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雑誌目次

雑誌文献

精神医学16巻2号

1974年02月発行

雑誌目次

巻頭言

ニセ医者論

著者: 竹村堅次

ページ範囲:P.114 - P.115

 精神病院告発ばやりの昨今だが,告発者が堂々と公開の論陣を張り医療界の耳目を集めたとたんそれが実はニセ医者であったとなると話が少しばかりややこしくなる。もう13年も前のことだが,筆者が直接見聞し今でも十分通用する話と思うので,あえて披露する。
 当時,日本医師会雑誌に武見会長あての「非医師経営の一精神病院の実態について」という長文の投稿が掲載された。悪徳精神病院を真正面からとらえ,O医師と名乗っていた(実は偽名であることがあとでわかったが)。精神病院ブームが頂点に達したころだったが,たぶん告発第1号ではないかと思う。紙数の関係でその全容をお伝えできないが,一部を紹介すると「S病院に入院中の患者の大部分は精神衛生鑑定医の診断を受けておりません。普通の家庭でちょっと様子がおかしいから見て欲しいといっては連れてくる患者です。私が診て分裂病や躁うつ病その他の精神病ではない患者もあります。それに誰れ彼の区別なく電撃療法やインシュリン・ショック療法を施こすのです。医師の認可もないのに保護室を乱用するのです(中略)。感情問題で電気を乱用する場合もあります。一度入院すると絶対に退院を認めない。信書の発受を禁じ屋外運動も禁じます。これで苦情を申し出ると電撃で脅かす,余りにも不合理だと認めましたので,赴任後,根本的な改革を断行し,県衛生部と協議のうえ徹底的に改革のメスを入れましたところ,突然解雇の言い渡しを受けました(中略)。私達が誠意をもって患者に接触し(中略)指導し医療に努めることを,保険診療報酬請求にプラスにならないと誹謗するごときは,完全に精神病院経営の資格のない者といわねばなりません。かかる不徳義な者に将来,病院を経営させることは日本医療界の不名誉であり,かつ社会正義の立場からも放置してはならない社会悪の一つであろうと存じます(下略)」。

展望

CNVと精神医学

著者: 一條貞雄

ページ範囲:P.116 - P.131

I.はじめに
 CNVとはcontingent negative variationの略であり,1964年に英国の神経生理学者Walterらが,はじめて報告した脳波上の現象である105)。その実験方法は図1にも示すように,2種類の刺激を用い,第1の刺激S1(フラッシュ)が与えられた一定時間後に,第2の刺激S2(音)が出されたら,被験者ができるだけ速くボタンを押すなどの反応Rを行わせるものである。原法では6ないし12回の試行分が,誘発反応加算装置で加算平均されるが,記録上には第1の刺激S1のあと反応Rが行われる間に,ゆっくりとした陰性(上向き)の電位変動が現われ,これがCNVと呼ばれるものである。そして,このようにゆっくりした電位変動(slow potential change)は,脳波計の時定数が十分長い状態で観察できるものである。
 この実験では,第1の刺激S1に対しては被験者は何もしないのであり,第2の刺激S2にはじめて反応を起こすのであるが,その実験状況は,たとえば陸上競技などの「ヨーイ,ドン」に相当する。そこには,スタートの遅い人もあれば,またピストルの音が鳴らないうちに走り出す人もあるかもしれない。また,「ヨーイ」の合図のあとにピストルの引き金を引いたが,一音が鳴らなかったらどうであろう。火薬をつめ替えてふたたび引き金を引いたが,また鳴らず,2回,3回とピストルが鳴らなければ,競技者にとってはやれやれという気持になるであろう。どうもピストルのほうが具合いが悪そうだというので,別なピストルに取り替えると,競技者は今度こそはという気持になるであろう。競技者にはつぎに来たるべきものに対して確率論的な予測が働くのであり,そのような状況での脳波を記録しようとするのが,WalterらのいうCNVである。

研究と報告

要素別視覚刺激による脳波賦活—視覚性てんかんを中心として

著者: 高橋剛夫 ,   塚原保夫

ページ範囲:P.133 - P.143

I.はじめに
 視覚系刺激による脳波賦活法の現況をみると,開・閉瞼賦活を除けば,ストロボスコープによる白色点滅刺激(photic stimulation,PS)賦活14)のみが一般的であって,色,図形に対する考慮はほとんど払われていないといっても過言ではない。白色点滅刺激だけでなく,赤色23,24)-点滅光4,5,12),ある種の幾何学的図形6,7,19,20),さらに眼瞼10,11)ないしは眼球運動18)が発作波賦活効果を有することが実証されたのは,比較的最近のことである。
 われわれは過去4年間,図形(過敏)てんかん(pattern-sensitive epilepsy)の研究19,20,29)に端を発し,開瞼した一定状態で点滅,色,図形の視覚刺激の中に含まれる3要因を組み入れての視覚感覚賦活(visuo-sensory activatlon),および暗室での開閉瞼と開瞼させておいての眼球運動による視覚運動賦活(visuo-motor activation),さらにはその両要因を組み入れた視覚感覚運動賦活(visuo-sensory-motor activation)の3者を含めた,われわれの提唱する視覚系の要素別刺激による脳波賦活(以下要素別賦活)法を開発し,それに基づいた視覚性てんかん(visual epilepsy)の一連の臨床・脳波学的研究を行ってきた19〜38,40,41)。ここで用いた要素別賦活という脳波賦活法の基本は,視覚刺激に含まれる脳波賦活のための有効な要素は何であるかをまず追求する点にある。その後に要素別または各要素の組み合わせ刺激による脳波賦活を行えば,脳内における視覚性てんかんの発作発現機序についての理解をより深めることができるであろう。

対人恐怖症における愛と倫理(その2)—「恥辱」から「罪」へ

著者: 内沼幸雄

ページ範囲:P.145 - P.154

I.はじめに
 対人恐怖症の病態変化にみられる「恥」→「罪」→「善悪の彼岸」という倫理的問題のうち,「恥」の段階については第1報で考察した。その主たる。論点はつぎの点に要約される。
 (1)対人恐怖症の初期経過は,「恥じらい」→「恥辱」への変化として把握される。

ある女子死刑囚の特異な精神障害について—第3報 人間学的考察

著者: 稲村博

ページ範囲:P.155 - P.175

 症例の概要で述べたことに若干の補足を加えながら,社会文化的観点と宗教的観点に分けて,人間学的考察を試みたい。

橋本病における精神分裂病様症状

著者: 高橋三郎 ,   宮本宣博 ,   吉村学

ページ範囲:P.177 - P.186

 代表的な自己免疫疾患の1つである橋本病に併発した精神分裂病様精神症状を呈した1例について報告した。その精神症状の特質および経過を検討して,幻視,幻聴,血統妄想,情動障害など精神分裂病様特徴のほかに,脳器質性精神症状,症状精神病としての特徴を見出し,これが橋本病に由来する粘液水腫の結果起こったものと考えた。
 内科外来患者中,甲状腺腫,放射性ヨードによる甲状腺機能検査所見および自己免疫抗体価の測定により橋本病と診断された23症例の精神症状を検討した結果,本格的な精神分裂病様症状を呈したものはない。9例になんらかの精神症状を認めたが,これは自己免疫過程よりも甲状腺機能により起こっているものと考えた。
 最近発展してきた精神分裂病の自己免疫疾患説について若干の考察を試み,橋本病に関してはいまだになんら精神分裂病との直接的関連は見出されていないことを確認した。

5年間一言も話さなかった心因性緘黙症—心理機制と治療的考察

著者: 荒木冨士夫

ページ範囲:P.187 - P.192

 特異な緘黙状態を呈した1症例の治療経過を報告し,心因性緘黙症の心的力動を考察した。神経症全般に用いられる第一次疾病利得を「話すことができない」心性と考え,第二次疾病利得を「話さないほうがかまってもらえる」心性と考えることで,緘黙症の治療に役立つ理解が得られることを論じた。

睡眠導入剤の臨床薬理学的研究—Flurazepamの光眼輪筋反射に及ぼす影響

著者: 田中正敏 ,   平井知子 ,   稲永和豊 ,   磯崎宏

ページ範囲:P.193 - P.202

I.はじめに
 光眼輪筋反射photopalpebral reflex(PPR)の発生機序に関しては種々の議論があるが,いまだ不明確なところが多く,PPR波型構成成分についての解釈も不分明である。
 しかし,PPRが臨床的には,意識レベルの変化,情動の変化,各種薬物の投与などの影響で微妙に変化していくことを著者らは報告してきた2〜6,10)

古典紹介

Wilhelm Griesinger:Über psychische Reflexactionen:Mit einem Blick auf das Wesen der psychischen Krankheiten〔Archiv fur physiologische Heilkunde, Bd. II;76, 1843〕(その1)

著者: 柴田収一

ページ範囲:P.203 - P.212

 やかましい医学の時事問題を離れて,これから精神現象の大河が流れ過ぎる静かな岸辺に読者を御案内しよう。お断りするまでもないとは思うが,このさい案内役には,あの恐ろしい専門語だらけの哲学の手などは借りず,経験的な生理学に属する見解や概念の簡単明瞭な灯火を頼りにすることを,最初にお約束しておく。これ以外に方法はないのだ。―精神的有機生体と称される有機生体の諸現象の展開とその解釈とは,有機的存在であるからこそ,われわれの見るところ,専ら自然科学者にのみ委ねられるべきである。そしてこれら現象の細部に至るまで,有機組織体化された質料の多くの別の諸現象のために近代生理学が創り出し,発展させたのとまったく同じ諸概念,諸法則が適用されることは,これから詳しくお目にかけるとしよう。
 神経系における反射作用の概念は,上述の生理学的概念に属する。これはすでに遡ってWhyttおよびHallerの見解中にある概念で,J. W. Arnoldの指摘するとおりすでにUnzerが明確に,さらにわれわれのみるところではReil注)がもっと明確に知っていたとはいえ,これを経験的に根拠づけ,この概念の持つ重要性を余すところなく証明した功績は,M. HallおよびJ. Müllerのものである。反射概念は,熱意をもって仕上げられた神経生理学から,異常に速やかに,医師たちの科学用語ないしは術語として採用されるに至り,そして概念が深められたばかりか広く拡大もされたために,すでに一種の日常語となってしまった。といってもそれは,本来日常茶飯の陳腐なものという意味ではなく,時代に適した必要な思想が普遍的市民権を獲得して学問上の共通財産となった時に,真価を発揮して勝利を誇ることになるような日常性なのである。

追悼

古川復一先生を偲ぶ—略歴と主な業績

著者: 鈴木喬

ページ範囲:P.214 - P.214

略歴
 明治37年5月24日,兵庫県城崎郡竹野村に生誕。京都府立第二中学校,第一高等学校を経て昭和8年3月東京帝国大学医学部を卒業され,直ちに精神病学教室に入局された。
 ついで東京府立松沢病院,神奈川県立芹香院,海軍航空技術廠航空医学部,神奈川県曽我病院に勤務。昭和30年茨城県立内原精神病院長として赴任,昭和35年新構想により友部病院を創設された。

古川復一君を偲ぶ

著者: 仁志川種雄

ページ範囲:P.215 - P.215

 古川君は昭和8年,東京大学医学部を卒業して精神科教室に入局した。昭和48年10月25日,うっ血性心不全で,水戸市の自宅で御家族の手厚い看護を受けて,その多彩な生涯を終わった。40年余にわたって精神医学の途一筋に歩んだのである。
 教室入局当時は三宅教授,荒木講師,鰭崎医局長の時代であった。私は昭和4年に入局し10年に松沢病院に転じたが,古川君はそれより一足先きに行ったのではなかったか。私は昭和16年に千葉の荒木先生の教室に移ったが,古川君は17年に芹香院へ行ったらしい。大学,松沢と計8年ぐらい,私は古川君と医局生活を共にしたことになる。この間共に机を並べた方々を思い出すままに数えて見ると30数名で,そのうち半数に近い方々が故人となって居られる。

古川復一先生を偲ぶ

著者: 長山登

ページ範囲:P.216 - P.216

 昭和30年代の後半,民間の強い反対を押し切って,当時としては新しいセンスの,しかもしょうしゃな県立友部病院をつくられた,故古川先生のご功績は万人の認めるところでありますが,それに加えて私たちがいたく感激しましたし,先駆者として尊敬していることは,家族も治療チームのメンバーであるという考えを,職員にも,また家族にも徹底させるとともに,病院治療のすべてを家族に公開したということであります。
 素人に何がわかるのか,口をはさむな,患者のことは病院に委せておけ,といったことがごく当り前のこととして通用していた時代に先生は,家族は精神科の治療について知る権利がある,また病院はそれを知らせる義務があるという考えのもと,12の病棟全部に「病棟家族会」をつくり,治療者と家族の対話や家族の一日看護体験などを試み,家族の意識の変革を実践されました。

海外文献

Western Humanism, Modern Liberal Politics, and Psychiatric Training:Friends or Foes?,他

著者: 墨岡孝

ページ範囲:P.143 - P.143

 アメリカにおける精神医学のなかでニューレフトが目指している役割および現行の精神医学教育についての精神分析的立場からの検討と批判が述べられている。
 現在,学生たちや精神科レジデントたちのなかで従来からの精神分析的方法に対する拒絶反応が出ている。彼らは,このような社会変革の時代にあっては分析学にみられるような叙情的な叙述は自己満足にすぎないと考えている。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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