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雑誌詳細

文献概要

研究と報告

幼時の心身発育状況と精神科疾患

著者: 高橋良1 原田邦昭1 中根允文1 松永文保2 川崎ナヲミ2

所属機関: 1長崎大学医学部精神神経科 2長崎県立東浦病院

ページ範囲:P.853 - P.863

I.はじめに
 従来から多くの研究者が精神障害を生み出す特殊な環境を見出そうとして,病者の幼少時の背景を復元しようとしてきた。特に力動的立場に立ち本人の内面史的追求を採用した事例研究や家族研究は,発病にかかわる要因として病者の幼少時よりの精神発達の偏りおよび家族病理の特徴を報告12,19,23,28)している。しかしこれらの多くはほとんどが回顧的な方法に頼っており,幼少時の生活に関する情報は患者自身によるかその家族により得られていて,その資料を検討する場合,それらが彼らの偏見や調査者自身の潜在的偏見によるものか,真の幼少時の背景かを区別するすべがないという欠陥をもっている。従ってより実証的な研究を行なうには,一定地域内の人口について幼少時から精神医学的面接による追跡研究を行なうことがのぞましいが,実際は容易ではなく,その計画は一部で行なわれているが,まだ結論を出せる段階ではない1)。現在までのこの方向の研究として問題行動をもって病院や児童相談所を訪れた小児の成人後の予後調査があり,その中に精神病の発病例もあることが少なからず報告されている。しかしこれらの調査も対象が当初から一般小児の実態から離れており,かつ正常対照群がないという欠陥を有している。この点非行の予防のため少年を追跡研究し成人後の発病例の幼時の家族環境をしらべたMcCordの報告21)や,分裂病の親をもつhigh riskの対象児の追跡調査を行ない,5年後の結果をしらべたMednickら22)の報告が,より厳密なデーターといえるようである。我々は後に精神病となった対象を含む一定地域内の小学生の身体的心理的測定の追跡を行なったことがあるので,その資料は上に憂慮されたいくつかの困離を克服できる有意義なものと思い,検討を加え,ここに報告することにした。
 即ち先に当教室と本学公衆衛生学教室は昭和30年より36年に亘り,同一対象児の就学時より身体的精神的発達に関する継続研究2,3,5,6,7,14,15)を行なっていたが,今日その対象児は既に成年に達しているので,一般人口中の発病率からみて対象集団の中から数名の精神障害者が発生していることが十分予測された。そこであらためて調査した結果,対象者の中に現在まで6名の患者が明らかになり,著者らが直接診察することができた。これらの症例の小児期の所見を非発病例と比較し,幼時の心身発育がその後の精神疾患の発展にどのように関連しているかを検討した。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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