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文献詳細

雑誌文献

精神医学17巻2号

1975年02月発行

文献概要

研究と報告

老年期に発病する精神病と診断上の問題点

著者: 杉本直人1 赤座叡1 加藤秀明1 黒田弘彦1

所属機関: 1岐阜大学医学部神経精神医学教室

ページ範囲:P.173 - P.179

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Ⅰ.緒論
 老年期に発病する精神病では,初発の場合はもちろん,たとえ再発の場合であっても診断に困難を感ずる症例のあることは日常の診療で臨床医がしばしば経験することであろうと思われる。たとえば知能面の症状を前景にもついわゆる器質性の老年期の精神障害であっても,この精神障害が脳実質の萎縮性の病変に由来するものであるのか,あるいは血管性の病変に由来するものであるのかを決定することは少なくとも臨床的には非常に困難な場合がある。さらにまた,いわゆる内因性精神病の症状--老年期では幻覚・妄想症状が前景に出ている場合が多い--が問題になる時には,これらの精神症状が,老年期の身体的条件に規定された老年期に個有の精神病のものであるのか,あるいは青壮年期に出現する内因性精神病のものであるのかを決定することは困難であることが多い8)。このような事情は老年期の精神病に関して提案されている分類をみても明らかになる。加藤6)によればWHOの国際疾病分類ICDでは,動脈硬化症は老年性または,初老期痴呆との鑑別が困難であることや,その他種々の問題点があるため1),1968年には老年期の精神病に関し新たな提案がなされている。しかしこの新たな提案においても,たとえば抑うつ状態,あるいは妄想状態を伴った老人性痴呆が分類されており,さらには急性精神病の状態や慢性化した(protracted)精神異常状態を持つ動脈硬化症が分類されている。これらの分類や改訂,提案は,他の諸家の採用する分類とともに,老年期の精神病は病因的に種々の要因がからみ合っていることを示唆するだけでなく,これらの精神病とまず最初にかかわり合う臨床的に把えられる病像が病像形成的な種々の条件により複雑に加工され,これらの分類の基礎となる診断が困難であることをも示していると考えるべきである。
 老年期の精神病が問題になる場合,診断を困難にする条件は,まず,老年期にあるということにより,老年期に応じた身体的条件を考えねばならぬということである。臨床的に老年期に応じた身体的な症状が把えられる場合,この身体的な症状を精神病の発病と関連づけることは,種々な問題点はあるが1),一応可能である。しかし老年期では,このような身体症状が把えられなくても,発病条件として老年期の生理的な身体的変化を無視することはできない。つぎに,身体的次元の問題のみでなく,老年期ではこの時期に応じた心理的な変化,家庭的,社会的な環境条件の変化があり,これらの心理的,環境的条件が病因的に,また病像形成的に重要な役割を演ずることも考えなければならない。老年期の精神病では身体的,心理的および環境的条件が病因的にまた病像形成的に複雑にからみあっていることが大きな特徴である。Weitbrecht11)が退行期の器質的に条件づけられている精神病で,分裂病に特徴的な一級症状や,うつ病に特徴的な原不安(Urangst)の把えられる症例を報告していることや,Bronisch2)が老年者の精神症状は正常の老年者の精神機能の量的偏移であると考えられると述べていることなどは,老年期の精神病の診断が困難であることを示す事実である。さらにまた,青壮年期に既に精神病を発病したことのある患者が,老年期で精神病を再発した時,この精神病像は青壮年期のそれとは量的に相違していることは当然考えられるとしても,場合によってはこの病像が青壮年期のそれとは質的に変わっていることもあることや,妄想状態を前景とする精神病ではうつ病と分裂病の鑑別が困難なことはよく知られている事実である3,4)

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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