文献詳細
研究と報告
文献概要
I.公共の福祉と人権
1.はじめに
近年,わが国の精神医学界では,精神障害者の人権侵害論が喧しい。精神障害者の非自由入院のうち,最も問題となるのは,精神病質者およびアルコール中毒者のそれである。これらは理論的に難問を蔵しているだけでなく,実際にも多くのトラブルを起こし,精神病院告発の原因となっている。
以上の問題につき,私は以前から多くの疑問を持ち何回か意見を述べたが1),満足な結果に達しなかった。その最大の原因は,「公共の福祉と人権」という厚い壁に阻まれ,これに対する考えが定まらなかったためである。精神障害者の人権については,私の知る限りこれを取り扱っている憲法書は稀で,主題に関し私の疑問を解決してくれるものはなかった。考えてみると,精神障害者の人権は,憲法学と精神医学の境界の分野である。そのいずれかに通じていただけでは,十分にこれを解明し得ない。憲法学者といえども,精神医学の理論や実状に通じなければ,この分野の解明には難渋を覚えるであろう。他方,精神医学者も憲法を学ばなければ,これが解明は難しい。私は精神病質者およびアルコール中毒患者の非自由入院を論ずるにあたり,いささか憲法書を読んで思案した「公共の福祉と人権」についての素人憲法論を展開したいと思う。これはまた,精神医学界を沸せた「精神障害者の保安処分と刑法改正」の基礎理論をもなすものでもある。
1.はじめに
近年,わが国の精神医学界では,精神障害者の人権侵害論が喧しい。精神障害者の非自由入院のうち,最も問題となるのは,精神病質者およびアルコール中毒者のそれである。これらは理論的に難問を蔵しているだけでなく,実際にも多くのトラブルを起こし,精神病院告発の原因となっている。
以上の問題につき,私は以前から多くの疑問を持ち何回か意見を述べたが1),満足な結果に達しなかった。その最大の原因は,「公共の福祉と人権」という厚い壁に阻まれ,これに対する考えが定まらなかったためである。精神障害者の人権については,私の知る限りこれを取り扱っている憲法書は稀で,主題に関し私の疑問を解決してくれるものはなかった。考えてみると,精神障害者の人権は,憲法学と精神医学の境界の分野である。そのいずれかに通じていただけでは,十分にこれを解明し得ない。憲法学者といえども,精神医学の理論や実状に通じなければ,この分野の解明には難渋を覚えるであろう。他方,精神医学者も憲法を学ばなければ,これが解明は難しい。私は精神病質者およびアルコール中毒患者の非自由入院を論ずるにあたり,いささか憲法書を読んで思案した「公共の福祉と人権」についての素人憲法論を展開したいと思う。これはまた,精神医学界を沸せた「精神障害者の保安処分と刑法改正」の基礎理論をもなすものでもある。
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