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雑誌目次

雑誌文献

精神医学18巻1号

1976年01月発行

雑誌目次

巻頭言

自分のはいれる病院を

著者: 西丸四方

ページ範囲:P.2 - P.3

 精神科を志してから40年になるが,いくつかの精神科の病院を見る機会があっても,自分が病気になったときに,この病院なら入院してもよいというような病院にはめったに遭遇しなかった。大都会のある贅沢な病院はよい病院で,院長は自分が病気になったらはいれるような病院を作ったといったが,経済的に誰でもはいれるというわけにはいかないようであった。ある貧しい県に公立病院ができて,そこの院長は理想家的な実行家であったが,ここには私もはいってもよいと思った。院長にうっかり,この県の貧しい農漁民がここにはいったならば吃驚してしまおう,こんな立派な病院が必要だろうかと,私のみみっちい感想を述べると,せめて病気になったときぐらいはここに入ってもらおうとの答であった。有り難い言葉である。
 ある公立病院は,施設のみでなく看護職員も充分過ぎるくらいで,設立時代には活発で希望に満ちていた。しかし長年たつと患者と同じように病院もぼけてきた。廊下も空地もごみすて場のようにすさんでいるのである。おそらく病院全体のメンバーの心の中もそうであろう。努力してもいつまでもよくならない病人の群の中に長くいると,職員の心が侵蝕されるのであろうか。

展望

最近の健忘症状群の研究

著者: 浅井昌弘 ,   保崎秀夫

ページ範囲:P.4 - P.24

Ⅰ.用語と位置づけ
 健忘症状群に関連した用語としては,cerebropathia psychica toxaemica(Korsakov, S. S.),polyneuritische Psychose, Korsakov' Psychose, amnestisch-konfabulatorisches Syndrom, organisches Psychosyndrom(Bleuler, E),hirnorganisches Syndrom(Bleuler, E.),hirndiffuses Psychosyndrom(Bleuler, M.)などがあるが,前回の展望にも述べたように,健忘症状群とコルサコフ症状群との関係は,まったく同様に取り扱う人と,いずれか一方を広義に解釈して他方を含めるという人があり,このようなあいまいさのためにBleuler, E. はorganisches Psychosyndrom, psychoorganisches Syndromとして,特に記憶の問題のみにかぎらず,その他の思考や感情などの障害を含むものまでを入れてまとめたが,Bleuler, M. はこれをさらにhirndiffuses Psychosyndromとしている(これは彼のいうhirnlokales Psychosyndromに対立させるための言葉でもある)22)。したがってorganisches PsychosyndromのほうがKorsakov Syndromより広義ということになるが,論文によっては,その点がはっきりしないものもある。一般にコルサコフ症状群の際は,特に作話(Konfabulation,fabulation)と,健忘(逆向を含む),失見当,記銘力障害が重視されているが,前回の展望の時期には,この記銘力障害の点では,これが必要な条件ではないという見解が出てきており(逆にこれが極端に前景に出るMinutengedächtnisの例が報告されたりした),特徴的な作話についてその背後にある人格その他の推定される障害が追及され,さらに脳の局在との関係を追及する論文が多く出されていた。著者らはさらに,その他に心因健忘(全生活史健忘)も特異なものとしてふれておいた。今回の展望にあたっては,前回紹介した内容にほぼ連続するもの(一部は前後,重複している)を取り上げたが,厳密にいえば健忘症状群だけではなく,記憶の病理にかかわる特異なものをこれに含めて紹介するようにした。なお今回は脳の病巣部位を中心にせずに疾患別にまとめてみた。Korsakov' SyndromのKorsakovの“v”は精神医学用語集ではKorsakoνとなっているが,ここでは引用する文献の各著者の記載に従って書いてあるので区々になっている。コルサコフの原著については,1887年の露文からの英訳(Victorら,1955)206)があり,1889年の独文のものは池田(1974)96)により邦訳,紹介されている。
 さて,コルサコフ症状群(Korsakov Syndrom以下K. S. と略す)は従来からドイツ語圏では意識障害とは区別されて記憶障害を中心に論じられ,フランスでは外因反応としての精神錯乱(confusion mentale)の中で意識障害との関連において記載されてきた。ここでは,まずK. S. の位置づけについて意識障害との関連を中心に最近のいくつかの見解をあげてみる。

研究と報告

大学病院および精神病院を退院した精神分裂病患者の治療状況について

著者: 岩井濶之 ,   横山茂生 ,   鍋山敏郎

ページ範囲:P.25 - P.33

I.はじめに
 向精神薬物療法の登場とその発展により,精神分裂病の治療形態は,従来の入院第一主義から外来治療へと,その比重が変わりつつあることは周知のことである1〜4)。もちろん,このような治療形態の変化にもかかわらず,精神分裂病の予後,特に寛解率は相変わらず30%前後5〜7)といわれている。しかし薬物による症状の軽減に比例して,不十分ながらも社会生活への適応性が増加し,その意味で,社会的寛解ということが臨床場面では大きな治療目標となっていることも事実である。さらに最近多くの人々8〜11)が指摘するように,服薬中断による再発という新しい問題を治療状況の中に惹起することになった。
 慢性分裂病患者が大なり小なり何らかの精神機能の欠陥を残して長期間の通院と服薬を続けるには,主治医および家族をはじめ,患者をとりまく周囲の多くの人達の支持が必要であることは当然と考えられる。

精神分裂病発病契機についての一考察—その力動的,社会文化的,ならびに治療的理解のために

著者: 阪本健二

ページ範囲:P.35 - P.41

 Ⅰ.
 私が現在,この古くしてまた,新しい問題を再び取り上げようとするのは,この問題が数多くの研究者によって,ほとんど語り尽くされているにもかかわらず,種々の臨床的知見に対して力動的精神医学の見地からは充分な説明がなされているとはいえないと考えられるからである。
 現在までの諸家の意見を総合すれば,その大勢は,精神分裂発病が内因性疾患であり,発病契機はその誘因にすぎないにしても,何らかの意味を持っているとする見方であると思う。一般に非特異的な契機として,身体疾患,伝染病,過労,戦争体験,経済的困苦などがあげられるが,これは,精神分裂病の発病に特異な要因ではなく,現在私が問題としようとしているものではない。しかしながら,これらの指標をこえて,より以上に分裂病の力動の構造を示す契機を問題にしようとすればそれは,やはり精神療法的接近の経験をもった人々の間にみられた意見に現れたものを取り上げねばなるまい。

Trichotillomaniaの精神医学的考察—自験例7例を中心に

著者: 小口徹 ,   佐藤喜一郎 ,   斎藤隆三

ページ範囲:P.43 - P.50

I.はじめに
 Trichotillomania(抜毛症,抜毛癖)とは,頭髪,眉毛,恥毛などを自らの手で,強迫的に引き抜くことにより,その部位に不完全脱毛巣を生ずるもので,1889年Hallopeau11)がAlopécie par grattage-trichomanie ou trichotillomanie-の名で報告したのが最初である。強度の瘙痒感のため,広範囲の頭髪をかきむしる性癖をもった1症例で,明らかな精神障害が認められた。Mannino and Delgado15)によれば,欧米ではすでに,1950年の終りまでに32篇の報告があり,以降飛躍的に報告数は増しているという。
 本邦では1930年土肥29)が第1例を報告し,1964年に茶山ら5)が自験例を含めて52例を集積している。1970年には升水ら16)が新たに自験例13例をまとめて報告している。その後も学会報告抄録の形で少数例が追加され現在に至っている19,20)

欲眠を呈したうつ病の1例

著者: 上島国利 ,   菊野恒明

ページ範囲:P.51 - P.57

Ⅰ.緒言
 ねむりは本能的行動であるが単なる生理的現象ではなく,個人の持つ習慣,環境,心理状態によりその発現が様々な影響を受ける,より人間的な現象である。多くの精神障害において睡眠の異常は,不眠の型をとり,特にうつ病においては,不眠がきわめて高頻度にみられる。一方睡眠増進(hypersomnia)ないし嗜眠(Schlafsucht)は,間脳領域の破壊,動脈硬化,嗜眠性脳炎などの器質的疾患,Kleine-Levin症状群,Pickwickian症状群,ナルコレプシー,神経症(回避反応,擬死反射),内因精神病の一部,などの機能的疾患でみられるが,うつ病においてはきわめて稀な現象とされている。
 我々は,うつ病に伴った睡眠増進現象のみられた1症例を経験した。現在までの文献的考察に加えて,この症例にみられた睡眠増進現象発症の状況,その意味について考察したのでここに報告する。

非てんかん患者のPentetrazol賦活閾値に及ぼす向精神薬療法の影響

著者: 梶鎮夫

ページ範囲:P.59 - P.66

I.はじめに
 てんかん患者にchlorpromazine(以下Cpz)などの向精神薬を投与すると,発作頻度の増加1,21,29),脳波異常の増悪2,19,28,32,33)がみられ,けいれん閾値も低下する29,33)ことが知られている。また,けいれん発作の既往のないものにおいても,Cpzの少〜中等量の投与中に,Logothetis17)によればその3〜5%以下のものにではあるが,けいれん発作が生じているという。しかし,向精神薬服用がこれら非てんかん者の脳波に及ぼす影響は,概して軽微であり,振幅の増加,基本周波数の減少が軽度にみられる程度である2,5,8,9,32,33)。ただ最近,越野ら13)は,Cpzあるいはlevomepromazineとhaloperidolの併用時に,棘—徐波結合など発作波の出現した症例を見出して継時的観察を行なった結果,その出現は向精神薬服用との関連性が密接であったと述べている。けいれん閾値に及ぼす影響については,BradleyとJeavons3)は,Cpz, reserpine(以下Res)投与後も,Cpz投与の1例を除き閾値の低下をみることはできなかったが,田中ら31)は,Cpz投与中多くの例において,閾値は投与前に比べ低くなっていたと述べている。
 かって,澤24),山崎34)は,電撃療法後に生じる自発性てんかん発作が非定型精神病に多くみられることを指摘しているが,さらに澤24,25),柏倉11)は,内因性精神病のpentetrazol賦活閾値を測定することにより,非定型精神病群の平均閾値が定型的な精神病および正常健康人群に比べて低く,てんかん群の閾値に近いことを見出した。このことは,電撃療法後の自発性てんかん発作が,閾値の低いものにより生じやすいことを示しているように思われる。

向精神薬療法中の精神神経疾患者の皮膚科的所見

著者: 小椋力 ,   古賀五之 ,   赤松哲夫 ,   久田研二 ,   上田肇 ,   大熊輝雄 ,   島雄周平 ,   三原基之 ,   井上多栄子 ,   阿曽三樹 ,   土江春隆 ,   久葉周作

ページ範囲:P.67 - P.76

I.はじめに
 各種の向精神薬が開発されるにつれて,薬物療法は精神科領域で広く行なわれるようになったが,それとともに向精神薬の副作用も数多く報告され,副作用は治療上重要な問題となってきている。そのうち錐体外路症状,けいれん発作,精神症状などの中枢神経系への影響,自律神経系への影響,肝障害(Wertherら34),1957;Bloomら4),1965;大熊ら28,29)1968;1969),造血系障害,心血管系障害(Courvoisierら8),1953;Kupatz17),1959),突然死などが知られており,さらに最近,眼に及ぼす影響(Bockら5),1963;本多ら14),1973;大熊ら30),1975;小椋ら27),1975),tardive dyskinesia(Sigward33),1954),悪性症状群(Bourgeoisら6),1971)なども注目されてきている。
 しかしこれらの副作用と服用した向精神薬との関係は必ずしも十分に明らかではなく,副作用出現の相互関係などはほとんど明確にされていない。

古典紹介

—Kretschmer, E.—Über psychogene Wahnbildung bei traumatischer Hirnschwäche

著者: 飯田真 ,   大田省吾

ページ範囲:P.77 - P.94

 今日まで頭蓋外傷後の妄想形成について2つの形式がとくに注意を払われてきた。判断錯誤の群は重症の急性脳震盪性精神病の初期段階に存在し,譫妄性体験,中でもコルサコフ症候群に近い関連がある。たとえば,部分的にだが,妄想的執拗さで週余にわたり保持される場面の誤認が存在し,最も近い過去の体験材料が全体として故郷の環境の中での昔の生涯の一時期に移される。もう一つは完全に別の状態だが,災害神経症の例の特殊形として同様によく知られており,この場合は軽度の頭蓋外傷が器質的脳損傷として直接的に作用するのではなく,精神的体験として作用しつづけ,補償の支払いの時点で感情誘因的に加工され,無為で心気的な妄想複合体,または好訴性精神病の出発点となり得るのである。
 ここではこの2つについては議論するつもりはない。我々はむしろ次のような状況に注目する。すなわち,重症の脳外傷後(それが震盪であろうと創傷であろうと)すべての急性症状が消退した後に,外傷性脳衰弱の慢性後遺状態が残留する。このことが真実であることは,我々の症例において,び漫性の精神的変化と並んで個別に限定された脳器質性後遺症状もまた持続する事実によって証明される。この外傷性脳衰弱という新しく作りだされた精神状態像は,どの程度までそれが後の妄想形成の基礎であるか,すなわち後の人生の経過の中でその所有者に新しい体験刺激が作用し,その体験刺激が,彼の器質的要素とでも,精神的要素とでもなく,脳外傷そのものと何らかのかかわりを持つ場合に,彼をどの程度まで妄想化させるかということを我々は考察しよう。要するに,器質的脳衰弱が後の心因性妄想形成に対する条件の一つになる場合である。器質的原因と精神的原因との密接な絡み合いは,この問題設定にとって理論的に興味をひくことである。この問題設定は,近年しばしば精神分裂病学説によってむしかえされている考え方に近いが,我々の研究対象に則してとくに明らかにされることである。というのは,ここでは個々の因果の糸,すなわち精神的なものと脳的なものとが,はっきりと区別されているからである。我々はそのさい,ただ単に外傷により形作られた脳状態と,後に喚起された精神的体験のみを考察するのではなく,性格素因もまた考慮に入れる。このことによって,この3つの要素間の因果的交互作用が,我々の知識をより豊富にすることが可能になるのである。

解説

—エルンスト・クレッチュマー著—外傷性脳衰弱における心因性妄想形成

著者: 飯田真

ページ範囲:P.95 - P.96

 E. Kretschmer(1888〜1964)の「人と業績」については,すでに多くの紹介があり,私1,2)自身もかつて別の所に書いたことがあるのでここでは繰り返さない。
 彼がこの論文を発表した当時のドイツ精神医学界の状況は,荘大な精神医学の体系を確立したKraepelinの名声が次第に薄れ始め,Kraepelinに対するHocheの批判が引用されたり,Sternが精神医学的診断の可能性について論じたりしている頃であった(Rümke3))。Kretschmerは当時30歳の若さであり,Schwaben詩人学派といわれたGauppの教室の自由で繊細な雰囲気の下で,処女作「敏感性関係妄想」を始め,彼の天才的創造活動が花開きつつあった。この論文でもKraepelin体系,殊に単一診断学,疾患単位説に対して,敢然と挑戦を試みており,その若々しい情熱と自負が感じられる。本論文「外傷性脳衰弱における心因性妄想形成」は,彼が初めて多次元診断学の古典的図式を提示した歴史的意義を有する論文である。

海外文献

Dopamine-Sensitive Adenylyl Cyclase in Human Caudate Nucleus—A Study in Control Subjects and Schizophrenic Patients/A Pharmacological Model of the Pathophysiology of Schizophrenia

著者: 金野滋 ,   融道男

ページ範囲:P.76 - P.76

 現在,いくつかの間接的な根拠から,dopamine(DA)受容体の生化学的異常が分裂病に関与していると考えられている。同時にcyclic AMP合成酵素であるadenylyl cyclaseがDA受容体と密接な関係にあると考えられている。抗精神病剤がDA刺激によるadenylyl cyclaseの活性化を阻害するという報告は多く,また,このDA感受性adenylylcyclaseは黒質線条体,あるいはmesolimbic系に存在するといわれている。そこで著者らは,分裂病者と非分裂病者の剖検脳を用いて,尾状核ホモジネートのDA感受性adenylyl cyclaseの基礎活性とDA刺激による活性増加を測定し,両群を比較した。7例の分裂病者の診断は3例が妄想型,4例が慢性分類不能型で,年齢は25〜65歳(平均44.7歳),薬物投与量はchlorpromazine換算量で0〜900mg/日(平均292mg/日)であった。非分裂病者9例を含めた16例で死後,脳組織を取り出すまでの時間は2〜69時間であった。adenylyl cyclaseの活性測定は14C-ATPを添加し生合成された14C-cyclic AMPを測定し基礎活性(cyclic AMP合成量/mg蛋白/min)とし10-5MのDAを同時に添加した際の14C-cyclic AMP合成の%増加率でDA刺激による活性の増加を表している。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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