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雑誌目次

雑誌文献

精神医学17巻2号

1975年02月発行

雑誌目次

巻頭言

矯正医学の立場と精神衛生推進への提言

著者: 大津正雄

ページ範囲:P.114 - P.115

 Ⅰ.1948年に世界人権宣言がなされ,また,W. H. O. 憲章により,健康が単に身体的,精神的に疾病傷害のない状態であるのみでなく社会的にも良好な状態であるとされたのは周知の事である。しかし私達にとって,もっと重要な意味を持つ提案が,その年の夏ロンドンの世界精神衛生会議において,フランスのGeorge Heuyer教授によってなされ決議された事は余り知られていない。「少年の身心の発達およびその障害について最も深い知識と理解をもつ医学,精神医学,心理学,教育学等の専門家によって非行少年に対する処遇の決定がなされるべきであって,従来の司法官万能の現行制度は不可である。」とするウイエール宣言は,その後の世界の非行対策の動向を決定した重要な意義をもつものであった。わが国も新少年法,少年院法を制定し,少年に対する診断機関として少年鑑別所,治療処遇機関として種々の機能をもつ少年院が整備され,その一環として医療少年院の発足を見,一方,受刑者に対する分類制度が実施され,診断機関としての分類センター,矯正治療機関としての医療刑務所の設置を見た。
 数次にわたる産業革命を原動力とする社会変動は経済成長のかげに多くの公害を生み,家庭分解,人間疎外,不信,価値喪失,意識変容等の現象を通じて,物理的にも化学的にも人間行動に様々の影響を与え,脳幹障害,染色体異常等も注目されるに至った。矯正医学はこれら社会変動下に発生する犯罪,薬物依存等の反社会的或いは非社会的行動を含む社会不適応現象を「不健康に基づく非行」としてとらえ,非行者を身体的,精神的,社会的不健康のからみあったものという観点から分析的かつ統合的に理解し,その診断治療,社会復帰ならびに予防をはかるものとして生れた。診断については少年に対する鑑別所の如き処遇決定前の診断機関が,成人に対しても考えられなければならず,判決前調査制度の必要性は大方の認めるところとなり,問題は実施方法にあり,将来,拘置所が成人犯罪者の診断鑑別所に変容するのも決して幻想ではなくなった。クレペリン以来,刑法が反社会的異常行動に対する単なる刑期換算法にすぎないという批判が精神医学者よりなされていたが,今後判決前の精神医学的調査の必要性は愈々たかまることは明らかである。必要なのは刑罰ではなく治療処遇であると叫んだ米のKarpmanの主張(No Punishment, Treatment Only)は刑事政策の刑罰より治療処遇への転換を示唆し国連の被拘禁者処遇最低基準則にも治療刑の方向が示されている。もちろんこのような,実質的な刑罰の否定に導く静かなる革命が一朝にして成るものではないが,少なくも道は展かれているのである。

展望

疫学的精神医学Epidemiological Psychiatryの動向

著者: 加藤正明

ページ範囲:P.116 - P.126

Ⅰ.まえおき
 「社会精神医学特集」は第1集が1970年12月の「精神医学」第12巻第12号からはじめられて以来,1973年12月の第15巻第12号の第4集まで続けられてきた。
 第1集は「社会のなかの精神科医」の特集と「医療危機と精神科医のIdentity Crisis」の座談会,第2集は「社会変動と精神医学」,第3集は「精神障害者の動態」の特集と「社会構造と精神医学」の座談会,第4集は「精神障害と家族」の特集と座談会であった。

研究と報告

計算てんかんの1例

著者: 斎藤惇 ,   安斉三郎

ページ範囲:P.127 - P.134

I.はじめに
 知覚刺激が適当な条件の下で作用すると発作が誘発されるようなてんかんを反射てんかんと呼んでいる3)。その刺激となる知覚の種類により,種種の反射てんかんが報告されているが,知覚刺激が加えられた時にそれに伴う情動面の動きも誘発因子として当然考慮されねばならないであろう。Kretschmer, E. 1)によれば知覚には皮膚知覚,嗅覚,味覚など情動と深く結びついて知覚される情動親和性感覚と,視覚,聴覚など表象形成に強力に関与して情動との結びつきのうすい高等感覚とがあるという。しかしこの高等感覚といえども,認識,表象機能のごとき高等な精神活動の段階にいたってはじめて,内容と感情とは互いに独立して存在し得るのであって,光,色,音など直接的に感官的な性質の刺激の下では情動と深い関係を保っているという。事実,読書てんかん,音楽てんかん,聴原性てんかんと呼ばれる反射てんかんの中にも,悲しみ,快-不快,驚愕などの情動が関連して発作が出現しているように思われるものが少なくない。このように知覚と関連して情動面の刺激が加わり,発作が誘発される反射てんかんに対して,純粋な情動的,心理的体験および思考,注意の集中などの精神作用がてんかん発作を誘発する場合があるが,福山3),大沼4)らはこれらをもまた,反射てんかんの中に含めて考えている。1962年Ingvar, D. E. とNyman, G. E. 5)はこのような症例として,計算問題を解かせることにより意識消失発作が誘発されるてんかんの1例を報告しているが,われわれも計算問題を解くさいに意識消失発作が出現するめずらしい症例を経験したのでここに報告する。

計算によって誘発される小発作欠神

著者: 青木恭規 ,   小笠原暹

ページ範囲:P.135 - P.142

I.はじめに
 計算によって誘発されるてんかん発作の症例は文献上きわめて稀で,これまでIngvar(1962)ら15)によって報告された1症例と,Bickford(1956)ら2)が読書てんかんの中で簡単に触れた1症例があるにすぎない。われわれは小発作(稀に大発作)を有する症例の治療経過中に,"計算"が恒常的にてんかん発作を誘発することを見出したので若干の考察を加えて報告する。

難治性てんかんのClonazepamによる治療経験—精神運動発作を中心に

著者: 日向野春総 ,   宮坂松衛 ,   大高忠 ,   山本紘世

ページ範囲:P.143 - P.154

I.はじめに
 現在までに数多くのすぐれた抗てんかん剤が開発されてきたにもかかわらず,長期間の専門的治療にも抵抗する難治性てんかんが今なお多く残されている。さらに優れた効果をもち,副作用の少ない新しい抗てんかん剤の開発は医療における現代的課題の一つといえよう。
 こうした新しい抗てんかん剤の模索の中で,この十年来,benzodiazepine系の薬剤が注目されてきている。すなわち,diazepam,nitrazepamをはじめとするbenzodiazepine系の薬剤はWest症状群,Lennox症状群を中心に優れた抗てんかん作用を有することが数多く報告されている17,20,26)他

青年期に好発する異常な確信的体験(第3報)—分裂病類似病態を呈する重症例について

著者: 小出浩之 ,   石川昭雄 ,   大磯英雄 ,   酒井克允 ,   村上靖彦

ページ範囲:P.155 - P.162

I.はじめに
 われわれは,十年程前より思春期から青年期に好発する異常な確信的体験について研究し,すでに〈思春期妄想症〉〈妄想様固定観念〉と呼んだ病態について報告し1),また思春期状況について考察した2,3)。ついでこれらの病態構造の2つの契機である関係妄想と身体異常感のうち,主として前者が前景に立つものを考察の対象とし,先の第1報4)において〈忌避妄想〉と名づけ,分裂病にしばしばみられる迫害妄想と区別してその体験構造を論じた。さらに第2報5)においてそのバリエーションとして〈自己の状態がうつると悩む病態〉をとりあげ考察した。
 さてわれわれが前2報において報告し〈忌避妄想〉と呼ぶことを提唱した病態は,自己の身体が不本意にも他者に不快感を与え,他者によって忌避されていると確信すること,それを他者の言動・状態を通じて関係づけの形で体験すること,このように迷惑をかけている自己について自責的に悩むこと,多くは思春期に発症し単一症状で経過することを主なる特徴とするものであった。この種の臨床的単位を設定しようとするさいには当然のことながら,基本的には同種の病態構造を備えているにもかかわらず,以上の定義からいくつかの点で逸脱する症例を見出すことになる。今回は,病態がより重篤な症例を選び,考察の対象とした。それは,これら重症例のほうが,その病態的特徴をより鮮明に示しており,その意味で〈忌避妄想〉というわれわれの提唱した概念の拡大と深化に役立つと考えたからである。

農村地域における最近の神経症について—長野県佐久地方から,第1報

著者: 神岡芳雄 ,   堀口佳男 ,   高橋滋

ページ範囲:P.163 - P.171

I.はじめに
 農村における総合病院精神神経科の機能は,都市におけるそれ1〜3)と共通する実態をもちながら,しかも一方では,地域との結びつき4〜8)も,重視されねばならないところに特殊性があろう。
 戦後のわが国農村の大きな社会変貌9)は,農地改革,つづく町村合併から,経済成長期に入っての住居の都市化,農家の兼業化,山村の過疎化,農薬公害10)などであり,長野県佐久地方もあるていどこの例にもれない。
 精神障害とくに神経症は,社会文化的背景と密接な関連性をもって,発現することは周知のことである。われわれは,日常の診療を積み重ねながら,昨今,農村においても,入院患者の家庭復帰の困難性が増し,また,外来診療における神経症の増加傾向を体験している。
 この報告は,最近10年間に診療した神経症患者について,臨床統計的概括を試みたものであり,今回は,主として概括的成績と,症状類型についての考察を行った。

老年期に発病する精神病と診断上の問題点

著者: 杉本直人 ,   赤座叡 ,   加藤秀明 ,   黒田弘彦

ページ範囲:P.173 - P.179

Ⅰ.緒論
 老年期に発病する精神病では,初発の場合はもちろん,たとえ再発の場合であっても診断に困難を感ずる症例のあることは日常の診療で臨床医がしばしば経験することであろうと思われる。たとえば知能面の症状を前景にもついわゆる器質性の老年期の精神障害であっても,この精神障害が脳実質の萎縮性の病変に由来するものであるのか,あるいは血管性の病変に由来するものであるのかを決定することは少なくとも臨床的には非常に困難な場合がある。さらにまた,いわゆる内因性精神病の症状--老年期では幻覚・妄想症状が前景に出ている場合が多い--が問題になる時には,これらの精神症状が,老年期の身体的条件に規定された老年期に個有の精神病のものであるのか,あるいは青壮年期に出現する内因性精神病のものであるのかを決定することは困難であることが多い8)。このような事情は老年期の精神病に関して提案されている分類をみても明らかになる。加藤6)によればWHOの国際疾病分類ICDでは,動脈硬化症は老年性または,初老期痴呆との鑑別が困難であることや,その他種々の問題点があるため1),1968年には老年期の精神病に関し新たな提案がなされている。しかしこの新たな提案においても,たとえば抑うつ状態,あるいは妄想状態を伴った老人性痴呆が分類されており,さらには急性精神病の状態や慢性化した(protracted)精神異常状態を持つ動脈硬化症が分類されている。これらの分類や改訂,提案は,他の諸家の採用する分類とともに,老年期の精神病は病因的に種々の要因がからみ合っていることを示唆するだけでなく,これらの精神病とまず最初にかかわり合う臨床的に把えられる病像が病像形成的な種々の条件により複雑に加工され,これらの分類の基礎となる診断が困難であることをも示していると考えるべきである。
 老年期の精神病が問題になる場合,診断を困難にする条件は,まず,老年期にあるということにより,老年期に応じた身体的条件を考えねばならぬということである。臨床的に老年期に応じた身体的な症状が把えられる場合,この身体的な症状を精神病の発病と関連づけることは,種々な問題点はあるが1),一応可能である。しかし老年期では,このような身体症状が把えられなくても,発病条件として老年期の生理的な身体的変化を無視することはできない。つぎに,身体的次元の問題のみでなく,老年期ではこの時期に応じた心理的な変化,家庭的,社会的な環境条件の変化があり,これらの心理的,環境的条件が病因的に,また病像形成的に重要な役割を演ずることも考えなければならない。老年期の精神病では身体的,心理的および環境的条件が病因的にまた病像形成的に複雑にからみあっていることが大きな特徴である。Weitbrecht11)が退行期の器質的に条件づけられている精神病で,分裂病に特徴的な一級症状や,うつ病に特徴的な原不安(Urangst)の把えられる症例を報告していることや,Bronisch2)が老年者の精神症状は正常の老年者の精神機能の量的偏移であると考えられると述べていることなどは,老年期の精神病の診断が困難であることを示す事実である。さらにまた,青壮年期に既に精神病を発病したことのある患者が,老年期で精神病を再発した時,この精神病像は青壮年期のそれとは量的に相違していることは当然考えられるとしても,場合によってはこの病像が青壮年期のそれとは質的に変わっていることもあることや,妄想状態を前景とする精神病ではうつ病と分裂病の鑑別が困難なことはよく知られている事実である3,4)

古典紹介

—H. G. Creutzfeldt—Über eine eigenartige Erkrankung des Zentralnervensystems (Vorläufige Mitteilung)

著者: 横井晋 ,   割田宏

ページ範囲:P.181 - P.189

 次に挙げる症例の報告は1つのすでにまとまった疾病像を与えようと主張しているわけではない。散発的な1症例ということも,またこの症例の観察および検索法もそうすることに十分とはいえない。ある特別な病的過程が問題となっていることが臨床的治療の経過とともに初めて明らかとなった。だからそうでなければ提起されたであろう多くの疑問も初めは生じてこなかった。第一にその組織変化を確かめ,中枢神経系内での広がりをつきとめるべき解剖学的に充分な検索に関しても同様不充分であった。
 その結果は,多くの症状の意義に対して起こってきた局在の問題に答えられないということになった。それ故,この発表の目的は,ある特殊な病像を暗示しているに過ぎない。それは私がどこにも記載を見出さなかったし,また他の痙性疾患との臨床的類似性が考えられ,おそらくこれまでにも同様の症例がまた誤った旗印の下に入れられていたのであろう。

解説

—H. G. クロイツフェルト 著—「中枢神経系の独特な一巣性疾患について(暫定的報告)」

著者: 横井晋

ページ範囲:P.189 - P.190

 われわれが現在Creutzfeldt-Jakob病と呼んでいる疾患は,Hans Gerhard Creutzfeldtが1920年,以上に訳した症例について論文を発表したことにはじまる。A. Jakobは1921年DeutscheZeitschrift f. Nervenheilkunde 70巻,およびZeitschrift f. d. Gesamte Neurologie und Psychiatrie 64巻に彼の自験例3例を発表し,1921年Medizinische Klinik Nr. 13に第4例を,1923年Die Expyramidalen Erkrankungen(A. Jakob著Springer, Berlin)の中にはSpastische Pseudoskleroseの中に第5例の臨床的および病理組織学的所見の詳細な記載を行った。以上の彼の諸例は共通した特異な臨床像と病理組織所見をもち,それらはCreuzfeldtの記載した1例と同一疾患であることを明らかにしている。このような経過からCreutzfeldt-Jakob病と呼ばれるようになったと思われる。
 JakobはDie Extrapyramidalen Erkrankungenの中で臨床像病理所見を以下のように総括している。『中,高年層(ただしCreutzfeldtの例は23歳)に発症する原因不明の特異な疾患で,時に短期間のRemissionを思わせる経過の動揺がある。しかし諸症状は急激に進行して,コルサコフ症候群の出現とともに,譫妄状の錯乱,不安状態,視覚と聴覚性の幻覚は広汎な皮質病変を示唆し,これとともに明らかな錐体路,錐体外路症状(線条体および視床)がみられる。すなわち,腹壁反射欠如,時おりみられるバビンスキー,オッペンハイム徴候,振戦および動揺,上下肢筋緊張の軽度増強,無動状態,構音障害はしばしばロゴクロニー,常同言語様の障害である。その他知覚鈍麻または麻痺を伴わない失立,失歩を示す。大部分の患者は1〜3年の経過で,しばしば球麻痺および刺激症状,著しい精神的荒廃像を呈して死亡する。

資料

大学病院における時間外診療の実態

著者: 大原健士郎 ,   手島正大 ,   荻本芳信

ページ範囲:P.193 - P.196

I.はじめに
 われわれが,精神科救急医療を必要とする患者に接する機会は意外に多いにもかかわらず,その実態は必ずしも明らかではない。その理由の最大のものは,各機関において精神科独自の救急外来設備が完備していないためと思われるが,この小論では,大学病院救急室を訪れる精神科領域の患者の実態を調査し,いわゆる急患とよばれる一群の患者を分析することにした。
 もちろん,一機関の調査が,他のすべての治療機関のそれを代表しているとはいえないし,われわれの調査成績は大学病院の持つ特殊性を示し,本来の意味での精神科救急患者とは著しく異なるものがあると思われるが,各機関ごとに,時間外診療の実態を明確にしていくにつれて,近年重要視されてきている精神科救急患者の実態に接近する足がかりになりはしまいかと期待するものである。

紹介

H. Eyの精神医学的立場—H. Eyとの対話を通して感じたこと

著者: 新井清

ページ範囲:P.197 - P.204

 サンタンヌ病院の図書室は,静寂を慮った二重の扉を押して中に入ると,右側は主に雑誌を収めた書棚があり,左手の窓からは陽光が柔らかに射しこみ,室内には一席ごとに灰皿が備えられた広い机が並んでいて,ゆったりとして明るく,清楚な印象を与える。図書掛はMme Girardといって,Eyに協力してこの図書室を作り上げてきたとても親切な人で,1971年から私がPichot教授の下に2年間籍を置いた間ずい分と世話になり,H. Eyに会うことをすすめてくれ,その仲介のおかげで,1973年の5・6月に3回にわたってEyより親しく話をきく機会をもつことができた。
 73年の夏,30年ぶりでサンタンヌ病院を再訪された村上仁教授は,30年前の暗い感じの図書室とはまったく別の現代的な姿に変貌している,と言われた。道理で,小木氏11)の伝える58年頃の図書室の雰囲気とは異なっているはずだ。それに,機構上もサンタンヌ病院はCentre Psychiatrique St-Anneと名を変えており,由緒あるClinique des Meladies Mentales et l'Encéphaleは,DelayからPichotへと代が変わっている。われわれになじみ深い名前であったE. MinkowskiやD. Lagacheが72年末あいついで逝去し,一方では68年の5月革命以来の改革でフランスの精神医学・医療情勢もいくらか様相を変えてきている。現在のフランスの精神医学の動向を押さえるとすれば,第1に尖端的なantipsychiatrieの動き,第2に,その動きの背景を準備したともいえるパリ13区の地域精神医学活動,第3に,言語に並並ならぬ関心を寄せている精神分析運動(目下のところ4つのグループに分裂している)1),第4に近代的な教育・研究体制をモデル的に整備しつつあるPichot教授の教室,さらにフランスの現代精神病理学を代表すると目されるEyの近況,といった5点を手がかりに展望するのが最少限必要だといえようか。

海外文献

Schizophrenia—An Evolutionary Advance/Drugs, Neurotransmitters, and Schizophrenia

著者: 金野 ,  

ページ範囲:P.162 - P.162

 この論文は,J. Huxleyと著者らによって1964年に発表された“Schizophrenia as a genetic morphism”という仮説を生化学的に発展させたものである。genetic morphismというのは,突然変異のみで起こるものより高頻度に個体群中に認められるすべての遺伝的特質をさしている。そして,これが環境内で有利に働けば,この特質は進化論的に次第に普遍的になってゆくとされる。著者は分裂病はgenetic morphismとしてのnicotinamide adenine dinucleotide(NAD)欠乏であるという仮説に達した。そして分裂病は,その特性の生物学的,社会的有利と不利とのバランスの上で,ある一定の出現率にあると考えている。
 分裂病が遺伝性で,それに伴う生物学的異常があるという論拠として次のような報告を列挙している。Rainerによる,分裂病者の血族では,遺伝学的に近い関係ほど分裂病発生率が高いという報告。Higgins,Karlsson,Heston,Kallmannなどの養子(親が分裂病または子供に分裂病遺伝負荷がある)の分裂病発生率の報告。Kallmann,Inouye,Slaterなどの双生児における分裂病発生頻度の報告。Fish,Alpertらの分裂病母親に生れた子供に意識状態や筋トーヌスの異常があるという報告。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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