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研究と報告
マリファナ精神病の1臨床例
著者: 加藤伸勝1 佐藤能史1 葉賀弘1 浮田義一郎1
所属機関: 1京都府立医科大学精神神経科教室
ページ範囲:P.261 - P.269
文献購入ページに移動大麻草より得られる陶酔剤であるマリファナ(Marihuana)の使用が,これを使用する歴史的伝統のなかった国々でも,近来とみに増加してきている。そしてその影響について,また,その使用がひき起こした社会学的問題について激しい議論をよび起こしている。米国においては,高校・大学生の60%が使用経験ありともいわれ,使用者総数は1,200〜2,000万人に達すると推定されている。マリファナの精神身体的影響の評価が一定しないままに,多数の青少年がマリファナをごく気軽に使用するという風潮ができ上がってしまい,旧世代のものが,マリファナを麻薬と同様に考えるのに対し,若者達はマリファナを媒体(mind expanding drug)として自分の将来と社会的価値通念を新しく見なおそうというのであるが,薬剤などを用いた異常な意識下で下される判断が,はたして妥当なものかどうか疑問視されている。しかし,マリファナの評価については,医学界でもまだ疑問に答えるだけの充分な解答をもたず,社会学的・社会心理学的評価も必ずしも一定していない。
このような社会的背景の中からマリファナ使用によってひき起こされる精神医学的症候群の報告は,1960年代以降増加の一途をたどっている。マリファナは他の幻覚剤,アヘンアルカロイドあるいは覚醒剤などに比べて,中毒作用は緩和で,身体的依存を生じることはほとんどないといわれている。しかしながら一方で中毒性精神病の報告が増すにつれ,この一面も無視し得ない問題となってきている。われわれは最近,比較的長期にわたるマリファナ喫煙によってひき起こされた精神障害の1症例を経験したので,ここに報告し,本邦においてもこの種の中毒性精神病が問題となり得る危険性のあることを警告し,かつその精神症状の特徴について検討を行ってみたい。
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