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文献詳細

雑誌文献

精神医学19巻2号

1977年02月発行

文献概要

シンポジウム 生のリズムとその障害—東京都精神医学総合研究所,第3回シンポジウムから

代謝リズムの発信機構

著者: 須田正己1

所属機関: 1愛媛大学医学部第1医化学教室

ページ範囲:P.140 - P.150

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 生体内での物質代謝は,導管内を水が流れるような姿ではなく,リズムをもって進行している。この物質代謝を遂行しているのが,酵素であるから,酵素の活性も,リズムをもって増減していることになる。酵素は蛋白質であり,その活性の増減は,酵素蛋白の合成と分解のバランスの上に成り立っている。したがって,酵素の合成期と分解期にも,リズムがあるわけで,酵素の活性そのものを調節する代謝産物の濃淡によっても,活性のリズムは,出現するはずである。高等動物では,多重多層の分子レベルでのフィードバック回路がつくられていて,全体で恒常性(homeostasis)が保たれている。ところで,このhomeostasisを,時間という延長線上に引き延ばしてみると,秒→分→時→日→月→年→生涯という見方になり,恒常性は常に崩壊しながら生から死に到ることが理解される。文学的な表現をすればhomeostasis,つまり恒常性とは,「無常のあわれ」であって,正直に,恒常性という言葉に引き込まれると,生体は動的平衡をいつまでも保っていて,老化も死も来ないことになる。この時間の経過という見方に対して,空間という考え方を入れてみると,生体は地球という宇宙船のどこかで,生活し,働いて食物を獲得し,どんなことが将来起こるかを予測しつつも,不安定のなかで,わずかの安らぎを求めて,さまよっているといえる。つまり,一定の生態系のなかで生存し,生殖しているわけである。この生活は,決して平坦ではなく,外界に向かって常に働きかけ,外界の自然に適応し天敵と競争して,survive(生存)してゆかねばならない。つまり据膳で喰べてゆけるものでは決してない。「無常のあわれ」に対して,この生存(survival)を文学的表現を借りれば「無明のあわれ」と呼びたい。前者のあわれは時間であり後者のそれは空間であって,ここにそれぞれの個体,種属の「時空の代謝」があると思う。
 白ネズミを恒温恒湿の部屋で飼育し,よい飼料と水とを自由に摂取させても,つまり好条件の据膳を与えても,白ネズミは約3年で生涯を終える。体内である限られた時間でのhomeostasis(恒常性)は,保たれながら無常にも,必ず老化して死ぬわけである。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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