文献詳細
研究と報告
日本における機能性精神障害の診断ステレオタイプ考究—計量精神病理学の立場より
著者: 林峻一郎12
所属機関: 1慶応義塾大学医学部精神神経科 2パリ(ルネ・デカルト)大学医学部
ページ範囲:P.265 - P.277
文献概要
近年,精神障害の疾病分類の新しい整理検討が国際的な視野のもとで,活発に行われている。WHOの国際疾病分類の数次にわたる改訂は周知のことだが,かつてStengel, E. が述べたように19)「この分野での精神医学界の状況はchaoticである」という評言が現在でも続いていることは否めない。当然ながら,精神医学上の諸概念や諸用語は,それを生んだ文化的思想的文脈と結びつき,統合的な整理は困難であろう。だが一方では,かつてMeyer, J. E. が集成したように9),各国の分類表を列挙してみると,多かれ少なかれ同一の用語を用い,大体の一致をみている。この事実は,伝統コンテクストのいかんを問わず,現実の臨床場面ではほぼ一定した骨組みのなかで精神現象を把えていることを意味し,異常現象すなわち精神障害の疾病としての位置づけも同じように理解される。
しかし,このchaoticな状況にもかかわらず,現実的には一致した体系を持つという2つの分類上の現象は,実はまったく矛盾している。つまり,ここでは分類という行為自体のなかに,論理学上の矛盾した混合法を採用していることを意味し(V節参照),また,それぞれが独創的な概念であったはずの諸用語が,現実の要請のもとで,微妙な変容を受けているはずである。
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