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文献詳細

雑誌文献

精神医学18巻1号

1976年01月発行

文献概要

展望

最近の健忘症状群の研究

著者: 浅井昌弘1 保崎秀夫1

所属機関: 1慶応義塾大学医学部精神神経科学教室

ページ範囲:P.4 - P.24

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Ⅰ.用語と位置づけ
 健忘症状群に関連した用語としては,cerebropathia psychica toxaemica(Korsakov, S. S.),polyneuritische Psychose, Korsakov' Psychose, amnestisch-konfabulatorisches Syndrom, organisches Psychosyndrom(Bleuler, E),hirnorganisches Syndrom(Bleuler, E.),hirndiffuses Psychosyndrom(Bleuler, M.)などがあるが,前回の展望にも述べたように,健忘症状群とコルサコフ症状群との関係は,まったく同様に取り扱う人と,いずれか一方を広義に解釈して他方を含めるという人があり,このようなあいまいさのためにBleuler, E. はorganisches Psychosyndrom, psychoorganisches Syndromとして,特に記憶の問題のみにかぎらず,その他の思考や感情などの障害を含むものまでを入れてまとめたが,Bleuler, M. はこれをさらにhirndiffuses Psychosyndromとしている(これは彼のいうhirnlokales Psychosyndromに対立させるための言葉でもある)22)。したがってorganisches PsychosyndromのほうがKorsakov Syndromより広義ということになるが,論文によっては,その点がはっきりしないものもある。一般にコルサコフ症状群の際は,特に作話(Konfabulation,fabulation)と,健忘(逆向を含む),失見当,記銘力障害が重視されているが,前回の展望の時期には,この記銘力障害の点では,これが必要な条件ではないという見解が出てきており(逆にこれが極端に前景に出るMinutengedächtnisの例が報告されたりした),特徴的な作話についてその背後にある人格その他の推定される障害が追及され,さらに脳の局在との関係を追及する論文が多く出されていた。著者らはさらに,その他に心因健忘(全生活史健忘)も特異なものとしてふれておいた。今回の展望にあたっては,前回紹介した内容にほぼ連続するもの(一部は前後,重複している)を取り上げたが,厳密にいえば健忘症状群だけではなく,記憶の病理にかかわる特異なものをこれに含めて紹介するようにした。なお今回は脳の病巣部位を中心にせずに疾患別にまとめてみた。Korsakov' SyndromのKorsakovの“v”は精神医学用語集ではKorsakoνとなっているが,ここでは引用する文献の各著者の記載に従って書いてあるので区々になっている。コルサコフの原著については,1887年の露文からの英訳(Victorら,1955)206)があり,1889年の独文のものは池田(1974)96)により邦訳,紹介されている。
 さて,コルサコフ症状群(Korsakov Syndrom以下K. S. と略す)は従来からドイツ語圏では意識障害とは区別されて記憶障害を中心に論じられ,フランスでは外因反応としての精神錯乱(confusion mentale)の中で意識障害との関連において記載されてきた。ここでは,まずK. S. の位置づけについて意識障害との関連を中心に最近のいくつかの見解をあげてみる。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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