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雑誌目次

論文

精神医学18巻9号

1976年09月発行

雑誌目次

巻頭言

精神病院の未来について思う

著者: 高橋良

ページ範囲:P.926 - P.927

 大学の教職に身をおく筆者の処には毎年暮になると医学部卒業予定者の中から精神科を志す学生が研修医を希望して現れる。精神科医の不足の今日大いに歓迎の気持をもって相談に応じているが,学生の素直な質問の中にいつも自信をもって答えにくいことがあり,それは精神科医になってから働く就職口に心配はいらないかということである。学生はまだ精神科医療の現実を体験している訳ではなく,就職口についても他の科と同じ次元で比較している。その結果,国公立病院精神科,できれば自分の出身地の近くの国公立病院に勤めたいとか気軽に質問してくる。その際答えられるのは一般的なことだけで,精神科診療施設や患者数に比して精神科医は絶対的に不足しているのだから食べるのに心配は全くいらないと答えると,学生はそれでは満足した顔を見せない。そこで学生の希望には沿えないことを知りつつも我国の精神科医療の特徴と教室の関連公的病院の状況を説明することになる。即ち我国の精神病院の8割は民間立で,病床数の85%を占めていること,教室の関連公的病院精神科の数は多くないのですぐには希望に応じられないが,民間精神病院には充分就職口があるから心配はいらないし,外来診療所設立の途もあると伝える。しかし実際のところ,研修2年が終わってからすぐ民間精神病院へ就職した医師はなく,大学の医員や研究生になるか,関連公的病院に順番で勤めているのがほとんどである。民間精神病院の後継者もいるが病院の未来に対しては暗い観測を語っている。精神病院の未来が明るいものならば精神科研修を修了し,更に数年の経験を積み一人前になった医師はもっと民間精神病院に就職してよいはずであるが,事態はそうではない。民間精神病院は現実に我国の精神科医療の大部分を担っている以上,精神科医の第一就職希望になってもらう必要がある。分裂病の再発し易さや慢性化に対する治療の困難さ,リハビリテーションの難しさ,精神科医療に対する様様な阻害条件などは公的医療機関も民間病院も共通して直面している問題である。現代の精神科医療の目標は短期入院治療と外来通院,デイケア,訪問指導など在宅医療による社会復帰に置かれている。しかし我国では未だこれを阻害する条件が多くて一般には実践が充分でなく,かけ声に終わっていることが精神病院内に無力感が漂う一因になっているのではなかろうか。7年前まで筆者は東京都の嘱託医として生活保護の入院患者の審査を担当したが,その時社会的条件のため余儀なく入院を続けている患者が少なからずあることに矛盾を持ち続けた。今日でも似たような経験をもっている。地域に適切な職能訓練の場がないため外来とデイケアの段階に停まらざるをえない患者がいかに多いことか。我国の精神科全病床数は昭和40年度に国の方針で1万人当り20床を目標として努力するとされたが,それが達成されたのち要入院患者は28万人なので更に病床の整備に努めるとされた。そして病床数は50年12月末には更に27万8千になり1万人当り25.3床と増加した。それでも病床利用率は100%を超え,平均在院日数は473日(昭和49年)で年々増加している。この実態は依然として入院収容主義が継続していることを示していて,上述した今日の精神科医療の方針に照らしてみるとまことに奇妙な感じがする。
 ところで1975年は英国においては精神医学の千福年となるはずであったとのことである。即ち英国では,1950年代からの精神病院の長期在院患者数の予測研究に基づいた地域医療中心の精神衛生計画によって,1975年には各地方の精神病院の病床数は半減し,コミュニティ・ケアと称される広汎なサービスが発展するはずであった。1960年代に発表された諸研究によると,6カ月から1年以上の長期入院患者数は確実に減少してゆき,あるデータでは長期在院者は16年で消える計算になった。そして長期在院の理由の約半数は純精神医学的理由,つまり精神病の重篤さにあったが,残りは身体病,精薄,社会的問題の合併か非精神医学的問題であったので,ホステルなど後保護の施設があれば半数の長期在院者はそこへ収容できると考えられた。従って政府は大型の精神病院は閉鎖し,精神病は将来,地区総合病院精神科とコミュニティ施設で治療できることを期待し,その施策を始めた。そしてその後の総合病院精神科の活動の報告もかなり有望な結果を示している。例えばロンドンの一病院の精神科は41床で11万4千人の住民に対し,精神科疾患のすべてを治療できたと報告し,患者を選別しない方針でも分裂病を含めて入院は平均2〜3週ですませ,その後はコミュニティ・ケアを与え,ホステル,福祉住宅や下宿などを宿舎とし,一人も長期入院患者にならなかったという。それ故デイホスピタルや老年病と老年性精神疾患へのサービスが前提となれば病床は1万対5床で充分であるといっている。別の研究者らはまた南北ロンドンのそれぞれの住民に対する精神科病床の必要数をコミュニティ精神医学の実践に立って調査し,長期入院患者は次第に減少し,10年後には当初の数の1%程になり,1985年頃には必要病床数は1万対10以下になるであろうと予測した。これらの精神科医療の結果と未来への展望は上述した我国の実態と何と隔絶したものであろうか。しかし我国の病院の在院日数の長期化の理由は,おそらく上述の英国の病院の長期在院者の場合と大同小異であろう。そうであるなら純精神医学的理由によらずに長期入院せざるをえない事情を病院の責任にされてはたまらないはずである。昭和44年度の厚生省による精神病院実態調査では一地区の在院患者調査が行なわれたが,社会復帰の可能性のないものが31.6%で,その中,退院先がないためのものは5%であった。この実態がもし社会に適切な中間施設があるとしたらどうなるのかを各病院で調査し発表したらどうであろうか。英国のFottrellら(1975)の一病院での調査では適切なコミュニティ施設が存在することを前提とすれば,身体的に丈夫な長期入院患者の40%は退院可能であるとしている。我国に社会復帰医療センターを増設させてゆくためにも上の調査は是非必要であろう。

研究と報告

末端肥大症における精神障害

著者: 高橋三郎 ,   藤田保 ,   山根秀夫 ,   吉村学

ページ範囲:P.928 - P.934

I.はじめに
 末端肥大症および巨人症に伴う精神障害については,既に19.世紀末より記載がある1)。最初の文献例はBlair(1897)の報告したもので,躁状態を基調としてこれに幻覚や嫉妬妄想などが挿間性にみられたとされている。その後,散発的に宗教的異常体験を示した例,抑うつ気分と性的不能から妄想に発展した例,てんかん発作を繰り返した例などがそれぞれ1例報告された1)。末端肥大症における精神障害について,多数の症例を系統的に研究したのはM. Bleuler一派のBlickenstorfer1)(1951)で,内科,脳外科医の協力を得て診断の確定した末端肥大症および巨人症患者22例を精神医学的に診察し,またM. Bleuler(1951)自身も米国の末端肥大症患者6例の深層心理を詳細に分析し2),これらの症例に共通した特異な人格障害を見出した。しかし,Bleulerらは,この人格障害は末端肥大症だけに特異的なものというよりも,広く他の内分泌疾患にも共通したいわゆる「内分泌精神症状群」3,4)に属するものと結論した。そして,これらの報告が,今日までの末端肥大症に関する総合的な精神医学的研究ということになっている。
 内因性精神病が身体的基盤をもつか否かは今日なお不明である。しかし少なくとも内因性精神病をそのような方向から解決してゆこうとする研究者があり,この命題は彼らにとって作業仮説である。我々は「内分泌疾患に伴う精神障害」という問題に興味をもち,このような症例研究を行なってきた5〜7)。内分泌疾患を含めて広く症状精神病に関していえることは「ある症例が内因性か症状性かを決定することではなく」,現実の症例をみても,身体的基礎を有する症例における精神病と未だにわからない内因性精神病の精神症状の間にはっきりとした違いのある場合もあり,精神病理学的に内因性精神病と区別できない症例も多く存在することも事実である。そして結局,内分泌疾患に伴う精神障害についても,問題点となるものは,1)症状精神病としての一般性,2)基礎疾患における個別的特徴,3)状態像におり込まれた個々の症例の体験反応的部分,などの有無ということになるであろう。

長期にわたって精神病とされた水俣病—剖検所見と水俣病の精神症状

著者: 原田正純 ,   藤野糺 ,   樺島啓吉 ,   立津政順 ,   衛藤光明 ,   武内忠男

ページ範囲:P.935 - P.944

 性格変化にはじまり,無為・寡言・不関・自閉など強い情意障害,多動・不穏・興奮・俳徊などの行動異常,幻覚・妄想で発病し,これらの精神症状のため精神病として10〜20年入院していた患者の2剖検例を報告した。2例とも慢性進行型で徐々に神経症状と知的機能障害を増悪させた。末期には神経症状は構音障害,失調,知覚障害,筋力低下,固有反射減弱など水俣病にみられる症状が完成していた。
 脳の病理学的所見では,小脳皮質穎粒細胞層の変化,大脳の後頭葉,前後中心回,上側頭回,前頭回などの神経細胞脱落,脊髄後索・知覚神経線維の変化など水俣病に特徴的所見のほかに広汎な大脳皮質神経細胞の脱落,髄質のびまん性変化によって広汎な脳萎縮がみられた。
 精神病として長期にわたって埋没されていた例が剖検によって水俣病であることが明らかになった症例で,精神病や水俣病の診断に極めて示唆の多い症例である。すなわち,精神症状の激しさにのみ目を奪われることなく,環境や食生活(疫学)を重視し注意深く神経症状を把握しておれば,水俣病の診断はそう困難なものではなかったと考えられる。

向精神薬長期服用者にみられた脳炎様状態—“Syndrome Malin”と関連して

著者: 久郷敏明 ,   品川昌二 ,   黒田重利 ,   細川清

ページ範囲:P.945 - P.950

I.はじめに
 1950年Charpentierがchlorpromazineの合成に成功し,本物質の持つ中枢神経系,自律神経系に対する薬理作用の発見がなされ,1952年Delayによる精神科領域へのchlorpromazine導入は,その後の種々の向精神薬の出現とあいまって精神病の治療に画期的な進歩をもたらした。しかし一方で,これらの薬物の使用に伴う副作用の出現が問題となり,それ自体精神薬理学における重要な課題となってきている。最近我々は長期にわたる向精神薬療法の過程において,急速に錐体外路症状,自律神経症状,意識障害,発熱の出現を示し,しかもその病因が向精神薬の慢性中毒と考えられた症例を経験した。従って臨床特徴を報告するとともに,発現機序につき若干の考察を加える。

精神病院における治療状況と分裂病者の寛解過程について

著者: 永田俊彦

ページ範囲:P.951 - P.957

I.はじめに
 現在,日本の精神医療は患者の拘禁問題等々,精神病院の反医療性が告発されている。しかしながら,現在の我々の医療技術をもって入院治療を否定しきれるものではなく,また,森山1)が指摘するように「精神医療のこの現状にも拘らず,病から治ってゆく患者が現にいる」ことも事実である。そこで「この現状にも拘らず治ってゆく」現象は何か,いかなる過程を経るものか,その内実を明らかにすることは,あるべき医療を論ずる前に必要となってくる。
 これまで,このような視点からの研究報告は少なく,また,方法論的に,「精神病院の治療構造」を社会学的に研究するものと,これらの治療状況を離れた「分裂病の過程」の研究に分離する傾向にある。前者はGoffman, E. 2)の“Asylums”の業績に代表され,後者としてはConrad, K. 3),Kisker, K. P. 4),Janzarik, W. 5)らの分裂病過程の業績があげられるが,寛解過程を積極的に論じているのは最近の中井6)である。

対人恐怖を伴う境界例の臨床

著者: 青野哲彦 ,   金子元久 ,   大塚健正 ,   渡辺吉彦 ,   松田岱三 ,   尾野成治

ページ範囲:P.959 - P.966

I.はじめに
 人前で,自己の表情が変化してしまうと確信して悩む者は,本邦では一般に対人恐怖症と診断されているが,この中には分裂病との境界例,あるいは分裂病の初期段階と考えられるものも含まれている1〜3)。これに対して,諸外国では本邦におけるような対人恐怖の記載は少なく,むしろ醜形恐怖4)(dysmorphophobia)の記載が多い。そして,醜形恐怖のもつ境界例性5,6)についても報告されているが,笠原1)などが指摘するように,西欧では,醜形恐怖はそれによる対人性よりも醜形性そのものについて論じられる傾向にある。一方,現代は分裂病の神経症化と神経症の分裂病化の時代7)ともいわれており,この種の症例が内外ともに増加しているのも事実と思われる。
 我々の教室でも,これまでに,いわゆる境界例について考察してきたが8,9),今回は対人恐怖症者で,最終的には分裂病との境界例と診断した症例について検討したので報告する。

Lennox症状群の成人例と考えられる難治性てんかんの1例—特に臨床脳波学的検討

著者: 日向野春総 ,   大高忠 ,   一瀬邦弘 ,   村松信子

ページ範囲:P.967 - P.975

I.はじめに
 1939年にGibbsら10〜12)は,従来の3c/s spike & wave dischargeよりも周期の遅いslow rhythmical splke & waveに注目してpetit mal variantと命名した。その後,脳波上にこの突発波を示す一群のてんかん発作について,症候学的に検討したLennoxはこれをakinetic seizure,ついでastatic seizureとして,小発作群の一型に分類した17)。しかし,その症候学的・臨床脳波学的特異性が注目されて種々の報告がなされ2,18,28),最終的にはGastaut4)により1966年,childhood epileptic encephalopathy with diffuse slow spike & wave or Lennox syndromeとしてまとめられて,West症状群と同様に一症状群として独立性を与えられた。
 このLennox症状群について臨床像,脳波学的報告2,6,13,15,16,20,21)は国内外で多くみられ,国内では大田原ら23,24)が詳細に報告している。それらを総括すると臨床像の特異性は現段階ではほぼ整理されている。しかし,Gastautらが観察し,発作発射として考えたepileptic recruiting rhythm,大田原らの報告したrapid rhythlnといわれる脳波所見については種々の議論があり,これを本症状群に特有のものか,Gibbsらのgrand mal seizure dischargeと同一のものと考えるかが争点である。

島性低血糖症患者の1例の終夜ポリグラフィー

著者: 斎藤正武 ,   田中恒孝

ページ範囲:P.977 - P.983

I.はじめに
 膵ランゲルハンス島腺腫による島性低血糖症は,発作性に起こる意識混濁発作を主徴とする疾患で,その際ミオクロニーをはじめとする活発なけいれん様運動やてんかん発作が誘発される10)ところから,臨床的にてんかんと誤診されることが少なくない。そのためこの疾患は古くから臨床脳波学の研究対象となって,これまでに数多くの報告がなされている11,19,25,26)
 一方,この自発性低血糖発作は早朝空腹時に出現することが多く,夜間次第に血糖が低下してゆく過程で睡眠がいかなる影響を受け,脳波像がどのように変化するかは興味ある研究課題である。しかし睡眠と低血糖との関係についての観察は乏しく22),島性低血糖症の終夜ポリグラフィーについての報告は未だ見当らない。我々は毎早朝きまって意識混濁発作を起こす島性低血糖症の1例について,膵腺腫摘出前後に終夜ポリグラフィーを行ない比較検討する機会を得た。その結果若干の興味ある所見を見出したのでここに報告する。

狭義てんかん患者における発作誘発因子の臨床的,脳波学的検討

著者: 北川達也 ,   下田又季雄

ページ範囲:P.985 - P.992

I.はじめに
 てんかんの臨床形態は多様であり,その発作発現も多くは偶発的にみられると考えられている。しかし詳細に発作出現の状況を調査してみると,睡眠—覚醒リズムと関連してみられたり,またある特定の身体的,精神的状態のもとにおいて発作の出現しやすいことも少なくない。Gastaut3)はてんかん患者の発作出現を偶発性のもの,周期性のもの,誘発性のものの3群に区分し,詳しく検討している。筆者ら4)は大発作てんかん患者について,睡眠—覚醒の日内リズムから,その臨床的,脳波学的検討を行ない,発作誘発因子についても一部検討し報告してきたが,今回は大発作のみならず,焦点発作,純粋小発作,非定型性意識喪失発作,失立発作,精神運動発作などを加えた1,000余例について,その発作誘発,促進因子を詳細に検討した。

古典紹介

—J. H. Jackson—Evolution and Dissolution of the Nervous System (Croonian Lectures, 1884)—第1講

著者: 越賀一雄 ,   船津登 ,   清水鴻一郎 ,   角南健

ページ範囲:P.993 - P.1005

 私はまず始めにこの講義をすることを許された会長に心から感謝するものである。
 進化(evolution)の理論は日々新しい信奉者を得ているが,進化といってもそれは単にダーヴィニズムと同じ意味ではない。H. Spencerはその進化の理論をあらゆる秩序の現象に適用した。中でもその神経系への適用は医学者にとって最も重要である。私は以前から神経系の疾患の研究において,それを進行の逆行(reversal),即ち解体(dissolution)とみなすことが極めて都合がよいのではないかと考えていた。この解体という術語は進化の過程の逆の過程を示す名称として,この術語をSpencerから借りてきたのである。この問題は長年にわたって研究されたところである。約50年前,Laycockは反射活動の理論を脳に適用した。CharlesBellは酩酊の深さについて,またBaillargerは失語症について述べた時,そこに随意的段階から,最も自動的な段階への退行(reduction)のあることを指摘した。故人,Anstie博士の研究(興奮剤と麻酔剤)では,この解体という言葉は用いてはいないけれども,神経系の疾患を解体の例として研究するのに非常に有益な貢献をなしている。またその他にもこれと同じ方向にむかってなされた極めて有益,かつ独創的な研究としてRoss,Ribot,Mercierの研究をあげることができる。HitzigやFerrierの輝かしい研究は他の分野における偉大な価値をもつとともに,神経系の進化と解体の理論を支持するのに極めて有益でもあったのである。この点に関して著者は最近の大脳局在についての有益なSharkeyの論文について大いなる敬意を払うものである。

資料

難治脳疾患医療のおくれについて—国立武蔵療養所の経験から

著者: 松本秀夫 ,   川島恵子 ,   菅谷三子 ,   羽切粂子 ,   秋元波留夫

ページ範囲:P.1007 - P.1014

I.はじめに
 近年,社会事情の変化とともに,老人性,脳血管性,頭部外傷後の精神障害や,本態・治療法の不明なまま看過されてきた種々の大脳変性疾患など,いわゆる脳器質性病変に基づく精神障害が増加し注目されている1,2)。それにもかかわらず,わが国の精神病院においては,脳器質性精神障害者は長期入院の慢性分裂病患者の大群のなかに埋没し,無視され易い状況がつづいてきた。彼らは器質性脳障害のために日常生活の自立不能のものが多く,看護の負担,厄介者として各病棟に分散されるのが普通である。疾患の本態や治療方針を異にする患者を同一病棟内に,しかも多数者の中の少数者として収容することの弊害はいうまでもない。同じことはてんかんやアルコール中毒についても痛感されることであるが,脳器質性疾患では急性期治療からリハビリテーションまでを含む複雑,困難な医療活動を必要とし,多数の内因性精神病治療の片手間に行なえることではない。現在,精神分裂病治療の重点が社会復帰活動や外来活動に移行し,一方,精神障害の多様化に応じて,個々の患者に即したきめ細かな専門的治療が要求されている。脳器質性精神障害に対しても,こうした社会的要請は増大する一方であろう。
 国立武蔵療養所においては,このような考えに基づいて一病棟を脳器質性疾患を対象とした専門病棟として発足せしめ,既に約5年半を経過した。国立精神療養所における最初の試みであり,なお試行錯誤の域をでないが,この間の経験を述べ,我々の反省と今後の参考に資したいと思う。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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