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研究と報告
全生活史健忘を装った詐病の1例
著者: 上島国利1
所属機関: 1慶応義塾大学医学部精神神経学教室
ページ範囲:P.455 - P.461
文献購入ページに移動自分の名前,生い立ち,過去の経歴など自分の全生活史にわたる記憶を喪失した事例,いわゆる全生活史健忘は心因反応による特異な健忘状態とみなされ,犯罪との関連も注目されている。記憶喪失のうちでも全生活史にわたる広汎な健忘を残すものは珍しいが,通常,回復は2,3日から1カ月くらいの比較的短時間のうちに記憶を取り戻している。そのさいに最も問題となるのは詐病との鑑別である。筆者は精神衛生法により強制入院を受けたのち,偽りの氏名のみを明らかにしたが,他の一切の生活史健忘を示し,4年間にわたる様々な働きかけにも何らの反応を呈さず,4年目に実は住所氏名,生活史のすべてを最初から知っていたと述べた症例を経験した。精神医学的には種々の興味ある問題を秘めていると思われるのでここに報告する。
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