがあった。ところがおもしろいことに,このDichotomieの片割れである実体概念としての精神分裂病あるいは躁うつ病の存在にすら疑いが投げかけられているのが,現状なのである。としてみれば,パラノイアが存在するかどうかという実体の有無を問う前に,この混乱をもたらしたクレペリンのDichotomieとこのDichotomieを生み出したパラノイア問題の歴史そのものをあらためて検討しなおすことが必要であろう。そのさい,たんに学説の紹介や批判的な考察や概念の置き換えを行うにとどまらず,具体的な症例に基づいて積極的な観点を提示することが大切であり,以下の考察では,まず対人恐怖症をとおして私の観点を明らかにし,その後で精神医学におけるパラノイア問題の意義を論考していこうと思う。第1報および第2報で対入恐怖症の精神構造を愛と倫理の面から考察し,第3,4報でそれとの関連のもとにニーチェの病跡に検討を加え,最後にパラノイア問題を取り上げることにする。なお,ニーチェの病跡の部分は雑誌『思想』に『精神医学からみたツァラトゥストラ』9)という題名で先に出たので,記述を簡略化するために,予定を変更して『思想』誌の論文をふまえたうえでこの論文をあらためて書き直すことにした。この論文の病跡の部分ではニーチェ自身の精神医学的考察を中心にすえ,さらにその後出た安永の三島由紀夫論11)をも参考にしながら,両者の比較病跡学的検討を行うことにする。

十勝沖地震時における精神障害者群の反応—正常者群,結核患者群および一般内科患者群との比較

著者: 大平常元 ,   加藤正實 ,   福田守孝

ページ範囲:P.31 - P.39

I.はじめに
 地震時における精神障害者の反応についての記載は,必ずしも多いものではないが,その中で,Araska地震時における体験から,精神障害者が,むしろ「まとまった行動をとり,協調的であった」というBowman, K. M. 1)の短信的な記載は,われわれには印象深い記憶として残っていた。
 昭和43年5月16日午前,われわれはたまたま十勝沖地震を,函館市内の一精神病院内で体験し,精神障害者の行動を観察することができたが,やはり意外に混乱が少なかったという印象を受けたのである。

ある女子死刑囚の特異な精神障害について—第2報 診断と治療

著者: 稲村博

ページ範囲:P.41 - P.53

I.診断
 刑務所でみる精神病像が一般社会でのそれに比べて色彩が異なる場合の多いことは古くから注目されてきた。一般社会での精神病者に慣用される診断基準だけでは不十分なことがしばしばである。
 本症例Y. H. の病像は微妙なさまざまの特徴をそなえているため,これまで専門医によって拘禁精神病,wahnhafte Einbildung,Paranoia,Paraphrenieなど多くの診断名が与えられ,論議がなされてきた。

抗精神病薬療法における抗パーキンソン剤併用の再検討

著者: 松下昌雄 ,   風祭元 ,   高塩洋 ,   新井進

ページ範囲:P.55 - P.62

 現在,精神科の日常の臨床でひろく行われている,抗精神病薬と抗パーキンソン剤のほとんど全例に対しての長期間にわたる同時併用の必要性を再検討するため,37名の入院患者について,それまで抗精神病薬と併用していた抗パーキンソン剤を中止し,その影響を検討した。
 (1)36名中11例(30.6%)に錐体外路症状の臨床的な悪化が認められ,この他の6例(16.7%)に,錐体外路症状評価尺度の上でのみの評点の悪化が認められたが,残りの19例(52.8%)には錐体外路症状の明らかな変化はみられなかった。
 (2)抗パ剤中止により悪化した錐体外路症状は,手指の振せん,筋強剛,表情の硬さ,姿勢・歩行の異常などが多かった。
 (3)抗パ剤中止により錐体外路症状の悪化した症例と,悪化しなかった症例との間には,年齢,罹病期間,抗精神病薬による治療期間,抗パ剤の使用量などの点では明らかな差を認めることができなかったが,悪化は抗精神病薬が多量に投与されていた症例に多い傾向がみられた。
 (4)以上の所見から,抗精神病薬の投与の際に,錐体外路症状の出現の予防のために全例に対して抗パーキンソン剤を長時間にわたり併用することは,再検討を要するものと考えられる。

慢性幻覚妄想状態を伴う結節硬化症の1例

著者: 小片富美子 ,   原田憲一

ページ範囲:P.63 - P.67

I.はじめに
 結節硬化症は現在ではその出現頻度として稀な疾患とは考えられていない。とくにその臨床症状を持つものの診断は容易であって,その身体的所見に関する報告は数多い。
 しかし本疾患の精神症状に関連した報告は精神薄弱をめぐる問題を除けば比較的少ない。その中では情動障害や緊張病性興奮状態が主として観察されていて,慢性の幻覚妄想状態についての報告はきわめて稀である。

多彩な精神症状を示した一過性脳虚血発作の1例

著者: 武居弘 ,   山本貫一郎 ,   唐住輝

ページ範囲:P.69 - P.75

I.はしがき
 一過性脳虚血発作(transient cerebral ischemicattacks)は,Marshall11)(1972)によれば,退行期の脳血管障害を伴う患者に,脳虚血の結果,一過性かつ局所性の脳機能障害を来たすが,完全に回復する疾患であるという。この疾患の重要性としてつぎの2点が挙げられている。まず,より重篤な脳血管障害がやがて来る予告であること,経過が一過性であるところから,血動態因子が働いていると考えられ,この因子の修正により脳卒中を予防しうる可能性があることの2点である。このように,脳血管障害の予防の観点からは,きわめて重要な疾患ではあるが,この疾患の病因論は一様でなく,したがって,その定義や範囲も人により多少異なっている。
 「脳血管障害の分類と概要」に関する米諮問会の報告4)(1958)によれば,本疾患はさらに3項目に細分されている。

禁断症状を示した慢性Chlordiazepoxide中毒の3例

著者: 林泰明 ,   東恒子 ,   門田耕一

ページ範囲:P.77 - P.82

I.はじめに
 昭和38年に睡眠薬の一般市販が規制されるようになったが,これにかわっていわゆるminortranquilizerが乱用される傾向にあることについて,早くから警告がなされていた。なかでもmeprobamateについては,奥村らの禁断症状を呈した症例の報告1)以来,多数の慢性meprobamate中毒の症例が報告2〜4)されてきた。
 そして昭和46年に至ってようやくminor tranquilizerも厚生省により要指示薬に指定されたが,その効果については,なお十分な注意と努力を要するものと思われる。

Pick病の精神症状に対するL-DOPAの影響

著者: 貝谷壽宣 ,   加藤秀明

ページ範囲:P.85 - P.88

 臨床症状よりPick病と診断した61歳,男子に約6カ月間L-DOPAを投与し,無為および衝動行為の改善が約3カ月間みられた。その後投与を続けるも無効となった。これらL-DOPAによる改善症状とPick病および黒質病変の関係について若干の考察を加えた。

Medazepam(S-804)の終夜睡眠脳波に及ぼす影響

著者: 稲永和豊 ,   磯崎宏

ページ範囲:P.89 - P.94

I.はじめに
 Benzodiazepine系誘導体の1つであるmedazepamは,Sternbachら13)により合成されRandallら11) Rocheのグループによって開発されたもので7-chloro-2,3-dihydro-1-methyl-5-phenyl-1H-1,4-benzodiazepineなる化学式を持っている。本剤は他のbenzodiazepine系誘導体と同じく,主として中枢神経に作用するが,なかんずく興奮あるいは一般的な情動反応を主に司っている大脳辺縁系に影響を及ぼすといわれている6)。また動物実験においては末梢自律神経系に対して交感神経系には影響なく,副交感神経系の弱い遮断作用を有することが確かめられている8,11)。臨床的には不安緊張除去,静穏に対してとりわけすぐれた特性を有し,その他感情調整,自律神経安定化作用も有していることが認められている。
 しかし,われわれが前回行ったmedazepamの光眼輪筋反射に及ぼす影響を検討した結果では,medazepamは従来のbenzodiazepine系の薬物とは催眠作用があまりない点で差異があるように思われる3)。今回われわれは,このようなmedazepamの特性をさらに詳しく調べるために,medazepamを正常者に投与して,終夜睡眠脳波を検討したので報告する。

古典紹介

Phillipe Pinel:Traité Médico-Philosophique sur l'Aliénation Mentale, ou la Manie:Section VI. Principes du Traitement Médical des Aliénés

著者: 藤井薫 ,   長岡興樹

ページ範囲:P.95 - P.107

I.医学書のすべてが,哲学者達のきびしい批判に耐えうるか
 モンテスキューは主張している。「医学書,肉体のもろさと技術の力についてのこの記念碑,それは最も軽い病気を論ずるときですら戦慄を起こさせ,それほど我々に死を現前させているものであり,一方しかし,それが,あたかも人間が不死であるかの如く,薬の効力について語る時は,全き安心感を我々に与える」と。
 この鋭く人を刺すようなことばは,我々の図書館を飾りあるいはその重荷とさえなっている医学に関する膨大な著作に適用するにまことにふさわしいものであるが,manieに関する著作の中で次のような空虚なことばが繰り返されるのを聞く時に,その名言は想起されえないであろうか。すなわち,脳の不調和,体液排除の前のその調整,悪性物質の座,その物質の所謂誘導,あるいは排除など。

海外文献

Psychopathologische Besonderheiten bei Kranken mit Encephalomyelitis disseminata (“Multiple Sklerose”),他

著者: 浅井昌弘

ページ範囲:P.18 - P.18

 多発硬化症(M. S.)の精神症状についてCharcotはヒステリー反応との関係を論じたが,その後よく言及されるのは上気嫌(多幸性)や抑うつ傾向,気分易変性などの感情障害とpolysklerotische Demenz(Seiffer 1905),euphorische Demenz(Marburg 1936)であり,Bender(1950)は202例中の63.8%になんらかの精神変調をみたという。
 著者は1956〜1971年の16年間にBonnのFriedrich-Wilhelm大学に入院し,M. S. と診断された773例(男310,女463)の病歴から精神症状について検討した。患者の平均年齢は38.5歳(14〜76歳)で,全症例につき精神症状を6つの範疇に分けてみると,①精神的に著変なし363例(47.0%),②上気嫌,多幸性134例(17.3%),③抑うつ,不快気分87例(11.3%),④気分易変,刺激性99例(12.8%),⑤精神病的なもの(psychotisch)5例(0.6%),⑥痴呆,人格変化85例(11.0%)となり,約半数の例では精神的に著変なく,症状があるものではEuphorie-Syndromが多かった。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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