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雑誌目次

論文

精神医学19巻3号

1977年03月発行

雑誌目次

巻頭言

Liaison Psychiatry

著者: 加藤伸勝

ページ範囲:P.202 - P.203

 一昨々年の夏,New YorkのMount Sinai Hospitalの精神科医Dr. Samuel, F. Tabbat氏が約1カ月京都に滞在された。同氏はNew York市立大学の客員教授も兼任しているとのことで,教育のことにも熱心で,早朝から,われわれの教室にやってきて,回診にも一緒に付いて回られた。神経病の患者を診るときは,勝手が違うらしく,意見も出なかったが,精神病棟に入ると水を得た魚のようにポンポンと質問が来る。また,当方の見方の甘さ,特に精神力動的な見方の不足には苦言を頂戴したりもした。滞在中には,森田療法を知りたいということで,京都では三聖病院の宇佐先生の処にも数回足を運ばれ,その熱意には敬服させられた。
 彼の話の中にしばしばliaison psychiatryという私にはききなれない用語が飛び出すので戸惑ったが,一夕,“Recent trends in American psychiatry”という講演をきくに及んで,liaison psychiatryなるものについて概略を知ることができた。しかし,英語の不得手な私には,細部にわたっての理解はできないままで終わってしまった。既に3年経過するが,彼が残してくれた二・三の文献を折りにふれ読むうちに最近になって,成程と思うようになった。

展望

高次神経活動学説の立場からみたてんかんの病原

著者: 今泉恭二郎

ページ範囲:P.204 - P.226

I.はじめに
 てんかんの病因あるいは病原に関する研究はきわめて多い。しかし,高次神経活動学説の立場からてんかんの病原を研究しているのは,ほとんどソ連と東欧諸国に限られているといってもよい。わが国ではまだ,高次神経活動学説そのものが医学の畠に根付いていない。したがって,その立場に立った医学の研究がほとんど行なわれていないばかりか,それらの研究の紹介もきわめて寥々たるものである。この事情はてんかんの病原の研究についてもいえるのであって,筆者の知る限りでは,高次神経活動学説の立場からみたてんかんの病原の研究の紹介すらわが国には皆無である。力不足を承知の上でこの紹介を意図したゆえんである。

研究と報告

Affective Seizureの文献的展望と自験例

著者: 久郷敏明 ,   細川清

ページ範囲:P.227 - P.236

I.はじめに
 多くのてんかん者に感情障害が合併することは,従来から知られている。これら感情障害は発作症状としても,発作間歇期症状としても認められる。発作症状としての感情障害は,てんかん発作の新国際分類1)にてもpartial complex seizureの第3項,affective seizureとして設定されている。しがし,感情という言葉は,大橋2)も指摘しているように大変定義しにくいもので,多彩な内容を有している。しかも,てんかんの臨床の種々な断面で出現するため,てんかんと感情障害との間題については,いまだ充分には整理されていない嫌いがある。文献的にも,発作症状としての情動についての業績は1950年代に集中し,60年代以降は,挿間性精視1症状としての感情障害,および"てんかん性笑い発作"に書研究の焦点がしぼられてきた。今回われわれは,発作症状としての感情障害につき文献的考察を行なうとともに,自験例を報告し,笑い発作との関連から若干の考察を加える。

島根県における精神障害者の自殺

著者: 角南譲 ,   宮本慶一 ,   引野友子 ,   折坂英紀 ,   當山貞雄

ページ範囲:P.237 - P.245

I.はじめに
 精神病者の自殺に関する最近の研究は,主として入院患者を対象にして精神医学的・心理学的立場からなされてきており,精神病者の自殺を単に自殺の生物学的一要素として取り扱う従来の立場から,自殺者の人格構造を理解し,自殺行為の心理機制を明らかにしようとする力動的立場へと方向を変えてきている。
 精神病者の自殺を研究する場合,入院者を対象とすることは研究上資料が得やすく,かつ症状が詳細に把握できるため,自殺の精神病理を詳しく研究するには便利である。しかし反面,症例が限られ,また入院という特殊な環境条件が加わるということのほかに,社会の中にある精神病者の自殺なども含めた横断的傾向が把みにくいという欠点もある。
 この小論は,島根県下における全自殺者について,従来あまりなされていない精神病者と非精神病者の比較,さらに精神病者については外来群と入院群を比較し,精神病者の自殺の横断的傾向を明らかにしようとしたものである。

広島県における森永砒素ミルク中毒者の精神的特性について—特に知能検査・クレペリン検査・CMIの調査結果から

著者: 更井啓介 ,   青盛恵子 ,   武田佐恵子

ページ範囲:P.247 - P.253

I.はじめに
 広島大学医学部では広島県衛生部環境衛生課の委託を受けて昭和48年1月から,森永砒素ミルク中毒者(正確には飲用者とすべきかもしれないが,その大多数が既往に中毒症状を呈しているので中毒者とし,以後簡単に中毒者と略して用いる)の疫学的,臨床医学的検索を行なってきた。
 神経精神医学教室では精神神経学的,臨床心理学的検査を分担し,そのうち中毒者の脳波所見に関しては,すでに第2回日本脳波・筋電図学会で中毒群に脳波異常所見および疑わしい所見を有する者の割合が多かったことを報告した1,2)
 今回は臨床心理学的側面を中心として,中毒者の精神発達遅滞の程度および精神機能の偏りの一部を知り得たので,脳波所見の結果との関連をも合わせてここに報告する。

分裂病症状を呈したAnorexia Nervosaの1既報告例

著者: 高柳功 ,   小宮山徳太郎

ページ範囲:P.255 - P.261

I.はじめに
 神経性無食欲症Anorexia nervosa,青春期やせ症Pubertatsmagersuchtについては,今日すでにSimmonds病との異同をめぐる論争も終わり11),精神疾患あるいは精神身体疾患としてその位置はほぼ確立されたかにみえる。最近Hyperorexia nervosaともいうべき症例19)も報告され,その概念はより広くeating disorders3)としてまとめられる傾向にある。
 わが国では梶山9),石川ら5),下坂14)などの総説的な研究があり,精神科領域での研究はかなりすすんでいる。近年,精神身体医学の立場から,むしろ近接領域での報告例が目立つ12,13,17,20)

24時間ポリグラフィによる睡眠薬FlurazepamとNitrazepamの睡眠に及ぼす影響

著者: 馬嶋一暁 ,   小椋力 ,   中村一貫 ,   中沢和嘉 ,   梅沢要一 ,   上田肇

ページ範囲:P.263 - P.273

I.はじめに
 近年睡眠薬の開発はめざましく,そのヒトでの評価も主観的な自己評価法だけでなく,客観的で詳細な情報が得られる終夜ポリグラフィ法などが使用されてきている(Oswaldら16),1963;Kalesら6),1970;藤井3),1973)。
 それとともに睡眠薬には耐性形成,持越効果,宿酔現象,反跳現象などの存在が明らかとなり,薬物の影響は服用夜のみならず翌日の日中,さらにはその後も持続することが確認されている。そのため最近では終夜ポリグラフィにしても短期間の記録では不十分であり,2週間から2カ月間に及ぶ長期間の頻回の観察の必要性が提唱され(Kales,ら9),1973),比較的長期間にわたる観察が行なわれるようになってきている。しかし,服用翌日の日中に及ぼす影響の検討については,動物では行なわれているが(Ursin19),1968;鳥居ら17),1972),ヒトでは主として服用者の自覚的評価によるものがほとんどで,客観的な観察は少ない。

古典紹介

—Ugo Cerletti—L'Elettroshock—第3回

著者: 村田忠良 ,   遠藤正臣

ページ範囲:P.275 - P.288

Ⅲ.けいれん発作の生物学的意義
 けいれん発作についての私の分析は,一定で,非常に複雑で疑いもなく先天的に,すべての脳に備わって,一定の刺激作用で発射するように準備されているある機構を論証するところにまで至った。さて神経系の自動症の最大発射といわれたもののその《意味》は,生物学的にはどんな意義なのであろうか。
 てんかん発作が予め形成された諸現象の配置図に従って進行すると認めることは,系統発生での大変昔の反復された経験を通して,形成され固定化された機能上のパターンがそこでは問題であることを暗に仮定していることになる。その複雑な現象学を直接的機能的に解釈しようとすると克服し難い困難に出会うので,とりわけ神経性自動症に類似する他の発射現象から何らかの光明が間接的に得られるかどうかをみよう。

解説

—U. チェルレッティ 著—「電撃」

著者: 遠藤正臣

ページ範囲:P.288 - P.291

 精神病のショック療法としてまずSakelによるインシュリン・ショック療法(1933)が,次いでMedunaによるカルジアゾール・ショック療法(1935)が臨床に用いられたが,続いてここに紹介する電気ショック療法がRoma大学のProf. Ugo CerlettiとDott. Lucio Biniによって1938年4月,初めて人間に適用されその成果が1938年5月28日,RomaのAccademia medicaで発表された。この新法はカルジアゾール・ショック療法の欠点を補うと察せられ,彼らはその発表の席である患者にカルジアゾールけいれんを,他の患者で電撃によるけいれんを誘発し,両者を比較検討した結果を報告した。この発表は直ちに6月15日発刊のPresse médicaleやPoliclinicoの7月4日号に紹介され,またProf. Bertolani(Reggio-Emilia精神病院長)によってRivista sperimentale di freniatria e medicina legale delle alienazioni mentali(以下Riv. sper. Freniat. Med. leg. Alien. ment. と略す)の展望欄でも紹介された。一方,この学会発表の要約がCerlettiとBiniの同意を得て,"L'elettroshock"のタイトルで同年のArchivio generale di neurologia e psichiatria(e psicoanalisi)に短く(2頁余り)掲載された。翌1939年にRomaのProf. Fumarolaがドイツ語での本法の紹介をPsychiatrisch-neurologische Wochenschriftの41巻8号に載せ,さらに1940年にはCerletti自身がほぼ同一の内容の論文をドイツ語とイタリア語の2カ国語で書いて,Wiener medizinische Wochenschriftに発表するにつれ,この新治療法は広く世の知るところとなり,わが国でもこれらの発表に教えられて試用されるようになった(上記の論文すべてを入手し,それを読了したが,Prof. Cerlettiの電気ショック療法を紹介しているこれまでのわが国での記述に誤りの多いことを指摘しておく)。わが国では九大の安河内と向笠がCerlettiと別個に電撃療法を試案していたが,その経緯については詳しく知らないので,これ以上ふれない。
 ここに訳出した論文(L'elettroshock)はこのような情況のもとで1940年に世に出たのであるが,本法の人間への最初の適用(1938年4月)や最初の学会発表(1938年5月)より2年余り経過しているのは,本文でCerlettiが述べているように臨床応用に当たり万全を期したかったためであり,またCerlettiの主宰するRoma大学精神神経科の総力をあげての多岐にわたる研究活動の一応の成果を待ったからである。

動き

欧州の児童精神医学事情—Ⅱ.ソヴィエト連邦

著者: 作田勉

ページ範囲:P.293 - P.299

I.はじめに
 ソ連における児童精神医学の実態は,これまであまりよくわからなかった。近年になって,アメリカ人による研究が進み,1972年にはN.Rollinsによる“Child Psychiatry in the Soviet Union”が発行された。その他にもいくつかの論文がポツポツと出されている。しかし,日本人の手によるソ連児童精神医学の動向報告は,未だほとんどないようである。著者は,昭和51年3月下旬に約2週間にわたって,ソ連の三大都市であるモスクワ,レニングラード,キエフの主要研究所を訪ね,各教授と直接面談する機会を得た。その際,各地での児童および青年期精神医学専門医との会見の他に,関連施設をも訪問したので,その模様を報告したい。
 なお,この報告は,ソ連福祉医療教育視察団(16名)として訪問した記録によるものであるが,コーディネイターである国際資料企画センター田村貞雄氏の努力で,各地における児童精神科医との充実した会見がソ連アカデミーにより特別に認められたことを付記し,田村氏への感謝を述べたい。なお,同道された精神科医は,北大名誉教授奥田三郎氏,大阪厚生年金病院医長林幹夫氏であった。なお,ソ連における児童精神科医との会見は,ソ連においては常にそうであるように,時間が指定されていたため,意に満たぬまま打ち切らざるを得ないこともあった。その点ご了承願いたい。

日本精神分析学会第22回大会に出席して

著者: 長岡興樹

ページ範囲:P.301 - P.305

I.はじめに
 日本精神分析学会第22回大会は,昭和51年10月16・17の両日,東京,野口英世記念会館で開かれた。第11回総会が開かれた昭和40年,わたしはどちらかというと,当時,場所・日時ともに本学会と隣接して開かれていた日本精神病理・精神療法学会への関心から,はじめて両学会へ出席した。インターン生であったわたくしにとって,その内容はいずれも魅力的なものであった。顧みると,それから10年の間に,本学会のあり方や内容にかなりの変化がみられる。1つは,44年の内部批判とそれに続く改革の時期を経て,本学会が教育研修の一翼を担うという方向である。実際,昭和48年の第19回大会から,学会前夜にプレコングレスとして,3時間にわたってスーパーヴィジョンの実際が提示されるようになり,翌年の第20回大会からは,学会第1日目の前半が「研修的症例研究」に当てられている。この2つは,精神分析的な雰囲気の薄い地区の会員にとってはありがたいことである。
 つぎに内容的な変化として注目されるのは,牛島定信(福大)・岩崎徹也(東海大)両氏の,クライン学派との交流から,48年以後,治療理論として対象関係論が話題となることが多くなったことである。今回も,発表された7つの一般演題のうちの4題は,対象関係論に何らかの形で係わるものであった。10年前と比べて,演題数が著しく制限され,一演題についての発表・討論にかなりの時間がさかれているので,高所から総括するというのではなしに,紙数の許す範囲でまず一つ一つの演題に触れていき,あとでわたしの感想を述べることにする。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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