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雑誌詳細

文献概要

古典紹介 解説

アドルフ・マイヤーのことども

著者: 西丸四方1

所属機関: 1愛知医科大学神経精神医学教室

ページ範囲:P.906 - P.908

 マイヤーは1866年スイスのニーダーウェーニゲンに牧師の子として生まれ,大学時代チューリヒでブルクヘルツリのフォレル(1848〜1931)の影響を受け,卒後1年ロンドンで教育を受けジャクソン(1835〜1911)とトマス・ハクスリ(1825〜1895)の進化説の影響を受け,つぎにパリで神経学者デジェリーヌ(1849〜1917)に学び,フォレルのもとで爬虫類の前頭脳の論文を作り,1892年アメリカに移住し,イリノイス,ウォーセスターの州立病院で病理解剖を行い,しだいに精神病のほうに向かい,1896年ヨーロッパに遊び,折からのクレペリン(1856〜1926)の体系をいちはやくも取り入れたが,単位疾患としてではなく反応型reaction setとしてであり,発生もクレペリン的疾病学としてではなく,全生活史total life situationからの力動性による曲げられた適応不全としての反応型を考えた。1901年ニューヨーク州立病院,1904〜1909年ニューヨーク州立大学教授,1910年以後ボルチモアのジョンズ・ホプキンズ大学教授となり,1950年その地で死去した。マイヤーの説は了解心理学であるが,心因反応的な動機と反応の直接のつながりではなく,現在の状況論のごとく近い過去からのやや慢性の全状況で「内因性」精神病が了解的に「誘発」されるのでもなく,精神分析のごとく幼児体験とその無意識の葛藤でもなく,全生涯における状況による適応不全からくるhabit disorganisationを考え,早発性痴呆というのは患者が自分を助けるためのinadequate attemptであり,妙な症状というのは古いprotective reactionへのregressionであり,治療はsuppressよりもguideであるとする。このあたりはジャクソンの影響である。life situationは精神的なもののみではなく,心身全体としてのtotal organismへの心身的影響を考える。これはどうしても漠然としたものになり,正確厳密に因果関連,発生関連がわからないので,コモンセンス的,素人的見方となる。しかしクレペリンのノゾロギーにしてもフロイト(1856〜1939)の精神分析にしても,厳密正確にみえてはなはだしい独断で,フロイトは無意識という存在の証明されないものの仮定のうえに立っており,クレペリンも中毒性疾患という空想の上に立っていて,たとえば奇妙な常同運動を空想的脳病のあらわれとするのは元来おかしなことであるから,マイヤーの考え方をあいまいな素人的考えとけなすにはあたらない。フロイトはクラーク大学のスタンリー・ホール(1844〜1924)によってアメリカに紹介され,1909年にアメリカに渡って講演した。
 マイヤーはreaction setとしていわゆる単位疾患的なものを反応型として命名し,精神身体的全体の正常な働きをergasia(ergon働き)と名づけ,mel(部分),hol(全体),dys,a,thym,,paraなどの接頭詞をつけ,精神分裂性反応はparergasia,精神医学はpathergasiology,心身統一体の学問はergasiologyあるいはpsychobiology(1915)としたが,この表現はあまり流行しなかった。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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