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研究と報告
多彩な精神症状を呈したくも膜下出血の1例
著者: 稲田良宜1 宮内利郎2 原実2 北村創3
所属機関: 1横浜市立大学医学部脳神経外科 2横浜市立大学医学部神経科 3横浜市立大学医学部第1病理学教室
ページ範囲:P.503 - P.509
文献購入ページに移動くも膜下出血後の精神症状は,急性期の髄膜刺激症状・意識障害・運動不穏を除くと,情動の変化・自発性の低下・記憶障害などがあげられる。これは血腫形成あるいは脳血管攣縮による局所性虚血に起因するとされており,前頭部底部を含めた辺縁系・脳幹網様体の機能低下によるものであろうといわれている1)。脳動脈瘤の破裂がくも膜下出血の原因の半数以上を占めることを考えれば,くも膜下出血の精神症状が,脳動脈瘤の好発部位と密接な関係を有しても不思議ではない。事実,前交通動脈瘤・内頸動脈分岐部動脈瘤などで精神症状の発現が多い。
一方,くも膜下出血は,脳底槽に高度の癒着性閉塞を起こすためにも,種々の症状をきたすことが知られている。その症状は,頭蓋内圧亢進のある場合は,頭痛・錯乱ないし嗜眠から半昏睡にいたる意識障害などである。頭蓋内圧正常の場合は,意識障害より精神症状が前景に出ることが多く,健忘・自発性の低下,高度になるとKorsakoff症状を呈し,痴呆となる。これに歩行障害・尿失禁が加わることも多い。1965年Adamsら2,3)は,後者を正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus以下NPHと略す)と呼び,脳室心房短絡術により症状が改善されると報告している。それ以来,NPHは治り得る"痴呆"として脚光を浴びている。しかし,痴呆と尿失禁・歩行障害を有する患者に接することの多い精神科領域での報告はまだ少ない。最近著者らは,くも膜下出血後に痴呆となり,脳室拡大と正常髄液圧・歩行障害・尿失禁などを有し,外科的治療が考慮されている間に死亡した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。
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