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雑誌目次

雑誌文献

精神医学16巻7号

1974年07月発行

雑誌目次

巻頭言

国公立病院と民間病院の機能分担について

著者: 小林八郎

ページ範囲:P.642 - P.643

 昨年の秋,私は金沢で国立精神療養所長・自治体精神病院長合同研修会で,表題のようなテーマについて話すように日本精神病院協会から求められた。私が選ばれたのは,多年の間,国立精神療養所に勤務した後に民間病院の院長となって数年を経たという経歴のためであった。
 機能分担の問題は,民間の精神科医の日常会話にはよく出るが,意見をまとめて公的に主張されることは少ないように患う。国公立病院側では,勤務医が話題にすることはほとんどないが,管理者はこの間題を取り上げることは好きなようで,げんに約10年前にもこの研修会でこの主題が取り上げられたそうである。

シンポジウム 向精神薬療法の現状と問題点—Dr. Frank J. Ayd, Jr. を迎えて

序文

著者: 風祭元

ページ範囲:P.644 - P.644

 現在の精神医療において,抗精神病薬,抗うつ薬,抗躁薬,抗不安薬などによる向精神薬療法は心理・社会面からの働き掛けとともに治療の中心的な位置を占めており,また向精神薬の開発・導入と臨床的治験の集積が,精神疾患の病態の解明に大きく寄与していることは誰しも否定できない事実である。しかし,向精神薬についての今までの多くの研究にもかかわらずその作用機序は依然として不明であり,また臨床における使用法についても,解決されていない多くの問題が残されている。
 このたびアメリカの臨床精神薬理学の第一人者であり,また精神科薬物療法に関する多くの啓蒙的な論文の著者としても知られているFrank J. Ayd, Jr. 博士が来日された機会に,日本とアメリカにおける向精神薬療法の臨床の現況と問題点,とくに治療の技術的な問題を中心として日米の精神科医が腹蔵のない意見を交換するために,このシンポジウムが企画された。

向精神薬療法の技術

著者: ,   風祭元

ページ範囲:P.645 - P.650

I.はじめに
 現在われわれ医師は,情緒障害および精神障害を持つ患者の治療のために,きわめて多くの種類の神経遮断剤または強力トランキライザー,感情調整剤または抗うつ薬,それに穏和トランキライザーを持っている。これらのおのおのの薬は,正しく選択された患者に,適当な用量を,それらの薬の治療効果を発揮するのに必要で十分な長さの期間にわたり処方された場合には,きわめて有効なものである。これらの薬物を,有効に,安全に,そして経済的に用いる技術は4段階から成っている。これらはつぎのようなものである。

精神科薬物療法についての調査—横浜市医療扶助患者の場合

著者: 酒井正雄 ,   森口祥子 ,   斎藤惇

ページ範囲:P.651 - P.659

I.はじめに
 精神科領域にはじめてchlorpromazineが導入されてから20年になる。この20年の間に実に多種類の向精神薬が現れ,個々の薬物についても,また薬物療法そのものについても数多くの研究がなされてきた。しかし,毎日の診療の中で断片的に見聞する限りにおいては,この20年間の先人たちの研究の成果が現在の精神科医療の面でどれだけ生かされているのか,首をかしげざるを得ないことにしばしば遭遇する。たしかに,わが国でも個個の向精神薬そのものについての研究や,臨床治験についての報告は数多いが,薬物療法そのものについての研究はほとんど見当らないし,薬物療法の現状についての調査は皆無に等しい。
 横浜市民生局厚生部保護課は昭和46~47年度にわたり,生活保護法に基づいて横浜市から医療扶助を受けている患者についての調査を行った。われわれはその調査の一部に参加したのであるが,この調査のうち,精神病院入院患者の受けている薬物療法の内容は,上に述べたわれわれの疑問への解答の手がかりともなるし,薬物療法の現状を考えるうえに一つの資料ともなるのでここに発表するしだいである。

向精神薬の副作用—わが国の二重盲検比較試験の資料より

著者: 融道男

ページ範囲:P.659 - P.664

I.はじめに
 向精神薬の投与によって生ずる副作用には,可逆的ではあるが頻度の高いものと,稀にしか生じないがしばしば重篤な結果をもたらすものとがある。ここでは前者の,通常にみられる副作用の種類と頻度について調べた結果について報告したい。薬物の効果を調べるために最も信頼ある方法と考えられている二重盲検比較試験法は,副作用を調査するためにもその有効性を失わない。
 一薬剤について複数の資料を用いることの多い,歴史の古い向精神薬を選ぶ結果となった。調べた結果,副作用発現率の幅が大きいこと,少数例であること,副作用のリスト・アップの方法が研究毎で異なることを考え,データは統計的に処理しなかった。したがって以下に述べる結果は,かなり予備的なものであることを断っておきたい。またわが国の資料をアメリカのそれと比較することを試みたが,これも限られた条件下における一つの試みでしかない。

日本における遅発性ジスキネジアの発生状況について

著者: 伊藤斉

ページ範囲:P.664 - P.669

I.はじめに
 Neurolepticaを続けて使用しているうちに出現する遅発性ジスキネジアについて,1959年にSigwaldらがDyskinesia facio-linguo-masticatriceの名称でまとめて報告して以来多くの研究者によっていろいろな報告がなされており,今般来日されたDr. AydもInternation al Drug Therapy News Letterでいく度か発表をしており,今日の講演のなかでも取り上げておられるので,追加発言として「日本における薬剤性遅発性ジスキネジア」について簡単に述べて話題に加えたい(なおこの原稿の内容についてはすでに,八木,荻田,三浦とともに日本医事新報No. 2582,昭481)その他に詳しく報告してあり,重複する部分も多いが,Dr. Aydの講演との関連においてあえて再度述べさせていただいたしだいで,上記既発表論文も参照されたい)。
 本邦では風祭がBostonにおいてJ. O. Cole,C. P. Chienらと精力的な調査研究を遂げており,国外でも木下ら,鳥山ら,そしてわれわれのグループの八木,荻田などの調査結果が報告されている。

討論

著者: 風祭元 ,   ,   酒井正雄 ,   融道男 ,   伊藤斉

ページ範囲:P.670 - P.673

 Dr. Ayd まず第一に,酒井,融,伊藤三博士のご発表はいずれもきわめて興味深く,また重要であったと考えることを申し上げたい。

研究と報告

退行期におけるうつ病の発病条件としての家族関係

著者: 杉本直人 ,   高橋隆夫

ページ範囲:P.675 - P.681

 退行期のうつ病の発病には,退行期以降に一般的に認められる家族関係における問題条件が重要な役割を演じている症例を報告し考察した。
 家族関係における問題条件として,独身生活,日本の旧家族制度における「家」という考えに基づいた養子縁組における舅・姑と養子との関係,また舅・姑と嫁との関係,さらに日本の旧い家族制度の考えからすれば当然のことと考えられる老年者と若夫婦との同居という諸条件に注目し,これらをうつ病の発病との関連において考察した。 現代の日本における社会・経済的条件(就職,住宅事情)が老年者の孤独な生活や同居生活を規定し,うつ病の発病に関与することを論じた。
 家族関係における問題条件は,必ずしもうつ病のみを発病させるだけでなく,幻覚・妄想を中心とした精神異常状態を出現させてもよいはずであるが,何故に本稿での3症例では抑うつ症状を発現せしめ,幻覚・妄想状態を発現せしめなかったかを考察することはできなかった。

神経症の比較精神医学的研究—三重県四日市市,鳥羽市,度会郡南島町の調査から

著者: 東村輝彦 ,   神谷重徳

ページ範囲:P.683 - P.691

I.はじめに
 1960年後半以降のめまぐるしい社会の動きは,好むと好まざるとにかかわらず,精神医学をその狭い領域のみにとどまらせず,社会や文化に関与させるようになり,社会精神医学的な研究も多くみられるようになった。しかしながら神経症やうつ状態に関しては,状態像の変化や心因の問題などについては多くの報告があるが1〜9),統計的な報告はほとんどみられない。われわれは,現在の激しい社会の変動が,神経症やうつ状態の患者にいかなる影響を及ぼしているかその実態を知るために,昭和45年,46年,47年の3年間にわたって三重医大塩浜病院精神神経科と山田赤十字病院神経科を訪れた初診患者の中で,16歳以上の神経症ならびにうつ状態の患者の中から,四日市市,鳥羽市,度会郡南島町の居住者333名(男150名,女183名)を選び比較検討した。これらの地域を選んだのは,塩浜病院の所在地である四日市市は,わが国の近年の高度成長経済を支えてきた工業開発地の代表的な一地域であり,山田赤十字病院の診療圏に属している鳥羽市は,古い日本の習俗や慣習が残されている離島などを含めて今や観光開発の荒波にさらされている地域であり,また南島町は昭和46年に過疎地域に指定されたほど人口の減少の激しい農漁村であり,いずれも現在の社会的状況を象徴的に表している地域と思われるからである。

公共の福祉と人権—精神病質者およびアルコール中毒患者の非自由入院

著者: 田村幸雄

ページ範囲:P.693 - P.699

I.公共の福祉と人権
 1.はじめに
 近年,わが国の精神医学界では,精神障害者の人権侵害論が喧しい。精神障害者の非自由入院のうち,最も問題となるのは,精神病質者およびアルコール中毒者のそれである。これらは理論的に難問を蔵しているだけでなく,実際にも多くのトラブルを起こし,精神病院告発の原因となっている。
 以上の問題につき,私は以前から多くの疑問を持ち何回か意見を述べたが1),満足な結果に達しなかった。その最大の原因は,「公共の福祉と人権」という厚い壁に阻まれ,これに対する考えが定まらなかったためである。精神障害者の人権については,私の知る限りこれを取り扱っている憲法書は稀で,主題に関し私の疑問を解決してくれるものはなかった。考えてみると,精神障害者の人権は,憲法学と精神医学の境界の分野である。そのいずれかに通じていただけでは,十分にこれを解明し得ない。憲法学者といえども,精神医学の理論や実状に通じなければ,この分野の解明には難渋を覚えるであろう。他方,精神医学者も憲法を学ばなければ,これが解明は難しい。私は精神病質者およびアルコール中毒患者の非自由入院を論ずるにあたり,いささか憲法書を読んで思案した「公共の福祉と人権」についての素人憲法論を展開したいと思う。これはまた,精神医学界を沸せた「精神障害者の保安処分と刑法改正」の基礎理論をもなすものでもある。

抗てんかん剤の催奇性

著者: 福島裕 ,   三川博

ページ範囲:P.701 - P.707

I.はじめに
 近代の医薬品の発達は,臨床の各分野の治療に多大の恩恵を与えてきたが,同時に一方では,薬害発生の可能性を高めたことも否定できない。なかでも,1950年代の末からしだいに明らかにされたThalidomideによる特異な奇形の発生は,薬害の問題を社会的な関心にまで高めた事件として記憶に新しい。
 このような状況のもとで,各種治療薬のteratogenicity催奇性(あるいは催奇形性)についてMellin19)(1964)やNelsonら21)(1971)の広範な調査成績の報告がなされ,またわが国でも西村ら22)(1972)がこの問題について総説的に記述している。これらの報告や記述をみると,現在臨床において広く使用されている薬剤のなかにも,その催奇形作用が疑われるものが少なくないことを知らされる。もっとも,人体に対して明らかな催奇性を有する薬剤として現在までに確認されているものは,I131,Thalidomideなど数種類にすぎないという22)。しかし,いうまでもなく,日常の臨床において,医薬品の催奇性の問題はきわめて重大な関心事である。ことに,日常使用されることの多い薬剤にあっては,その催奇形作用が軽度なものであったとしても,奇形発生の度数は大きくなるわけで,これを過少に評価することはできない。そして,現在少なからぬ薬剤でその催奇性が疑われている以上,Mellin19)やNelsonら21)が警告するごとく,妊娠初期あるいは受胎可能期間における安易な薬剤服用は避けなければならない。

Binswanger病の臨床と病理—白質病変と脳動脈硬化性痴呆の関連

著者: 上野武治 ,   高畑直彦 ,   石嶋紘 ,   加藤隆 ,   森田昭之助

ページ範囲:P.709 - P.715

I.緒言
 Encephalitis subcorticalis chronica progressiva(いわゆる“Binswanger病”,subcortical arteriosclerotic encephalopathy,以下ESCPと略す)は臨床的には人格障害,痴呆などの精神症状を前景とし,病理組織学的には病変の主座が大脳白質に存在する脳動脈硬化症の特殊型として従来知られている。しかしESCPのこのような位置づけにはこれまで種々の議論があり,さらに検討すべき点も少なくない。
 われわれは初老期に痴呆や妄想など精神症状で発病したESCPと思われる症例を経験したが,この症例をとおしてESCPの脳動脈硬化症の中での位置づけ,さらにはESCPに明らかな白質病変と脳動脈硬化性痴呆との関連についてなど,これまでの文献を参考にして検討する機会を得たので報告する。

短報

炭酸リチウム長期服用者の腎機能について

著者: 中村清史

ページ範囲:P.716 - P.717

I.はじめに
 躁病・躁状態の治療剤として炭酸リチウムが脚光をあびているが,他方その副作用・中毒も重要な問題となっている。なかでも腎障害がとくに注目されている。ところが炭酸リチウム長期投与と腎機能との関係を追求した報告はみられない。今回炭酸リチウム長期投与10例について定期的に腎機能検査PSP検査を行ったので,その結果を報告し若干考察を試みた。

古典紹介

—Serger S. Korsakoff—Eine psychische Störung combiniert mit multiple Neuritis—Psychosis polyneuritica seu Cerebropathia psychica toxaemica

著者: 池田久男

ページ範囲:P.719 - P.723

 1887年 “Westnik Psychiatrii”1)および同年の“Jeschenedelnaja klinitscheskaja gaseta”2)に発表した2つの論文に,私は多発神経炎に合併する特異な型の精神障害について記載した。この型の精神障害に精神科医のみならず他の領域の医師が遭遇するのは決してまれなことではないけれども,私のみるところ,医師たちによってほとんど認識されておらず,かつて一度も注目されたことがないといわざるを得ない。さらにこの種の症例の多くは精神科医によってではなく,一般医や婦人科医によって扱われている。何故ならば私が記載したこの精神障害は,精神病以外の疾患,たとえば産褥熱,急性および慢性感染症の経過中に発現することが多いからである。私が観察する機会を得たほとんどすべての症例で,主治医は私が記載した症状の出現によって驚き,その結果神経病の専門医に相談している。しかし専門医もまた,この種の精神障害についてほとんど知らない,少なくとも文献上で特定の病型としての記述はまったく見当らないのである。しかしながらこの病気自身は非常に特徴的である。まず第1にこの精神障害は多発性変性神経炎の症候に合併して出現するという特徴がある。この病気のほとんど全例に多発神経炎の症状が確認されている。無論神経炎の症状が軽微な少数例もあるが,他の症例では神経炎の症状,つまり麻痺,拘縮,筋萎縮,疼痛が著明で,むしろ精神障害がその陰に隠れて目立たなくなる可能性さえある。つぎに神経炎症状との合併とともに,精神症候群それ自身が特徴的である。すなわち記憶力と観念連合の障害がまったく特異的である。総じて,この病気は,理解し難い,かつて記載されたことのないいくつかの特徴を持っている。私は,先述のとおり,この病気が普通は他の病気の経過中に出現するので,医師の関心はすべて後者,すなわち他の病気のほうに向けられ,その結果神経系に現れた合併症には相当の関心が払われていなかったのだと考えている。
 実際にこの病気は,しばしば,その発症が気付かれないことがある。何故ならば,この病気は普通産褥熱やチフスなどの重症な疾患の合併症として出現するので,その初発症状は神経系の普通の衰弱あるいは疲労とか,脳の貧血と混同される。発症時には普通患者は嘔吐し,時にはそれが非常に頑固で,著しい衰弱が起こっている。それまで歩いていた患者は,ふらつき,歩行は不確実となり,ついにはもはや立ち上がることができず,臥床してしまう。下肢の麻痺徴候は明らかとなり,そのさいとくに膝関節での伸展や,足や趾の運動が侵されることが多い。非常にしばしば下肢の麻痺徴候も加わり,しかも手や指の運動がまず侵されることが多い。しばしば同時に,腕や大腿に疼痛が現れ,筋は著しく萎縮し,電気刺激による収縮は消失し,拘縮や時には浮腫が出現する。膝蓋腱反射は普通早期に消失する。重症例では四肢は完全に麻痺し,また躯幹筋,膀胱や横隔膜も麻痺し,ついには迷走神経機能の障害による心臓の麻痺も起こしてくる。

海外文献

Die Objektivierung psychiatrischer Syndrome durch multifaktorielle Analyse des psychopathologischen Befundes/Psychiatry and Pseudopsychiatry

著者: 水野鍾二 ,   柏瀬宏隆

ページ範囲:P.673 - P.673

 精神医学的診断学における議論には,しばしば2つの研究方法が対比させられる。それは,個人の印象と経験に基づく記述という,より質的な方法と,印象を処理・操作しそれによって記述を標準化,計量化し,科学的検査としての要請を満たすような量的な方法とである。
 後者のごとき精神医学における計量統計的方法は,古典的臨床的経験と記述に基づいて明らかにされたものを保証するのか,あるいは他の結果をもたらすことになるのであろうか? われわれはMax-planck-Institüt für Psychiatrieで1969,70年に入院した全患者に2つのスケール評価尺度),すなわちIMPS(Lorr,Klett,McNair,Lasky)とAMP(Skala der Arbeitsgemeinschaft für Methodik und Dokumentation in der Psychiatrie)を用いて精神病理学的症状を把えてみた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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