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文献詳細

雑誌文献

精神医学16巻6号

1974年06月発行

文献概要

誌上シンポジウム 日本の精神医療についての4つの意見

ヤマモト教授の論文を読んで感じたこと

著者: 片山義郎1

所属機関: 1慶応義塾大学精神神経科

ページ範囲:P.598 - P.601

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 日本文化に造詣の深いヤマモト教授は,昨年も(48年5月)Joint Meeting of The American Academy of Psychoanalysis and The Japanese Psychoanalytic Societyにおいて“Suicides of Two Japanese Novelists”と題し,三島・川端両作家の自殺をめぐり比較文化的考察を発表された。その時深い感銘を受けた私は,この度も大きな期待をもって論文を読ませていただいた。はじめ―“対論を”―と求められたが,大局的にヨミこなせる力量が私にはないので,“読後感”というかたちで感じたままの愚見を述べることで勘弁願った。というのも,精神科医として僅か8年のキャリアしかなく,そのうえ精神医学そのものが不勉強なため,身についた精神医的視野とてきわめて狭隘なものであり,精神医療という広野(荒野?)を見渡せる展望台に立ち得るには,さらに多くの体験と強い関心とが必要と思われたからである。しかし一方では,私なりのclinical realityもこの広野の一隅を占めてそれなりに8年間という歳月を経過している。この間,無為無関に日を送ったわけでもないので,その場を吹きぬける寒風に肌を刺され,漂う悪臭に悩まされた苦い体験も多々ある。氏の論旨と照合しながら,こんな体験を折りまぜ忌憚のない意見を多少述べてみることにした。
 まずはじめに,氏が表3(Number of Beds for Psychosis)を主柱に日米の精神医療についての比較文化的考察を行ったものとすると(私にはそう解釈されたが),方法論的には誤謬があるのではないかと思われる。つまり,日本の精神病院病床数(表1)とアメリカの分裂病入院患者数(表2)とを表3に表示し,それぞれが意味合いを異にした数値であるにもかかわらず,それを日米の精神病床数の数値としてとらえ,年次推移的な観点からtranscultural evaluationの対象にしている。この点にまず疑問を感じた。次に,分裂病者が精神病床数をある一定の比率で占有しているとの推定のもとに表3を用いたとしても,やはり杜撰すぎるきらいがある。となると,すでに論旨に妥当性を欠き,それについて論及することもまた無意味なことに帰すると思われる。それなりの配慮はもちろんされているものと思われるが,この点に関する論述がされていないので戸迷いを感じた。念のため信憑性のおける統計表(1969年現在)注)を調べると,精神病院病床数(USA 487,634:日本 177,567),人口1万対病床数(USA 30.3:日本 23.7)と表示されている。この点からもやはり,氏の論法に疑義を感じたわけである。しかし,本稿に寄せられた主旨はこんな点を問題にしているとは思えない。そこで,論旨に反映されたものは“日本通”の氏の先入観(見)と体験に由来するもので,表3における日米の数値的比較はその論拠として直接的意義をもたないものと私は解釈し,以下氏の論旨に触れながらわが国の精神医療の一端につき敷衍してみることにする。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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