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文献詳細

雑誌文献

精神医学18巻9号

1976年09月発行

文献概要

研究と報告

長期にわたって精神病とされた水俣病—剖検所見と水俣病の精神症状

著者: 原田正純1 藤野糺2 樺島啓吉2 立津政順2 衛藤光明3 武内忠男3

所属機関: 1熊本大学体質医学研究所気質学 2熊本大学医学部神経精神医学 3熊本大学医学部第二病理

ページ範囲:P.935 - P.944

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 性格変化にはじまり,無為・寡言・不関・自閉など強い情意障害,多動・不穏・興奮・俳徊などの行動異常,幻覚・妄想で発病し,これらの精神症状のため精神病として10〜20年入院していた患者の2剖検例を報告した。2例とも慢性進行型で徐々に神経症状と知的機能障害を増悪させた。末期には神経症状は構音障害,失調,知覚障害,筋力低下,固有反射減弱など水俣病にみられる症状が完成していた。
 脳の病理学的所見では,小脳皮質穎粒細胞層の変化,大脳の後頭葉,前後中心回,上側頭回,前頭回などの神経細胞脱落,脊髄後索・知覚神経線維の変化など水俣病に特徴的所見のほかに広汎な大脳皮質神経細胞の脱落,髄質のびまん性変化によって広汎な脳萎縮がみられた。
 精神病として長期にわたって埋没されていた例が剖検によって水俣病であることが明らかになった症例で,精神病や水俣病の診断に極めて示唆の多い症例である。すなわち,精神症状の激しさにのみ目を奪われることなく,環境や食生活(疫学)を重視し注意深く神経症状を把握しておれば,水俣病の診断はそう困難なものではなかったと考えられる。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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