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雑誌目次

雑誌文献

精神医学16巻10号

1974年10月発行

雑誌目次

巻頭言

精神病院改革について

著者: 岡田敬蔵

ページ範囲:P.840 - P.841

 これまでは,精神病院は一般の人にとっては,危険な治らない病者を収容するところ,したがって自分たちには縁のないところと考えられ,精神病院は一般社会からはかけはなれた,閉鎖した別の社会をつくりあげ,他方病院内部でも,精神病院というところはこういうところなのだという,そのなかだけに通用する観念が定着していた。そのために,そのかぎりでは,精神病院をめぐって波風の立つことは少なかったといえよう。
 最近,精神病院のことが新聞記事として大きく取り上げられることが多くなった。このような現象を生み出している社会的要因としては,社会一般にはなお依然として,精神病院は危険な恐ろしい病者を隔離しておく特別なところだという考えが強く支配しているとはいえ,とくに人格を尊重し,束縛抑圧からの人間解放を強く希求する時代思潮の流れが,これまでの精神病院のあり方に対して強い批判の目を向けてきた,また,世人もそれに共鳴するようになったといえよう。

展望

芸術療法の発展と,その現況

著者: 岩井寛

ページ範囲:P.842 - P.854

I.はじめに
 近来,精神科治療は,精神病院におけるグループ療法やレク療法をはじめとして,精神分析療法,ロゴテラピー,自律訓練法,行動療法,交流分析などの精神療法に,日本独自の精神療法である森田療法や内観療法を加え,百花撩乱の趣がある。
 このような精神科治療のなかで,芸術療法はその療法の特殊性もあって,他の療法ほどには急速な普及をみせなかったが,最近ではこの療法に関心を抱くものも多くなり,また,実際に治療技法としてこれを用いる者も増加した。そこで,芸術療法ができあがってきた歴史を考え,芸術療法という概念を明らかにしつつ,現在実際に施行されている芸術療法の在りかたに照明をあて,さらに今後の芸術療法発展の予測を試みることにしよう。

研究と報告

うつ病者の膵機能について

著者: 宮田祥子

ページ範囲:P.855 - P.862

I.はじめに
 早期診断が困難である膵癌の初期ならびに経過中に精神症状——とくにうつ状態,不眠,不安,涕泣発作,不穏,自殺意図など——が出現することは外国においては,しばしば報告1〜11)されており,膵癌の診断に役立つ症状として注意を払うべきだとさえいわれている。膵癌ほどしばしばではないが,再燃性膵炎,慢性膵炎,膵石その他の膵疾患においても精神症状を伴うものがあるといわれる5,10,12〜17)。さらに内分泌器管としての膵臓を考えるなら糖尿病のさいにうつ状態18)を示すものが多いことも注目されねばならない。著者はこれまで主として内科外来に現れるうつ病者に注目してきたが19),そのさい,膵障害を疑わせる症状を示すものが相当数あるという印象を持ち,うつ病者の膵機能について調べてみる必要があると考えた。いまだ少数例にすぎないがうつ病患者に膵機能試験を行い,若干の知見を得たので報告する。

条件反射学的方法によるラットのうつ病モデルの研究

著者: 永山治男 ,   木戸淳彦 ,   森田武東 ,   高橋良

ページ範囲:P.863 - P.869

 (1)ラットを用い,自発移動運動量を指標に,音を条件刺激,tetrabenazineを無条件刺激として条件づけを行った。
 (2)一定回数強化後,条件刺激のみで一定時間続く運動静止期が出現するようになった。
 (3)Imipramineを前投与すると,この運動静止期は不完全化した。
 (4)以上により,これを人間のうつ病の動物モデルと考えた。

幻影肢痛の精神力動について

著者: 長沼六一 ,   山内洋三 ,   秋本辰雄

ページ範囲:P.871 - P.878

 骨肉腫などの診断のもとに下肢の切断術を受け,その後に幻影肢痛の生じた患者について,とくにその中の1例を中心に患者の対象関係に注目して,精神力動的観点からその発生メカニズムについて考察した。
 (1)幻影肢痛は奇妙で独特な形容で表現され,いわゆる現実の痛みとは違うと訴えられるが,それは強い現実感をもって体験され,患者を極度の苦悩と焦躁のなかに陥らせている。
 (2)幻影肢現象自体,身体像の存在を確証する事象であるが,その痛みの訴えにも「ひき裂かれる」,「焼け火箸を突っ込まれる」といった表現がなされ,明らかにそれまでの完全で健全な身体像の崩壊を示す形容がある。
 (3)幻影肢に痛みの生ずる患者は,かつて彼のself-esteemと社会的役割を高めるために,とくに身体像のなかでも四肢の完全性を過大評価する傾向にあったといえる。
 (4)そうした状態での四肢の切断は,自らの対象である自己の身体に向かっては,その完全性を失ったことの抑うつや,さらにまた侵されるのではないかという再発への不安を呼び起こす。
 (5)一方外界の対象である身近かな愛する人に対しては,その人を失うのではないかという不安や,すでに拒絶され見捨てられたことへの怒りや恨みの感情を生ぜしめる。

特異な精神症状を呈したMarfan症候群の2例

著者: 上野武治 ,   高橋三郎 ,   原岡陽一 ,   塚本隆三 ,   大宮司信 ,   伊藤直樹

ページ範囲:P.879 - P.886

I.緒言
 Marfan症候群は,骨格系,眼,心臓血管系などの中胚葉性組織に遺伝性の発育異常をきたす疾患として従来から知られているが,さらに内分泌系,泌尿器系,呼吸器系などにも異常をもたらし,全身にきわめて多彩な症状を呈することがしだいに明らかになってきている。
 しかし,精神・神経学の領域では,精神薄弱やてんかんをもたらす症例が主に報告されているが,それも少なく,また他の精神症状を呈する症例もきわめて稀であり,このためMarfan症候群において精神・神経症状を呈することは比較的少ないといわれている。

炭酸リチウムの抗うつ作用とLithium血清濃度

著者: 渡辺昌祐 ,   鍋山敏朗 ,   忠田正樹 ,   中島洋子 ,   帆秋孝幸 ,   中屋耿爾 ,   藤田浩文 ,   久郷敏明 ,   岡本繁 ,   石野博志 ,   橋本迪子 ,   杉山信作 ,   平田邦樹 ,   大月三郎 ,   小川暢也 ,   中野重行

ページ範囲:P.887 - P.892

I.序
 われわれは,炭酸リチウムの抗うつ作用を昭和42年以来exploratory studyで検討し,中等症ないし軽症のうつ病治療に有効であるとの印象を持ったので17),引き続いて多施設参加のもとに,各種うつ状態の患者を対象として二重盲検比較試験による群間比較を行い,炭酸リチウムの抗うつ作用とimipramineのそれを比較した。炭酸リチウム150mg:imipramine 25mgの対等薬量で5週間にわたって比較すると,まったく同等の抗うつ作用を認めた。すなわち3週間後には約62%,5週間後には約80%の改善率を示した。炭酸リチウムの抗うつ作用は,うつ病のいかなる臨床的,遺伝生物学的な視点からみても,特異なlithium responder群はみられなかった。
 Lithium治療にさいしては,1〜3週間で84%になんらかの随伴症状ないし副作用を認めた。そのうち口渇,振せん,多尿・頻尿,頭重・頭痛が多かったが,3週を越えると随伴症状ないし副作用が減少した。食欲不振,悪心などは約30%に認め1〜5週にわたって持続した18)

古典紹介

—Adolf Meyer—The Dynamic Interpretation of Dementia Praecox

著者: 西丸四方 ,   大原貢

ページ範囲:P.895 - P.906

 近年にいたるまで,科学的な医学の望みはあらゆる病的状態をなにかの解剖学的損傷にさかのぼらせることにありました。そうすると「これまでにはいまだいかなる病理学的所見」もない大きな領域が残るのは避けられず,混とんは避けられないのではないかという疑念が残ります。けれども最近十年間の趨勢と生物学的血清反応による経験と,特に精神医学の進歩は,生体事象の機能的および生物学的考察方法を非常に強めました。それゆえ病理学の仕事は主として諸々の因果連鎖とか条件を実験の正確さによって決定することにあるように思えます。そうすると傷害というものは,力動的発展すなわち原因(あるいは条件)と結果という概念で理解される広い範囲の中の単なる事実とか症状という価値しかないのです。
 このような機能的な考察方法によると諸事実をわれわれが見るがままに配列してもよいという大きな利点があるのです。

解説

アドルフ・マイヤーのことども

著者: 西丸四方

ページ範囲:P.906 - P.908

 マイヤーは1866年スイスのニーダーウェーニゲンに牧師の子として生まれ,大学時代チューリヒでブルクヘルツリのフォレル(1848〜1931)の影響を受け,卒後1年ロンドンで教育を受けジャクソン(1835〜1911)とトマス・ハクスリ(1825〜1895)の進化説の影響を受け,つぎにパリで神経学者デジェリーヌ(1849〜1917)に学び,フォレルのもとで爬虫類の前頭脳の論文を作り,1892年アメリカに移住し,イリノイス,ウォーセスターの州立病院で病理解剖を行い,しだいに精神病のほうに向かい,1896年ヨーロッパに遊び,折からのクレペリン(1856〜1926)の体系をいちはやくも取り入れたが,単位疾患としてではなく反応型reaction setとしてであり,発生もクレペリン的疾病学としてではなく,全生活史total life situationからの力動性による曲げられた適応不全としての反応型を考えた。1901年ニューヨーク州立病院,1904〜1909年ニューヨーク州立大学教授,1910年以後ボルチモアのジョンズ・ホプキンズ大学教授となり,1950年その地で死去した。マイヤーの説は了解心理学であるが,心因反応的な動機と反応の直接のつながりではなく,現在の状況論のごとく近い過去からのやや慢性の全状況で「内因性」精神病が了解的に「誘発」されるのでもなく,精神分析のごとく幼児体験とその無意識の葛藤でもなく,全生涯における状況による適応不全からくるhabit disorganisationを考え,早発性痴呆というのは患者が自分を助けるためのinadequate attemptであり,妙な症状というのは古いprotective reactionへのregressionであり,治療はsuppressよりもguideであるとする。このあたりはジャクソンの影響である。life situationは精神的なもののみではなく,心身全体としてのtotal organismへの心身的影響を考える。これはどうしても漠然としたものになり,正確厳密に因果関連,発生関連がわからないので,コモンセンス的,素人的見方となる。しかしクレペリンのノゾロギーにしてもフロイト(1856〜1939)の精神分析にしても,厳密正確にみえてはなはだしい独断で,フロイトは無意識という存在の証明されないものの仮定のうえに立っており,クレペリンも中毒性疾患という空想の上に立っていて,たとえば奇妙な常同運動を空想的脳病のあらわれとするのは元来おかしなことであるから,マイヤーの考え方をあいまいな素人的考えとけなすにはあたらない。フロイトはクラーク大学のスタンリー・ホール(1844〜1924)によってアメリカに紹介され,1909年にアメリカに渡って講演した。
 マイヤーはreaction setとしていわゆる単位疾患的なものを反応型として命名し,精神身体的全体の正常な働きをergasia(ergon働き)と名づけ,mel(部分),hol(全体),dys,a,thym,,paraなどの接頭詞をつけ,精神分裂性反応はparergasia,精神医学はpathergasiology,心身統一体の学問はergasiologyあるいはpsychobiology(1915)としたが,この表現はあまり流行しなかった。

資料

精神病者保養所の群生していた2つの地域について

著者: 小林靖彦

ページ範囲:P.909 - P.916

I.はじめに
 昭和10年(1935)12月31日現在の菅修の調査1)によると,全国の精神病者保養所は,表1に示すごとくで,石川と京都の2つの地方の14が目立つ。
 そこで,この2つの地方を比較してみようと思った。

紹介

抗精神病薬使用に伴う神経学的症状群—アメリカACNP・FDA合同特別委員会の報告

著者: 風祭元

ページ範囲:P.917 - P.922

まえがき
 現在,精神分裂病の治療に広く用いられているphenothiazine系薬剤やbutyrophenone系薬剤などのいわゆる抗精神病薬antipsychotic drugs(神経遮断剤neuroleptic drugs)の長期間の使用が,さまざまな望ましくない身体的な副作用を引き起こすことが最近とくに注目されている。これらのなかには,肥満,内分泌障害,肝障害,眼や皮膚における色素沈着,心電図異常で現される心臓障害,原因不明の突然死,非可逆的な錐体外路性不随意運動などが含まれている。このなかで,遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia),あるいは非可逆性口部ジスキネジァ(irreversible oral dyskinesia)などと呼ばれている,口周部の不随意運動を主とする錐体外路系症状群は,この症状群の多くが抗精神病薬の長期間投与後にはじめて現れること,多くは非可逆性であること,その出現頻度が精神病院の長期入院患者のなかではかなり高いこと,その病態生理の解明が抗精神薬の作用機序とも関連して興味を持たれていること,および現在のところ的確な予防法や治療法が確立されていないことなどの理由で,精神科薬物療法の大きな問題の一つとされている。わが国においても,八木1)が1968年に最初の症例報告を行って以来,この2〜3年のうちにいくつかの研究報告2〜4)や啓蒙的な綜説5,6)が発表されており,昭和48年になって厚生省でも副作用情報7)(No. 1)としてこの間題を取り上げ,一般医家の注意を喚起するとともに,薬品の使用説明書の一部を改訂し,遅発性ジスキネジアに関する項を追加した。
 アメリカにおいても,遅発性ジスキネジアの問題は早くから臨床精神医学の大きい問題であった。1967〜1968年にAyd10)およびCrane11)がそれぞれ広汎な綜説を発表して,この症状群の重大性を訴えたが,それ以来,とくにこの数年間に本症状群の頻度,症状学,病態生理,治療,予防などについての多くの研究が発表され12,13),向精神薬療法における本症状群の重大性が広く認識されてきたように思われる。

海外文献

Antiparkinsonian Agents and Depot Phenothiazine/Concerning the Measurement of Vigilance Levels

著者: 片山義郎 ,   鹿島晴雄

ページ範囲:P.869 - P.869

 錐体外路症状(EPS)出現予防のため,Depot phenothiazine(fluphenazine enanthate:F. E.)治療患者にも抗パ剤(AP)が常時併用されることが一般的であるが,その常時併用の意義に関する評価は十分には行われていない。たとえば,向精神薬の経口投与の場合には3ヵ月以上APを併用したさいには,その後APを中止してもEPSの出現することはほとんどなく長期AP併用の意義がないことがわかり(Dimascio,1971),MassachusetsではAP使用量が350万錠(1969年)から150万錠(1972年)へと激減しているという事実が報告されている(Dimascio,1973)。以上のようなことから,本論文の主題はDepot(注射)使用のさいのAP使用とEPS出現との関係におかれている。すでにAPを常時併用しF. E.(1回量1.5ml,平均13.2日間隔で注射投与)による治療が5〜39ヵ月間行われている患者41名を対象に,無作為につぎの3群に分類して,AP使用方法とEPS出現との関係を検討している。Ⅰ群(13名):EPS出現時にのみAP投与,Ⅱ群(13名):注射後5日間のみAP投与,Ⅲ群(15名):従来どおり毎日AP投与(なお,APとしてはbenztropine mesylateを用い2mg 1日2回の投与法に統一し,それでもEPSが出現した場合には1mgを筋注する)。またEPSとしてはfacial expression,tremor,akinesia,rigidity of arms,akathisia,dystoniaの6症状を指標におのおののseverity(intensity)を0〜3の4段階に分け評価検討の対象とした。毎週チェックし評価尺度でscoreを出した結果,12週間の経過からはEPSの出現頻度に関し(total scoreからは)3群間に有意差はなく,intensity‘3’(重篤なEPS)に関してのみ,Ⅱ,Ⅲ群よりもⅠ群に多く有意差が認められたとのことである。したがって,AP併用は重篤なEPS出現の予防にはなり得るであろうと結論している。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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