Ⅳ.要入院状況の解析と要件—東大精神科外来活動の経験,第3報
著者:
安西信雄
,
豊嶋良一
,
渡辺諄二
,
岡崎祐士
,
朝野潤二
ページ範囲:P.665 - P.677
I.はじめに
さまざまな患者がさまざまな問題をかかえて受診してくる。その度ごとに精神科の臨床にたずさわる我々は「最も適切な治療は何か,どうすればよいか」と考える。そしてそのうちのかなりの患者について「この人を外来でどうしたら支えられるか」という問いに否応なしに直面させられる。この問いの重要性は,単に実践的に避けがたいということによるものでなく,行なわれる医療の本質に由来するものであると考えられる。なぜならば,臺1)が提唱するように,「精神障害は,それが疾患とよばれるものであろうと,適応障害とよばれるものであろうと,また発達障害や人格の偏りであろうと,一般に患者の生活面の困難として現れるものである。医療にはその人の生活をより健康な状態に近づけることが求められているのであるから,医療はできるだけ患者の生活に即して,社会生活の中で行なわれることが望ましい。したがって外来治療は本来精神科医療の中心となるべきもの」と考えられるからである。
ところで外来治療の重要性は現在広く主張されており,精神科医の中での共通の認識となりつつあるといえようが,これが実践の段階で生かされ,精神科外来治療を更に発展させるためには,さまざまな分野での経験の集積とそこから抽出される技術論等の発展が必要であると考えられる。
東大精神科外来では既報2,3)のように外来機能充実のための診療体制の改革を行なった。その主なものは,①医師の外来専門医化,②新来・再来予約制の導入,③新来・再来主治医一貫体制,④「初診時作戦」の強化(予診医と初診医の相談による適応決定と治療指導),⑤更に電話によるケアと相談の強化,時間外診療と訪問活動などである。
このことは20数名の常勤医を擁する精神科施設で,スタッフが「できるだけ患者を外来で支えよう」という積極的な志向をもって外来活動に専念し,入院は必要最少限にとどめる努力をした場合に外来でどこまで患者を支えることができるかという,いわば治療的実験をかつてない規模で行なったことを意味する。