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文献詳細

雑誌文献

精神医学18巻5号

1976年05月発行

文献概要

シンポジウム 大都市の病理と精神障害—東京都精神医学総合研究所第2回シンポジウムから

大都市生活者とアルコール中毒

著者: なだいなだ

所属機関:

ページ範囲:P.478 - P.480

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 大都市とはなんだろうと問いかける。それに対して「読んで字のごとく,大きな都市のことさ」という漠然とした答がかえって来る。そしてその単純な区分けをもとにして,すぐ大都市と田舎での病気の発生率などを比較して,問題にしたがる。しかし,大都市にも構造があることを忘れている。いや,複雑な構造を持っているところが,大都市の大都市であるゆえんなのだ。たとえば,ほとんど何十年と変化のない街並を持ち,住民の移動のほとんどない場所も都市にはある。それまで山林や畑だった場所に,突然に数万人の人間が住みはじめた団地,新興住宅地,昼間はビジネスマンが集中する中心街,夜だけ人の集まるさかり場,労働者の集中する一郭,それもまた都市なのだ。それをひっくるめて大都市という。その全体で病気が出れば,大都市では,病気が多いという結論が出される。犯罪が多ければ大都市犯罪が云云される。しかし,それが,おおまかすぎる議論であることは理解できよう。下町のように,数代にわたって居住している人たちの多いところも,大都市の一部なのだし,全国から集まって来た人間を壁一つへだてるだけの近さに押しこんでしまう団地も,大都市なのだ。しかし,地方から大学に入学のために上京する人間にとって,あるいは仕事を求めて上京する農民にとって大都市の意味するものと,そこにながく住みついていながら,隣接地に大ビルや大団地ができて,生活環境ががらりと変わり,とまどいを感じるものにとっての大都市の意味するものは,決して同じではない。もし,病気を問題にするのなら,そうしたさまざまな場合について考えていかなければなるまい。
 たとえば,ベット殺人事件とか,ピアノ殺人事件とか,センセーショナルの事件が起きると,それが大都市の事件,田舎では起きようもない事件と考えられてしまうが,そうした事件は,たとえ大都市の枠の中で起きたとしても,団地という人工的な人口集中の場が問題なので,大都市全体の問題とはいえないのかも知れないのだ。また,団地でも,過渡的な一時の現象かも知れないのだ。団地も住民が固定化し,三十年もたてば,そのような事件の場ではなくなるかも知れない。統計的な方法による断定が危険なのは,その点にあるといえる。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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