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雑誌目次

雑誌文献

精神医学16巻5号

1974年05月発行

雑誌目次

巻頭言

原典を求めて

著者: 中田修

ページ範囲:P.446 - P.447

 私は近ごろ年のせいか,術語やその概念などの起源,成り立ちといったものに強く心が惹かれるようになった。これに関連した私のいくつかの経験を披露するが,それが読者の方々に多少とも役立てば幸いである。
 私は30年ほど前,医学部の学生として恩師吉益脩夫教授(当時は講師)の精神病理学の講義を聴いた。講義のなかで,retrograde Amnesie(逆向健忘),anterograde Amnesie(前向健忘)とともにkongrade Amnesieというものを教えられた。これは,たとえば意識障害があった期間,に対応する健忘で,いわば最もありふれた健忘である。その後私はこの語に一向にお眼にかかったことはなかったし,それについて調べたこともなかった。ところが,昨年たまたま別のことを調べていたら,K. Schneider13)(518頁)に出ているのがわかった。そしてその後Peters12)にも載っているのがわかった。

展望

日本における精神身体医学の動向

著者: 石川中 ,   飯田宏 ,   加我君孝

ページ範囲:P.448 - P.462

I.はじめに
 「日本における精神身体医学の動向」という課題で,回顧と展望を試みてみた。当初は精神身体医学の日本における学説史のようなものをまとめるつもりであったが,作業を進めている間に,そのような野心的労作を作ることが至難なことがわかり,今回はその足がかりを作るにとどまってしまった。しかし,日本はもちろん,外国でも,このような試みはほとんどないといってよい。日本における精神身体医学の歴史も,やがて,20年になろうとしている時にあたり,この試論が,学界に一石を投ずることになれば幸いである。多くの同学の人々からの批判と,訂正をいただければ幸いである。

研究と報告

飲酒を問題とする入院患者の多要因分析

著者: 那須弘之 ,   村尾旬子

ページ範囲:P.463 - P.471

I.はじめに
 最近,精神病院にアルコールによる入院患者が増加し,これら患者の医療処遇をめぐって種々の問題を生じ,その早急な解決が望まれている。
 アルコールによる精神障害は,一元的,一時的なものでなく,多要因によるプロセスとしてしか把え得ないため,その調査分析は常にある程度のあいまいさを伴わざるを得ないが,われわれは単一病院で,比較的短期間に,比較的多数の患者を臨床的,統計的に調査する機会を得た。このことは,一面単一病院という偏りを持つ欠点はあるが,他面,空間的,時間的に集中された利点を有し,最近のアルコールによる入院者の実態把握と,その問題解決に寄与し得るものと考え,報告することとした。

対人恐怖症における愛と倫理(その5—最終回)—パラノイア問題

著者: 内沼幸雄

ページ範囲:P.473 - P.489

 ニーチェの病跡について,これまでの報告で取り上げた研究も含めてその診断をあげると,進行麻痺,薬物中毒,精神分裂病,躁うつ病,パラノイア,神経症,精神病質と,精神医学疾病分類のほぼ主たるものが網羅されている32)。このうち進行麻痺説が最も有力と一般には受けとられているが,少なくとも1888年末以前に関しては,先にあげた5人の代表的見解のうち3人のそれは否定的見解に傾いており,またすでに論じたことから明らかなように,残りの2人の論者の説もきわめて根拠薄弱と見なしてよさそうである。さらにまた1888年末の急激な精神的崩壊に関しても,その診断の根拠を今の時点から振り返って検討してみれば,それが確定診断でないということは,現代精神医学の常識に属する事柄である。確実なことは,ヤスパースが論じているように,脳器質的疾患であったということだけである。薬物中毒については,少なくとも禁断症状を含めた慢性中毒を思わせる積極的な証拠は何もない。問題はその他の診断に関してである。同じ対象を論じながら,あまりに見解が分かれるようでは,精神医学の鼎の軽重を問われるというものである。
 病跡学的研究でしばしば診断が分かれるのは何故か。対象が特殊なためなのか,それとも対象を扱う精神医学に問題があるのか。対象に責任を転嫁することはいともたやすいことであるが,その判断には慎重な熟慮を必要とする。そもそも病跡学的対象の特殊性とは何なのか。

若年患者の短期精神療法

著者: 山口隆 ,   轟俊一

ページ範囲:P.491 - P.500

I.はじめに
 近年,精神障害者の早期発見と早期治療を目指した,各種の専門的な技術が逐次開発され,着実な進展を続けている。このような状況の中で,精神療法の領域においては,短期精神療法(簡便な心理療法10);以下,短期療法と略称),集団精神療法,非言語的精神療法などが,長期精神療法(以下,長期療法と略称)や精神分析療法をしのぐほどに重視されてきつつある。周知のごとく,短期療法とは,長期療法と対比する治療法であって,brief psychotherapy,short term therapyの術語のほかに,confrontation technique,short term dynamic psychotherapy,recompensation therapy,crisis resolution,supportive care programなど多くの類義語を持つ。その定義は必ずしも一定してはいないが,しかし,この方面の主要研究者の見解を総合すれば1,2,9,10,13,15,17,18,21),第1には,長期療法に比較して,短時日の間―通常は半年もしくは1年以内―に終結される療法であり,第2には,患者の直面している問題や当面の状況をさしあたり改善し解決する治療法であると定義し得る。なかでも,治療期間の短さに重点を置いた第1の定義よりも,治療の深さについての第2の定義,つまり,当面している問題や状況に焦点を置くということのほうが一層重要であるように思う。また,この意味では,短期療法と称するよりも,"簡約精神療法"と命名するほうが,なお一層適切ではあるまいかと思われる。
 井村(1952)10)は,短期療法について以下のように記載している。"標準型の分析療法が多大の時間を要するので,これを簡素化する試みが,ここ十数年のあいだにしきりに企てられたが,それらの方法を総称して簡便法または簡便な心理療法と呼んでいる。この共通の特色として,つぎの諸点を数えることができよう。1)自由連想法の使い方に弾力性を持たせる。症例によっては自由連想を行わないで,対面しながらの応対ですませる。2)現在の生活に関連した感情的葛藤に重点を置いてその分析を試みる。3)相手の実生活に指示を与えたり,干渉したりして,それを治療の一部分として利用する。4)転移反応を,面接の回数を増減したりして,コントロールする"。また,"面接の回数と治療の全期間は,標準型の分析療法よりはずっと少ない。1,2回の面接で治った例もある。しかし,簡便法といっても,平均して,延べ数十時間の面接を要するのが普通である"。

短報

セネストパチーに対するSulpirideの使用経験

著者: 天草大陸

ページ範囲:P.502 - P.503

I.はじめに
 抗幻覚・妄想作用,抗不安,抗抑うつ作用が強力な一方,パーキンソン症状や自律神経症状などの副作用が少なく,加えて意識の水準を低下させず,知的能力に影響を与えない1〜3)ことから生活療法,精神療法的アプローチにさいしても既存の薬剤より有利な特徴を持つことが認められているsulpirideをセネストパチー患者に使用してみたのでその結果を簡単に報告する。

古典紹介

Ewald Hecker:Die Hebephrenie:Ein Beitrag zur klinischen Psychiatrie

著者: 赤田豊治

ページ範囲:P.505 - P.524

 精神障害を臨床的に観察すれば,最初一瞥しただけで,それぞれに特有な経過様式により互いに明瞭に区別される,二つの主要部類のあることがわかる。第一の部類においては一度出現した状態型が,全疾病経過を通じて存続するのに対し,第二の部類は特徴として一連の様々な状態像,すなわち一定の継起に従いメランコリー,マニー,錯乱(Verwirrtheit)から痴呆(Blödsinn)に至る諸段階を示すのである。後者の部類はまた,多数の特有な病像を包含するが,分類に対する反対者たちが精神疾患の,とにかく唯一の存在する形態であると見做そうとしているのが,この部類なのである。にもかかわらず彼らも,「精神病者の全身進行麻痺」“allgemeine progressive Paralyseder Irren”を一つの特殊な疾病形態として立てざるを得ないのであるが,その然るべき十分な理由は正につぎの点に存する。すなわちこれらの諸例は事実,非常に特有な経過様式,多くの顕著な定型的症候およびきわめて明白な予後を持つので,疑いなく境界截然たる一つの臨床的疾病像を成すものであって,この進行麻痺の病像は同様にメランコリー,マニーなどの諸段階を,多かれ少なかれ規則的継起をもって経過するところの,いわゆる定型精神病Vesania typica(Kahlbaum)から截然と区別されなければならない,という点である。
 全身麻痺の精神的徴候のうち,とくに特徴的なものとして,Westphalが,精神的衰弱(geistige Schwäche)の早期出現,そのはなはだ速やかな進行を挙げたのは間違っていない。メランコリーとかマニーという初期の段階においてすでに,迅速に進行する痴呆の色彩が混入してくる。つまり精神的崩壊は,ほとんど発病と同時に開始するのである。―この確かに顕著な徴候は,そのほかには進行麻痺とあまり共通点を持たない,もう一つの疾病形態にも現われることを,Kahlbaumはその講義の中で最初に注意したが,それは彼の立てた破瓜病(Hebephrenie)である。これは同様にさまざまの状態像を示す精神障害の一形態であって,思春期の年頃に引き続いて始まり,この時期に進行する心身発育の大きな飛躍と密接に関連するものである。

紹介

中国の精神医療

著者: 菊地潤

ページ範囲:P.525 - P.533

I.はじめに
 私は,中国日本友好協会の招きによって,昭和48年5月27日から6月21日に至る期間,日本中国友好協会(正統)中央本部の編成による日本医学者訪中友好代表団の一員として,中国各地のいくつかの医療施設の見学と医療関係者との意見交流の機会を得た。
 以下,精神科医療,とくに精神病院の状況を中心に,それに関連する医療活動のあらましを紹介する。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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