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文献詳細

雑誌文献

精神医学19巻12号

1977年12月発行

文献概要

特集 青年期の精神病理

対人関係論

著者: 西園昌久1

所属機関: 1福岡大学医学部精神医学教室

ページ範囲:P.1224 - P.1239

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I.はじめに―青年期精神病理の今日的問題
 およそ10年ほど前,アメリカの国立精神衛生研究所(NIMH)は将来の予想として,将来の精神病院においては,精神分裂病は治療体系が変わってday careなどでとりあつかわれ,代って,青年と老人あるいは器質性障害が増加するであろうということを報じたことがある。当時,精神分裂病の深刻さのあまりわが国ではそのことにあまり耳を傾けた人はいなかったようである。しかし今や,分裂病問題に加えて,青年期と老人などの問題は一挙に私ども精神科医の前に立ちはだかり,対応をいよいよ難かしいものにしている。E. Rayner31)(1971)は,青年期は法的にも権利と責任とが,彼らの両親から本人へと移っていく世代であるが,同時にそれは,愛情,仕事,余暇について,その人なりの独立した権利と責任とが与えられる。それらをめぐっての,社会的背景が異なれば,青年たちの反応も自然様相を異にしてくると述べている。すなわち,古い世代に従順で,安定した社会,あるいは,青年になるとすぐ,仕事につき,結婚し,子供を養育する社会においては,青年になるための精神的混乱などというものはほとんど問題にならなかったであろう。わが国でも15歳で元服して,一人前とみとめられた侍世界では青年期は非常に短かったであろう。しかし,西洋文化の特徴である,自由と独立をめぐっての抗争と不安定のなかではことはそれほど,簡単ではなかろう。ことに,いずれ後述するが,現代という,工業化,都市化の時代になると,青年たちは,人類の文化史上,これまでにない特異な反応を示しはじめているのである。このことは,第2次大戦後のはじあて異民族に占領された体験,工業化などの影響を通じて,わが国にもおこっているグローバルな出来事である。
 E. Jacobson17)(1964)は,青年期心性と関連して,以前は神経症がおこっていたが,今日ではそれが,非行,性倒錯などの人格障害や境界例分裂病へと移ってきていると述べている。これは,私たちの日頃の臨床的事実とも符合することである。ところで,厚生行政資料の整った英国のM. THaslam16)(1975)の述べるところによると,英国では10〜19歳の年齢層で精神病院への初回入院が数年前まで1,500前後であったのが,1964年には4,500に増加し,この数字に出てこない非行,自殺企図は量りしれない(P. R. Boyd,1967)という。一方,アメリカでは,青年期の入院は1950年から1963年の間に325%に増加し,外来クリニックの世代別頻度をみると,青年期が最も多く,全体の1/4をしめるという。Matersonら(1963)の報告を紹介して,12〜18歳の青年期障害を分類すると,1)思考障害,2)神経症,3)acting-out,4)うつ病,5)ヒステリー・パーソナリティの5群にわかれ,2)と3)とは男子に,4と5)とは女子に多く,3)は15歳に多かった。うつ病の多くとヒステリーの多くとは拒否的な父親が多く,行動化はほとんどが拒否的母親であったとしている。私(1974)が前任地で調査した1958〜1968年の青年期神経症の症状の推移をみたものが,表1である。ただの10年間で抑うつ感と登校拒否はいちじるしく増加している。今日では,従前と同じく,不安・心気,対人恐怖・自己不全感は青年期神経症の大きな問題であるが,それ以上に,学校への適応問題とうつ病とが重大になってきているのである。
 A. D. Copeland9)(1974)は青年期の発達と関連した精神病理について表2のような分類を行なっている。
 これらのすべてが,青年期の精神発達のみによる障害ではないが,色合の濃淡はあっても,青年期心性と結びついたものであることはたしかであろう。成人の場合の疾病分類と異なる特徴を持った障害がさまざまの様相をもって出現してきている。いいかえると青年期にだけしかみられない,あるいは青年期に特にふさわしい障害が増加しているのであって,これらに単に成人の精神障害の記載と理解と同じようなやり方でアプローチしたのではうまくはいかない。私どもの科ではWHOの国際疾病分類ICDも併用しているが,青年期の精神病理についてはICDはまず役に立たない。そのような意味でも青年期の精神病理は私ども精神科医に大きな課題をなげかけている。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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