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雑誌目次

雑誌文献

精神医学18巻4号

1976年04月発行

雑誌目次

巻頭言

時間生物学と時間精神医学

著者: 稲永和豊

ページ範囲:P.338 - P.339

 生物の持つリズム,周期性に目を向けると,それだけでも充分に学問的な研究の対象となるであろう。筆者も30年前ヒトの脳波が示す10ヘルツのαリズムは何故発生しているのだろうかと素朴な疑問をいだいたものである。またその当時身体表面から見られる10ヘルツに近い数ミクロンの振動現象(Microvibration)の存在に気づいて,何故10ヘルツ前後のリズムを示すのであろうかと考えにふけったものである。脳波やMicrovibrationのリズムが何故10ヘルツ前後であるのか現在でも解明されてはいない。
 生物の持つリズムは生物体内に存在しているものではあるが,しかし外界からの力によっても変化させられるものである。生物の内部環境と外部環境とが恒常的な状態におかれておれば,生物は比較的安定したリズムを示し続けることが可能である。航空機の発達によって大陸間を短時間に容易に旅行することが日常のこととなった今日では,ヒトの日周リズムcircadian rhythmも旅先で次々と変化を強いられる結果となる。このような外界(外部環境)の変化に応じて生体の内界(内部環境)がどのように適応してゆくかを研究することが必要となってきた。生物学の研究を時間概念を中心にして進めて行こうとする動きは昔からすでに存在していたが,2年前に時間生物学Chronobiologiaという雑誌が創刊され,時間生物学Chronobiologyに関する研究が刺激されることになったのである。時間生物学の研究者の1人であるFranz Halbergという人はミネソタ大学において時間生物学研究室Chronobiology Laboratoriesを主宰している。

展望

精神分裂病の成因に関する神経伝達異常仮説をめぐって

著者: 融道男 ,   渡部修三 ,   渋谷治男 ,   金野滋

ページ範囲:P.340 - P.369

I.はじめに
 生物学から社会学にいたる様々な視点から解明の試みがなされるほど,精神分裂病という疾患は多面性をそなえている。本稿では分裂病の病因をめぐる諸仮説のうちから,生化学的,脳代謝的な側面,特に最近その研究の進歩が著しい神経伝達物質(neurotransmitter),あるいは神経伝達(neurotransmission)の知見に基づいて提出されたいくつかの仮説を紹介したい。神経の伝達を司る物質としてはnoradrenalineやdopamineなどのcatecholamine,serotonin,acetylcholine,γ-aminobutyric acid(GABA),glutamic acid,glycine,substance P(DRP)などがその候補としてあげられているが,本論では前3者について述べ,伝達物質の受容体(receptor)としてadenylate cyclasecyclic AMP系に関する知見についても触れる。論拠の多くは動物実験で得られたものであり,これを分裂病の成因論に導入するには慎重でなければならないが,分裂病を生化学的に考える場合,最近では神経伝達の観点なくして論をすすめることは不可能になってきている。伝達物質の基礎的新知見が日々加えられている現状であるが,現時点における展望を試み,それに若干の討論を加えたい。

研究と報告

精神分裂病者の結婚について

著者: 中沢正夫 ,   伊勢田堯 ,   湯浅修一

ページ範囲:P.371 - P.378

I.はじめに
 本論文は,分裂病者の結婚について,その全般を論ずるものではない。現実に起こった結婚問題について著者らの経験の中から,いくつかの知見を述べようとするものである。
 分裂病者の結婚についての従来の研究6,9,10,12,13)は多く統計的研究である。これらの諸報告は,分裂病者の婚姻率は一般平均より低いとはいえ予想以上に高く,一方,離婚率も高く,少なくともわが国では女性で極端に高いことを示している。しかし,彼らの結婚生活の実態については,ほとんどわかっていないといってよい。

てんかん患者の子における罹病危険率—経験的遺伝予後

著者: 坪井孝幸 ,   遠藤俊一

ページ範囲:P.379 - P.389

Ⅰ.まえがき
 てんかんの病因としての遺伝要因の意義に関する我々の知識は,双生児研究と家族研究に負うところが大きい。
 双生児研究 てんかん双生児における一致率は,1卵性双生児(以下MZと略す,57%,155/274組)のほうが2卵性双生児(以下DZと略す,11%,61/570組,文献37参照)よりも高く,一致率のMZ/DZ比は約5となる。双生児を卵性別・脳障害の既往の有無別に分けた報告(LennoxとJolly,1954,双生児173組)によれば,脳障害の既往のない(いわゆる真性てんかん)MZ群における一致率(88%,45/51)は,既往のある(いわゆる症候性てんかん)MZ群における一致率(35%,9/26)より,著しく高値を示す(X2=23.636,d. f.=1,p<0.0001,筆者の検定による)。脳障害の既往のあるMZ群における一致率35%は,DZにおける一致率(既往なし群13%,6/47;既往あり群12%,6/49)よりも高い。一致のMZ双生児は,発作型,発作の初発年齢,経過がよく類似する。一方が発作を持ち,他方が発作を持たない,即ち不一致のMZでは,無症状のものが脳波検査により,しばしば発端者と類似の定型的てんかん性異常波を示すことなどが知られている(文献37参照)。DZ双生児では,一致の組でも発作型,発作初発年齢,脳波所見が類似しないものが多い。

てんかんもうろう状態—発作間歇期の1例

著者: 赤田豊治 ,   下浜紀子

ページ範囲:P.391 - P.397

Ⅰ.緒言
 てんかんもうろう状態についてはLandolt1)の分類とSchorsch2)のそれがあるが,両者をまととめてみると次の如くになる。
 1.発作前もうろう状態

笑い発作の9例

著者: 吉田穂束 ,   山田裕章 ,   斎藤勇博 ,   取違慎一

ページ範囲:P.399 - P.406

I.はじめに
 側頭葉てんかんには,しばしば種々の感情が起こる。その多くは不安感,恐怖感,抑うつ感等の不快な感情であり,歓喜,気分の高揚などの快感は稀である。一方,てんかん症状として病的笑いが起こることがあり,時にはこれに快感を伴う。
 ここでは,我々が経験した9例のてんかん性笑い発作を報告し,側頭葉てんかんと笑い発作との関連について考察したい。

Flashback Phenomenonについての考察—シンナーにより精神症状を呈した6症例を中心に

著者: 中村希明 ,   小口徹

ページ範囲:P.407 - P.414

I.はじめに
 薬物乱用の主剤が睡眠剤や穏和精神安定剤から,LSD,Marihuana,シンナーなどの幻覚剤に移るにつれて,いわゆる禁断症状のないとされた幻覚剤にも,中断後ときに特異な精神症状を呈するものがあることが注目されるようになった。その一つに幻覚剤中断後に一定の期間をおいて,使用時と同じような幻覚の再現をみるflashback Phenomenon(以下flashbackと略称)がある。また最近Victor39)どによるalcohol withdrawal syndromeの知見から,本来幻覚剤についてのみ用いられたflashbackがアルコールによる中毒精神病においても認められるとする考え方もあり,現在flashbackの定義の再検討が必要な段階にさしかかっている。
 Flashbackは当然幻覚剤の作用の強弱に影響を受け,作用の強いLSD乱用者の88.3%に認められるとする報告もあり2),かなり頻度の高いものである。しかしLSDより幻覚作用の弱いMarihuanaでは5〜10%と頻度が低くなり,他剤の嗜癖と重なってはじめてflashbackを起こすものもある。更に作用が弱い有機溶剤では,わが国では現在のところflashbackに焦点を合わせた報告は見当らない。

児童生徒に流行した「こっくりさん遊び」について—第2部 群馬県下における実態調査

著者: 日下部康明 ,   中沢正夫

ページ範囲:P.415 - P.418

 全国的に流行した「こっくりさん遊び」の流行の実態を群馬県下の全小学,中学,高校を対象にアンケート調査した。その結果から,
 (1)この「遊び」は小学校63.4%,中学校83.5%,高校51.0%の高頻度で流行した。
 (2)この「遊び」は主として思春期女子に多く好まれた。
 (3)この「遊び」により呈した精神症状は,集団ヒステリー,抑うつ状態,不眠,集中力困難感など多彩であった。
 (4)この流行は学校精神衛生上大きな問題となったにもかかわらず,学校側の対応は必ずしも充分でなかった。
ことが判明した。以上の点について,思春期心性との関連,および現代社会病理の視点から若干の考察を試みた。

ヒトの睡眠に対するLopramineとAmitriptylineの影響—終夜睡眠ポリグラムと睡眠内省による検討

著者: 中沢洋一 ,   小鳥居衷

ページ範囲:P.419 - P.425

I.はじめに
 ヒトや動物のREM睡眠に対して,amitriptylineやimipramineは強い抑制作用をもつことが知られている1,2,3,7,8,19,20)。ヒトや動物のREM睡眠を抑制する薬物はこの他にも少なからず知られてはいるが,amitriptylineやimipramineなどの三環系抗うつ剤は,その抑制作用が強力であることと,回復夜でREM睡眠の反跳現象が現れにくいという2つの点で注目され,臨床的な抗うつ作用との関係が議論されている。例えば,これらの薬物の抗うつ作用は,上述のREM睡眠に対する作用と密接な関係があるのではないかと推定するHartmannの主張もその一つである4,5)
 Lopramineは最近,スエーデンで合成されたimipramine誘導体に属する三環系化合物である。その臨床治験に関する国内の文献を検討してみると,imipramineやamitriptylineとほぼ同等の抗うつ効果が認められているが,末梢性抗コリン作用による副作用は少なく,催眠作用はないかあるいは軽いという点でimipramineやamitriptylineとは異なっているといわれている10,11,16,21)

精神分裂病におけるThyrotropin-Releasing Hormoneの治療的応用

著者: 山内育郎

ページ範囲:P.427 - P.435

 精神分裂病患者31例にneurolepticsに併用して,TRH4mg/day大を14日(3例は21日)間投与し,著効6例(19.4%),有効5例(16.1%),やや有効8例(25.8%)および不変(無効)12例(38.7%)という治療結果を得た。精神症状の改善は自閉,無為,接触性障害,表情・表出といった感情障害,自閉性,接触性障害の改善が目立った。同一症例にneurolepticsと併用した少量のL-DopaおよびTRH投与を行なった治療効果を比鮫すると,両者の投与の順序にかかわらず,改善の程度がほぼ同様で,反応者が両剤に共通することが認められた。副作用は特に述べるほどのものは認めなかった。

短報

ImipramineとTriiodothyronine併用療法が有効であった遷延性うつ病の1例

著者: 江原嵩 ,   大月三郎 ,   鈴木信也

ページ範囲:P.437 - P.439

I.はじめに
 甲状腺機能低下症に伴って分裂病様症状1,2)や抑うつ症状3)が出現することは周知のことであるが,一方,うつ病時における甲状腺機能については大部分の報告では正常範囲内にあるが4〜7),一部では低下6)もしくは亢進する症例4)も報告されている。近年,甲状腺機能低下を顕著に認めえない遷延性うつ病に対し甲状腺ホルモン剤と三環系抗うつ薬を併用し,その精神症状が著明に改善されたとの報告が数多く見られるようになった6〜10)
 このたび各種抗うつ薬や抗精神病薬に反応を示し難く長期間の抑うつ状態を経過した遷延性うつ病に対して,甲状腺ホルモン剤(triiodothyronine,以下T3と略記する)と三環系抗うつ薬imipramineの併用が劇的な精神症状の改善を来したので,その経過と特に甲状腺機能検査について報告する。

古典紹介

—Kurt Schneider—Die Schichtung des emotionalen Lebens und der Aufbau der Depressionszustände

著者: 赤田豊治

ページ範囲:P.441 - P.447

 Max Schelerはその大著「倫理学における形式主義と実質的価値倫理学」原注1)の第二部において,感情生活の現象学を説いたが,これはある種の病態心理学的状態の考察のために重要であると思われる。しかし本書を精神科医が入手収蔵することは稀であろうから,その原理的な心理学的一章をある程度詳しく紹介する必要があると思う。倫理学的および形而上学的適用については触れないことにするが,しかしそれによって心理学の面で失うところは少しもないであろう。
 感情生活には層構造がある。分化した言語は例えば法悦(Seligkeit)と快感(Wohlgefühl)とを区別するが,それは単に強度が様々に異なる諸感情の区別ではなくて,輪廓が截然と異なる多様な諸感情そのものの区別を意味している。この相違が特殊な性質のものであることを示唆するのは次の事実,即ち,これら様々の種類の感情が,「同一の意識能作,その瞬間の中に共存し得る」という事実である。これが最も明瞭になるのは,好ましい性質の感情といとわしい性質の感情が共存する場合である。人は例えば殉教者のように,法悦の境にあると同時に肉体的苦痛をこうむることがあるし,不幸のさなかにおいても心の平和(serenitas animi)の意味で「晴朗」(heiter)であり得る。しかし決して「嬉しく」(froh)はあり得ない。娘しくもなくて一杯の酒を味わうこともある。このような場合,諸々の感情状態の入り混りは生じない。というのはすべての感情が一斉に与えられているのであって,それらが混合して一つの全体的感情状態になることもないからである。この区別には表現現象さえも関与する。これら諸感情は性質が異なるばかりでなく,その「深さ」が異なるからである。感性的諸感情は局在するので分かたれたままであるから,これを別とすれば同一層の諸感情は合流するのに対し,異なる層の諸感情は合流しない。それらは結果としてはじめて,自余の意識内実にも放散するのである。

動き

第18回日本神経化学会から

著者: 仮屋哲彦 ,   中河原通夫

ページ範囲:P.449 - P.454

 第18回日本神経化学会が,東京大学医学部脳研(世話人代表:黒川正則氏)のお世話で,昭和50年11月13日午後から15日にかけて,日本都市センターホールにおいて開かれた。400人近くの参加者があり,盛会で,一部の会員は椅子に坐れず,立って演題を聞かなければならない時もあるほどであった。採用演題は47題であり,この学会の特徴である活潑な討論が生かされるように,口演時間は1題につき10分または5分,討論時間は各10分で2日半にわたり1会場で報告が行なわれた。なお,例年のように学会前に詳細な抄録集が配布されていることも討論の助けとなっている。今回は特にシンポジウムは組まれなかったが,討論が充分に行なわれるために,演題が大体関連分野にまとめられており,各座長の司会で関連演題の総合討論なども行なわれたりして終始活溌な討論がみられた。
 第1日目は,主に脳内amineの研究のうち,精神医学と関連の深い演題についての発表が,2日目の午前中はアミノ酸や蛋白質について,午後からは脳内amineの研究のうち,基礎的な演題について,3日目は脂質やcyclic nucleotidesその他に関する研究が発表された。ここでは全体について概観しながら,精神医学と関係の深い演題を中心に紹介したいと思う。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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