文献詳細
特別講演
てんかん患者の手術適応
著者: 大熊輝雄2
所属機関: 1カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学医学部神経学 2東北大学医学部精神医学教室
ページ範囲:P.1136 - P.1146
文献概要
一般人口のなかでのてんかんの有病率prevalenceは,数年前までの精神医学や神経学の教科書,成書では,だいたい0.5%であると考えられてきました。しかし,1972年にアメリカ合衆国のNational Institute of Health(NIH)の指導のもとに行なわれた一斉調査では,少なめに見積っても2%はあることがわかりました。その翌年ニューヨークで行なわれたEpilepsy Foundation ofAmericaによるさらに詳細な検討によって,この2%という有病率はきわめて事実に近い数字であることが確かめられています。そこで,もしこの2%という数字を私が住んでいるカナダのブリティッシュ・コロンビアに適用しますと,ブリティッシュ・コロンビアは人口が約200万ですがら,その2%,約4万入のいろいろな形のてんかん患者がいるということになります。また数年前に国際抗てんかん協会International League against Epilepsy(ILAE)のsecretary generalであるK. Penry博士と彼の同僚たちが行なった研究によると,アメリカ合衆国では毎年約7万人の新しいてんかん患者が生まれているということです。その数から推論すると,私の住んでいるブリティッシュ・コロンビアでは,毎年少なくとも700入の新しいてんかん患者が生まれてきていることになります。
いま申しあげた数字が,本当の意味でのてんかんの有病率を示すかどうかについてはいろいろ複雑な問題があるかと思いますが,これが単なる近似値に過ぎないと考えたとしても,2%という数字に,年毎に増えてきている自動車事故による頭部外傷に由来する外傷性てんかんや,出生前,出生時,新生児期におけるいろいろな脳障害に由来するてんかんなどを加えて考えると,非常に大きな数字になると思います。そういう意味では,てんかんの問題はわれわれ医学者として医師としての問題であるだけでなく,社会的な,あるいは国の経済的な問題としても,非常に大きなチャレンジであろうかと思われます。
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