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文献詳細

雑誌文献

精神医学18巻4号

1976年04月発行

文献概要

古典紹介

—Kurt Schneider—Die Schichtung des emotionalen Lebens und der Aufbau der Depressionszustände

著者: 赤田豊治1

所属機関: 1東京女子医科大学神経精神科教室

ページ範囲:P.441 - P.447

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 Max Schelerはその大著「倫理学における形式主義と実質的価値倫理学」原注1)の第二部において,感情生活の現象学を説いたが,これはある種の病態心理学的状態の考察のために重要であると思われる。しかし本書を精神科医が入手収蔵することは稀であろうから,その原理的な心理学的一章をある程度詳しく紹介する必要があると思う。倫理学的および形而上学的適用については触れないことにするが,しかしそれによって心理学の面で失うところは少しもないであろう。
 感情生活には層構造がある。分化した言語は例えば法悦(Seligkeit)と快感(Wohlgefühl)とを区別するが,それは単に強度が様々に異なる諸感情の区別ではなくて,輪廓が截然と異なる多様な諸感情そのものの区別を意味している。この相違が特殊な性質のものであることを示唆するのは次の事実,即ち,これら様々の種類の感情が,「同一の意識能作,その瞬間の中に共存し得る」という事実である。これが最も明瞭になるのは,好ましい性質の感情といとわしい性質の感情が共存する場合である。人は例えば殉教者のように,法悦の境にあると同時に肉体的苦痛をこうむることがあるし,不幸のさなかにおいても心の平和(serenitas animi)の意味で「晴朗」(heiter)であり得る。しかし決して「嬉しく」(froh)はあり得ない。娘しくもなくて一杯の酒を味わうこともある。このような場合,諸々の感情状態の入り混りは生じない。というのはすべての感情が一斉に与えられているのであって,それらが混合して一つの全体的感情状態になることもないからである。この区別には表現現象さえも関与する。これら諸感情は性質が異なるばかりでなく,その「深さ」が異なるからである。感性的諸感情は局在するので分かたれたままであるから,これを別とすれば同一層の諸感情は合流するのに対し,異なる層の諸感情は合流しない。それらは結果としてはじめて,自余の意識内実にも放散するのである。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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