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雑誌目次

雑誌文献

精神医学17巻1号

1975年01月発行

雑誌目次

巻頭言

てんかん用語の国際統一に想う

著者: 和田豊治

ページ範囲:P.2 - P.3

 かねてから医語の国際的統一を目ざしていた世界保健機関(WHO)が,その一環として昨年ようやく“Dictionary of Epilepsy”を刊行した。これは約700に及ぶてんかんに関する用語,とくに臨床面のそれをほとんど網羅し,おのおのの定義を明記するとともに解説も加え,同義ないし類縁の用語もそれぞれ載せて系統的に位置づけをした用語典であり,いってみれば在来のてんかん用語の概念を現在のてんかん学の立場から俯瞰して整理したものである。編集にはフランスのH. Gastaut教授が精力的にあたり,世界16カ国から選ばれたてんかん学のエキスパート18人のWHOてんかん用語委員会が共編という形をとっているが,その内容を精神科医としての大方ははたしてどのように受けとめておられることであろうか。
 ところで筆者は東北大学教授在任中どうした風の吹きまわしか,上記の用語委員会(1966〜1968)の一員として参加させられたが,以下その立場から内容の論評を避けて所感若干を述べてみたいと思う。

展望

うつ病の臨床精神医学的研究の動向(1959-1973)

著者: 木村敏

ページ範囲:P.4 - P.32

Ⅰ.序論
 この展望は平沢(1959)による1945-1958年の期間の展望を継承して,1959-1973年の15年間におけるうつ病の臨床精神医学的研究の動向を綜説しようとするものである。範囲を臨床面に限ったため,この15年間に格段の進歩を遂げた生化学的研究をはじめ,基礎医学的・身体医学的研究はすべて除外した。同じくこの期間の代表的成果ともいうべき薬物療法についての研究も,対象があまりにも厖大であるために除外せざるを得なかった。さらに主として時間的な理由から,日本語のほかは英語とドイツ語の文献にしか眼を通すことができなかったのは残念である。
 この15年間のうつ病研究の動向は,若干の目立った特徴によって,それ以前の時期からかなりはっきりと区別される。そのような新しい傾向を促進した契機としては,(1)力動的・状況論的・人間学的な観点が有力になってきたこと,(2)抗うつ剤の開発が進んで,うつ病の治療法が一変しただけでなく,われわれの眼に触れるうつ病像そのものの変化をももたらしたこと,の2点が挙げられるのではないかと思う。

研究と報告

向精神薬療法中の精神神経疾患患者の眼科的所見(1)—眼科学的異常所見出現の概観

著者: 大熊輝雄 ,   小椋力 ,   赤松哲夫 ,   久田研二 ,   瀬戸川朝一 ,   玉井嗣彦 ,   松浦啓之 ,   久葉周作 ,   土江春隆

ページ範囲:P.33 - P.42

I.はじめに
 近年chlorpromazineに始まる各種向精神薬が開発され,薬物療法は精神科領域における最も重要な治療法として広く行われるようになり,精神科医療施設に入院あるいは通院して加療されている患者の大多数がなんらかの薬物療法を受けているといっても過言ではない。
 しかし向精神薬療法の普及とともに,向精神薬の副作用も治療上の重要な問題となってきている。

分裂病再発の危機状況について

著者: 高橋隆夫

ページ範囲:P.43 - P.49

Ⅰ.序言
 精神病の既往者たちの治療を続けているさいに,われわれが直面する最も重大で困難な問題の1つに"精神病の再発"がある。それゆえ,この"再発の危機"なるものを予知し,これを未然に防止していくことは,また再発が生じてしまった場合には,これをいかに軽度にとどめかつ短期間に治めるかということは,精神科臨床に携わる者に課せられたきわめて重要な問題であると考える。
 筆者は最近の数年の間に,退院後かなりの長期間にわたって通院治療を続けてきた分裂病既往者たち――"分裂病"なる診断名はおおむねE. BleulerないしK. Schneiderに従い2,15),予後にこだわらないためにあえて"既往者"としておく――のうちで,再発を来した数症例に関して述べ,これらのことからとくに"再発の危機状況"について論じ,また筆者が再発した病者たちとともに,あるいは彼らの意に反して,いかなる行動をとっていったか,またはとるべきであったかを述べてみたいと思う。また,この"再発"なるものが,必ずしも分裂病既往者たち自身の精神病理的症状の出現によって判断されるとは限らず,家族や周囲の人々によって既往者たちの当然とって然るべき態度や言動が"再発"したと判断され,たとえば"入院"といった手段がとられてしまう危険性があるということについても,症例を挙げて具体的に論じておこうと思う。

Floropipamide(Propitan)により心臓障害を呈した3例

著者: 玉沢昭 ,   一ノ渡尚道 ,   中島節夫 ,   相田信男 ,   狩野力八郎

ページ範囲:P.51 - P.57

I.はじめに
 1952年phenothiazine系薬物が精神科の治療に登場して以来,薬物療法が精神科治療の主流となり,種々の向精神薬が開発された。
 しかし精神病の特性上,その使用が大量かつ長期に亘るための種々の副作用が出現し,その対策が講じられてきた。1963年Kellyら1)がthioridazine使用中の患者の突然死を報告して以来,phenothiazine系薬物の心臓血管系に及ぼす影響について多くの研究が報告された2〜4)。また,最近三環系抗うつ剤による突然死がMoirらによって報告されている5,6)。しかし,butyrophenone系薬物の心臓障害については報告が少なく,わずかにMeallieら8)および栗岡ら9)による心電図上のT波の変化についての報告がみられる程度である。
 筆者らは1969年以来,向精神薬服用者の心電図についてT波の変化とともにQT時間の延長の推移を検索してきたが,とくにfloropipamide(Propitan)投与と密接な関連のある心電図変化を示した3例を経験し,そのうち1例にはAdams-Stokes症候群と思われる症状が認められたので報告する。

炭酸リチウムが奏効した周期性傾眠症の1例

著者: 小椋力 ,   中沢和嘉 ,   岸本朗 ,   大熊輝雄

ページ範囲:P.59 - P.63

I.はじめに
 発作性に傾眠状態を繰り返す疾患には,ナルコレプシー,周期性傾眠症などが知られているが,そのうち周期性傾眠症は,ナルコレプシーに比べ傾眠期の持続時間が長く,状態像についてもナルコレプシーでは正常に近い入眠期あるいはREM睡眠が出現する(神保ら8),1964;菱川ら5),1962;高橋14),1965)のに対し,周期性傾眠症では傾眠ないし軽度の意識障害が存在すると思われるなどの特徴を有している。周期性傾眠症の病態生理についてはほとんど不明に近く,治療についても,主としてmethylphenidate(以下MFDと略す)などの中枢刺激薬が使用されているが,傾眠に対する治療効果は十分とはいえず,また,病期出現に対する予防効果も認められていない。
 最近筆者らは,MFDの与薬で症状が消失せず,近年躁うつ病の治療に用いられている炭酸リチウムが奏効した周期性傾眠症の1例を経験したので,その概略を報告するとともに,傾眠期と間歇期に測定した血中,尿中の生体アミンの動態や,躁うつ病と周期性傾眠症の病態生理の連関などについて考察を行うことにする。

伝導失語症の1剖検例と文献的考察

著者: 有輪六朗 ,   斎藤脩 ,   山県博

ページ範囲:P.65 - P.69

I.はじめに
 今日,失語症の各病型のなかで,Wernickeが理論的に記述した伝導失語症については,臨床的にも,また病理解剖学的にも問題点が残されている。著者の1人,山県が,1960年,本症例の臨床像を分析し,とくに,その模倣言語障害の発生には,末梢的性格ともいえる音韻聴取能力の障害が大きな役割を演じているのではないかと推察した26)。今回われわれは本症例を剖検する機会を得たので,本論文では,おもに病理所見について報告し,前回の臨床報告と合わせて考察したい。
 われわれが本症例を伝導失語と診断した理由について,少し説明を加えたい。

短報

多彩な症状を伴った心因性意識障害の1例

著者: 武内広盛

ページ範囲:P.71 - P.73

I.はじめに
 心因性意識障害では,せん妄から,もうろう状態,Ganser syndromeなどの幅広い意識レベルでの動揺が認められる。今回心理的了解が可能と思われる心因を有し,これによると考えられる意識障害を長期間にわたって,経時的につぎつぎと多彩な精神症状を伴いながら続け,さらに異常脳波,甲状腺機能亢進,無月経などの多様な身体所見を呈した症例を経験したので,簡単に報告する。

Haloperidolが著効を示したヘミバリスムの1例

著者: 中島良彦 ,   佐々木高伸 ,   池田久男

ページ範囲:P.74 - P.75

I.はじめに
 バリスムは,比較的急激に始まる四肢の投げつけるような粗大な動きを示す不随意運動である。通常高齢者に起こり,その不随意運動が新鮮例では1日中,深睡眠を除いてほとんど休みなく起こり,そのため全身衰弱に陥り,時には死の転帰をとることがあるため早期にこの不随意運動を抑制することが要求される。
 これまでバリスムの治療にbarbiturate,bromide,chloral hydrateが使われ,睡眠に導入する以外には異常運動を止めることができなかったが,ある例では,chlorpromazineが有効なことが見出された1)。しかしこれもまだ十分とはいい難い面がある。
 Haloperidolがハンチントン舞踏病,小舞踏病,Gilles de la Tourette病,チックなどの運動過多—筋緊張異常症候群に対してきわめて有効であるとの報告がなされているところから2〜6),同じ症候群に属するところのバリスムに対しても有効であろうと考えるのは当然である。しかしながら筆者の知るかぎりでは,haloperidolのバリスムに対する効果についての文献はみられない。われわれは,バリスムの1例にhaloperidolを試用し,非常に有効にこれを抑制せしめたので報告する。

古典紹介

—Alfred Hoche—Die Bedeutung der Symptomenkomplexe in der Psychiatrie

著者: 下坂幸三

ページ範囲:P.77 - P.85

 2人の報告者の間の仕事の分担は,私が一面ではさまざまな疾病形態に対する,他面では,さまざまな要素的症状に対する症状群Symptomenkomplexeの意義について論究せねばならぬということに協定いたしました。私の任務は疾病分類上の諸努力に関する現在の状況について述べることであるといいかえることもできましょう。
 精神医学の歴史は,医学の歴史のなかにおいては,まったく特殊な一章を示しております。精神医学の決定的な段階における発展は,その経過が速やかであったので,わずか2,30年の間に集中したのです。そして,われわれの学問は,このような過去の特殊性の跡を十分明瞭に示しております。精神医学に対して加えられてきたさまざまな外的な困難と,この困難との闘いとは,最良の働き手を吸収してまいりました。それはいくつもの前線を持った闘いでした。たとえてみれば,片手で鏝を使い,他の手で敵を防ぎながらエルサレムの神殿を築いたかのユダヤ人たちの闘いのようでありました。いまや,外的事情は,多くの点で改善されましたし,また医学の全体系の状態は,ある意味では堅固にみえるようになったので,われわれの科学の基礎,認識の可能性,展望と目標に対して考えを巡らすようになり,われわれが一応,精神病という集合名詞で表している経験の集積に対して,あらゆる可能な面から迫ろうとするきわめて活発な努力が開始されたのです。

動き

ドイツ精神医学管見記—ハイデルベルク大学精神科主任教授の交替について

著者: 上田宣子

ページ範囲:P.87 - P.89

I.はじめに
 私が1970年10月〜1972年11月にわたる約2年間DAAD(Deutscher Akademischer Austauschdienst)によりハイデルベルク大学のTellenbach教授のもとで学ぶ機会を得,滞独していた間に経験した幾多の出来事の中で,最も印象的だったのは何といってもPsychiatrische Klinikのv. Baeyer主任教授の停年退職,それに引き続く新主任教授選考をめぐって開かれた公開演説会,さらにその後難行を極めた選考過程であった。数十年に一度生ずる可能性しかない,かくの如き時代推移を目のあたりにすることができる場面に遭遇し,私は異常に興奮を覚え,セミナーなどにおいては言葉の不自由さゆえに隅で小さくうつむいていた姿を豹変,講演の催される講堂の最前列の席を陣取るために早くから出掛ける仕末だった。日本人では私以外にBlankenburg講師のもとで学んでいた金沢の富岡秀文氏がこの講演会を傍聴されたが,途中で帰国の途につかれたので,講演会およびv. Baeyer教授の最終講義にも出席した時の私の印象を振り返って記してみたい。

紹介

Klaus Conradによる内因性単一精神病の考想について—その今日的意味

著者: 吉永五郎

ページ範囲:P.91 - P.97

 K. Conradは,1958年,長年の懸案であった「Die beginnende Schizophrenie」の研究を発表した。かれは独自のゲシュタルト分析の方法を駆使して分裂病者の「場」を研究し,分裂病問題を,精神病理学と大脳病理学との接点として把え,その解明に一つの成果を収めたといえよう。
 連続した一連のTrema,Apophanie,Apokalyptikの病相として示される分裂病の経過は,われわれにも,つとに馴染みのものではあるが,ここでは脳病理学的機能解体の構造関連のなかで説明され,分裂病者への了解の地平を,さらに一歩おしすすめることになった。

海外文献

Prognosis in Autism—A Follow-up Study,他

著者: 作田勉

ページ範囲:P.42 - P.42

 自閉症児の多くは,思春期および成年に達したときの予後が悪い。ほとんどの者たちは施設に収容されるか,完全に両親に依存した生活を送るにすぎない。
 他方,予後の良し悪しを示す因子についての知識を得ることによって,患児の取り扱いや,両親への指導が適切なものとなるかもしれないので自閉症の予後調査を行ったものである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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