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雑誌目次

雑誌文献

精神医学17巻8号

1975年08月発行

雑誌目次

巻頭言

精神分裂病に対する研究態勢の強化

著者: 菅修

ページ範囲:P.782 - P.783

 精神分裂病の研究は,精神医学の主要課題であるから,古くから数多くの業績があげられている。しかし,それにもかかわらず,その原因は依然として謎に包まれており,その治療法も確立されていない。最近精神医学界にいろいろな問題が派生しているが,それらは,煎じ詰めれば,結局精神分裂病の問題が未解決であるところに,諸悪の根源がある。
 したがって,精神医学関係者は,何をさておき,精神分裂病を攻略することを最大の仕事とすべきである。

展望

精神医学の方法論—生活臨床の教訓

著者: 臺弘

ページ範囲:P.784 - P.800

I.方法論的考察とその歴史
 ここで方法論というのは,問題の解決をどのような仕方で試みるかということを考察することであって,問題の解決を与えることではない。ある目標に達するための優先的,効果的,具体的な方策をたてることは,戦術論や戦略論であって,方法論ではない。わが国では方法論というととかく技術上の論議と混同されるが,それは誤解である。方法論はまず全体を見渡して問題のあり方を見定めること,研究の目指す方向を定位して問題の立て方を考えることである。問題のあり方を見定めるのは地図をつくる作業に似ている。地図というと平面的に受け取られるおそれがあるというなら,問題の構造と言いかえてもよい。この地図の中にどのような道をつけるか,それが問題の立て方である。道ははっきりとわかっていないのが特徴だというなら,探索の仕方と言いかえてもよい。地図は一種類しか描けないというものではなく,道は一本とは限らない。できるだけ応用のきく一般的な地図と自由な足どりを可能にする道を,精神医学のために用意することが本論文の目的である。
 精神医学にとって方法論的考察が今日何故に必要なのであろうか。近頃,知性に対する信頼が失われたということを表明するのが一部の流行となっており,それが人間性を尊重することでもあるかのようにふるまう人さえある。方法論的考察すらも拒否する声があることは,問題を却って鮮烈に意識させるものである。その声によれば,現場に密着して生じた問題提起は,方法論という抽象的次元でいなされてしまうというのである。方法論的に反省しようという知的な発想自体が,事態の根源的な理解からわれわれを遠ざけるものだというのである。私は,方法論でいなされてしまったり,遠ざけられてしまうような問題提起や理解は,はたして現場に密着し事態の根源に迫っているものか疑わしく思う。また,たとえ現場の問題をいなしてしまうような抽象化による方法論が一部にみられたとしても,それは正しいものではあるまい。正しい抽象化とは,同じ目的に対し,異なった手段,異なった立場に立って努力している人びとが,より具体的に協力しあえるためになされる作業なのであり,この時にこそ真に価値ある方法論が成立するのである。

研究と報告

一卵性双生児の一方にみられた神経症性うつ病

著者: 南光進一郎 ,   井上英二

ページ範囲:P.801 - P.806

I.はじめに
 双生児法による神経症研究の目的は2つある。1つは未だ十分に明らかにされたとは言い難い神経症の病因論的(etiology)研究の手がかりを得ることであり,他の1つは症状発現に至る遺伝—環境系の力動的過程(dynamic process)の追求を幾分なりとも実証的に行うことである。前者の例として本邦では飯田1),井上2)の研究がある。症例研究は後者を目的とするが,とりわけ一卵性双生児における不一致例の検討は,遺伝的には同一と考えられる健康者を対照とすることにより,神経症の発現に至る環境要因の分析をより客観的になし得ると期待される。
 しかしながら,他の精神疾患に比し環境要因がとくに大きな意義をもつと考えられる神経症の研究においては,双生児法をもってしてもその分析は容易ではない。1例1例の忍耐強い症例の積み重ねが必要とされる所以である。このような不一致例の報告として,本邦では諏訪ら3),飯田4,5),熊野ら6),辻ら7)の報告があるが未だ十分な数とはいえない。私達は,最近,神経症性うつ病を呈した不一致例を経験したので報告する。

一卵性双生児の一方にみられたDepressive Characterの1例

著者: 西川祐一 ,   山口隆 ,   大森淑子

ページ範囲:P.807 - P.814

I.はじめに
 ある日米混血の女子学生が,短期間のうちに3回服毒自殺をはかった。彼女はふだん明朗活発な子として知られており,自殺企図の動機をさぐっても,取るに足らぬようにみえる,些少な動機がわずかばかり発見できただけであった。彼女を死に追いやろうとしたのは,一体何だったのであろうか。この素朴な疑問が,この女子若年患者との短期精神療法的な治療関係の中で絶えず,治療者の心の片隅に留まっていた。
 まもなく,患者には外見の非常によく似たふたこの妹のいることがわかった。治療者はこの妹と面接をするたびに,もしかしたら現在,自分の目の前にいる人が実は妹でないのではなかろうか,実は妹ではなくて患者自身が化粧を直し衣装を変えて出直してきたのではなかろうか,としばしば自問した。その後,卵性診断の結果,2人は一卵性双生児であることが判明した(表1)。

てんかん患者にみられた精神分裂病様幻覚・妄想状態について—第1報 症候学的検討

著者: 山内俊雄 ,   藤枝俊儀 ,   木村直樹

ページ範囲:P.815 - P.822

I.はじめに
 てんかん患者の一部にみられる幻覚,妄想などの精神分裂病様症状については,古くから多くの人々の関心をひき,いろいろの立場からの検索が行われてきた2〜5,7,9,10,14,15,20)
 しかしながら,従来の報告をみると,研究の対象として選ばれた症例のうちには,てんかん患者に精神分裂病様症状が出現してきた症例だけでなく,精神分裂病の経過中に,てんかん性けいれんが生じてきた症例や,境界領域として従来から非定型内因性精神病などと呼ばれている症例など,多少異なる対象が同一に扱われているむきもある。

執着性格とてんかん性格の比較—第2報 Downeyテストの成績

著者: 大熊輝雄 ,   川原隆造 ,   久場兼功 ,   梅沢要一 ,   中沢和嘉 ,   田中潔

ページ範囲:P.823 - P.833

I.はじめに
 てんかん性格は几帳面,融通性欠如,執拗・くどさ,粘着性,爆発性などを主な特徴3)とし,また執着性格も几帳面,仕事熱心,熱中性,責任感が強いなどの特徴17)をもち,両者のあいだにはある程度の類似性があると思われる。しかし,従来はこの両性格について詳しい比較検討を行った研究はほとんどなかった。著者らは,執着性格とてんかん性格との類似点や相異点が,従来使用されている各種の心理テストの結果にどのように反映されるかを通して,この両性格の異同をより正確に把握したいと考え,さきにロールシャッハ・テストによって両性格の比較を行った(大熊ら14),1975)。
 その結果,ロールシャッハ反応における類似性から,両性格に共通して,几帳面,些事にこだわる,融通がきかない,紋切り型などの性格傾向が存在することが示され,また相違点としては,執着性格者ではてんかん性格者より決断力不足,自信欠乏,常同的・現実的などの性格傾向が強いのに対し,てんかん性格者では執着性格者より自己中心的,独断的,衝動的,協調性困難などの性格傾向が強いことが示唆された。

アルコール中毒の治療における家族の態度について

著者: 有川勝嘉

ページ範囲:P.835 - P.843

I.はじめに
 アルコール中毒,なかんずくその嗜癖に対する治療法としてのCyanamideによるDouble Medication Technique7)(以下DMT)とその手技8,9),そしてその治療効果が量的にも1)質的にも2)すぐれていることはこれまで明らかにしてきた。われわれのこの治療においては,その家族に対する接近が治療の基礎となることはいうまでもない。ところが酒害者に対する治療経験の中で,われわれが外来で行っているDMTにおける治療と,一般精神病院に入院している患者における治療の場合では,家族の治療に対する姿勢あるいは認識に大きな差異があり,精神病院に入院している患者の場合は治療効果をあげることが非常に困難であることを常々体験している。それは入院患者の場合,治療に協力する家族もいない単身者が多いことが原因の一つであるが,同時に入院患者に家族がいる場合でも家人の治療に対する態度がDMTの場合とは非常に異なっていて,それが治療と予後に大きく関係していると印象づけられている。
 今回,外来で行っているDMTの群と一般精神病院に入院している群の患者およびその家族の比較をいくつかの角度から検討してみた。その差異を知ることは,これら酒害者の治療における家族への接近について種々の有益な示唆を与えてくれるものと考えられる。

アルコール嗜癖者にみられたペラグラ精神病について

著者: 鈴木愷宏 ,   高畑直彦 ,   里見龍太 ,   鈴木隆

ページ範囲:P.845 - P.849

I.はじめに
 最近われわれは,2名のアルコール嗜癖者の神経病理学的検索を行う機会をもった。1例は,皮膚症状,消化器症状,精神症状のいわゆるペラグラの三徴を備えていた。他の1例は,皮膚症状を欠き,神経衰弱様ないし抑うつ症状が約6カ月間つづいた後,急激に意識障害が現れ死亡した。この症例は剖検の結果,ペラグラ精神病が疑われた。
 純粋な低栄養状態が稀となった今日,アルコール嗜癖者にペラグラ,およびペラグラ精神病と考えられる疾患がみられたのは興味深いことと考え,これら2例の臨床像と神経病理所見について報告する。

Transient Global Amnesia—Amnestic Episodeの最中に観察された3例について

著者: 岡田文彦 ,   小山司 ,   塚本隆三 ,   伊藤直樹 ,   水野和子 ,   原岡陽一

ページ範囲:P.851 - P.856

I.はじめに
 1964年にFisherとAdams8)は中高年齢層で急性に発症し,他に神経学的欠陥を伴わない一過性の記憶の形成と保持の障害を特徴とする17症例を詳細に検討し,症候群としてのtransient global amnesia(TGA)の概念を確立した脚注
 本症候群は1回だけのエピソードであることが多く,エピソードの最中にみられる健忘はshort-term memory(数分以上経過しても想起可能な記憶)の障害によるもので,数時間持続し,数日から数週間の逆向健忘を伴っている。この逆向健忘はエピソード終了後短時間のうちに1時間かそれ以下に急速に減少する。エピソードの最中,患者はやや混乱当惑し,同じ質問を何度も繰り返すが,通常の意味での意識の障害は認められず,問いかけには敏速に応答する。immediate memory(数秒から数分位のごく短い記憶)とremote memory(数週〜数年以上前の記憶)が保持されているため,自分の名前や自宅の住所は間違えず,車の運転や料理などの合目的的行為を続けることが可能である。

Concussion Amnesia—その特異な一過性の記憶障害について

著者: 岡田文彦

ページ範囲:P.857 - P.861

I.はじめに
 脳振盪の程度がごく軽度であれば,外傷直後,数秒間意識を失うか,あるいは単に目がくらむ程度かであるが,それに引き続く数時間患者はとりとめもない行動をしたり,同じことを何回も繰り返し,やや混乱した状態を示すことがある。この場合,程度の差はあるが意識の混濁が基盤にあると考えられている。したがって,この期間の出来事についての記憶は断片的であるか,あるいは何ひとつ残されないこともある。さらにこの記憶欠損は外傷以前に向かって広がってゆくがその程度はさまざまである1,10)
 ところで実際の臨床の場で,外傷を受けたと思われる直後にもまったく意識混濁を認めず,かつその後の数時間にわたって意識清明と思われるにもかかわらず,高度の記憶障害を認める症例に遭遇することがまれならず経験される。

古典紹介

—Wagner von Jauregg—Über die Einwirkung der Malaria auf die progressive Paralyse

著者: 大塚俊男

ページ範囲:P.863 - P.870

 進行麻痺に対して,つい少し前にはかなり治療的に無力であると思われていたのに(たとえば1894年のNothnagelの専門書の中のKrafft-Ebingによるその疾患を取り扱ったもの,およびその時代の精神医学のたいていの教科書を見よ),多方面からこの疾患の改善を目指した治療の試みが行われ,そして,有効な成果が報告されたことによって,最近の何年間に急激な見解の変化が生じてきた。
 用いられた治療方法に二群,すなわち,特異的および非特異的方法がある。

動き

C. ブラント博士の講演を聞いて—自殺とその予防

著者: 稲村博

ページ範囲:P.871 - P.874

 1974年10月19日(土),東京において,西ドイツの精神科医C. Brandt博士の講演会が開催された。これは,「自殺予防研究会」と,社会福祉法人「いのちの電話」の共催になるものであり,精神科医をはじめとする諸科の医師,医学研究者,心理学者,ケース・ワーカーなど,自殺問題に関心の深い多方面の参加を得た。博士の来日は,わが国最初の電話カウンセリング機関である「いのちの電話」の招聘によるものであり,同年8月に東京で同機関が主催した「国際電話カウセリング会議」に続く,同年二度目の国際的交流であった。博士は,西ドイツのドュッセルドルフ市で,25年間精神病院の運営に当っておられるほか,同市にある電話カウンセリング機関Telefon-seelsorgeの総括責任者でもある。また,西ドイツの電話カウンセリング協会の理事として,全ヨーロッパ的規模での,自殺予防活動と,その運営・指導にあたっておられる。当日の講演は,博士の実践正視の精神にいろどられているいっぽう,いかにもドイツ人らしい,重厚かつ精緻な,格調高い論理性に貫かれていて,彼国の伝統に改めて思いをいたさせるものであった。
 以下,その概要を報告するとともに,ひき続き行われた討議の要点を紹介する。

資料

長期通院患者についての調査—第1報 うつ状態症例について

著者: 明楽進 ,   内藤利勝 ,   中田輝夫 ,   田辺英恭 ,   山口仁 ,   井上道雄 ,   関英馬 ,   伊東昇太 ,   高塩悌二 ,   李海澈 ,   西尾友三郎

ページ範囲:P.875 - P.879

I.はじめに
 当大学は昭和3年昭和医学専門学校として発足し神経科は同11年に診療科目として独立したものである(もっとも教室としては昭和6年に講義の必要上設置されていた)。同専門学校はその後医科大学となり,次いで現在昭和大学医学部と名称,組織,規模などが変遷してきたのである。神経科は診療においては内科の中に含まれていたのであるが,独立してからいわゆる精神神経科としての病床も有していた。しかし多くの他の医科大学同様に精神病院とはおのずから異なった患者を対象としていたといえる。最近神経内科,脳神経外科などの診療科ないし教室が独立していくようなすうせい下で,当科でも扱う神経病患者は減少しつつある。
 近来精神科診療において,とくに分裂病についてそうであるが,外来診療の重要性が見なおされてきていることは周知のとおりであり,そして大学の外来患者についての論文が日本でもいくつか出されている1,2)

海外文献

Do Anti-convulsants Have a Teratogenic Effect?

著者: 星昭輝

ページ範囲:P.833 - P.833

 妊婦に対する各種薬剤の投与は,胎児に対する影響などを考慮して,慎重にすることが望ましいと一般に考えられている。しかし,てんかん患者に対する抗てんかん剤の投与については,未だ薬物療法に代るべきものがなく,発作が胎児に与える影響などにより,患者の妊娠期間中にも持続的投与が必要であるとされている。
 この論文で,著者らは,まず,抗てんかん剤の催奇形性に関するこれまでの研究における問題点(奇形の定義,対照群のとり方)などを指摘している。ついで,これらの文献を綜説的に紹介して,Janz and Fucks(1964)をはじめとする従来の研究の多くが抗てんかん剤の催奇形性について否定的であったのに対して,最近はその可能性に関する知見が多くなっていることを示している。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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