文献詳細
文献概要
研究と報告
眼球間代発作重積後,著明な記憶障害を来した1例
著者: 中邑義継1 楠瀬幸雄1 高松茂12
所属機関: 1山口大学医学部神経精神医学教室 2現在山口県立中央病院神経科
ページ範囲:P.499 - P.505
文献購入ページに移動記憶とは体験を印象付けてから,その体験を再び想起するまでの一連の精神機能であり,記銘・保持・想起・再認の4要素を区別することができる。記憶障害には新しい材料を記憶の中に取り入れることの障害(記銘障害)と記憶の中から昔刻みこんだ材料を取り出すことの障害(想起障害)とが従来から主として考えられている。現在,保持能力から記憶はimmediate memory,short-term memory,remote memoryの3段階にも分けられている2,4,14,15)。Short-term memory障害と逆向健忘を主として認めるのがtransient global amnesiaである。これは本邦でも多数,文献報告され7,9〜11,20,21),記憶の機序究明に貢献してきている。また記憶障害に海馬が強く関連していることを示す報告も多数認められる4,5,12,13,16,18)。さらに海馬を灌流している後大脳動脈の循環障害が記憶障害の原因となっている報告もある1,5)。記憶障害は他の脳血管障害,頭部外傷,脳腫瘍,アルコール脳症等と種々の他の原因により,頻繁に生ずるが,これらの場合,他の精神症状を合併しやすく記憶を検討するには不適である。そこで脳局在のある程度確立された部分てんかんに引き続いて生じ,しかも他の精神症状の少ない例は記憶障害の機序を検索する上で有力な手掛かりを与えてくれるはずである。
このたびわれわれは眼球間代発作重積後に逆向健忘を含む著明な記憶障害と自律神経発作を来した症例を経験したので報告するとともに,これら症候について若干の考察を行なう。
掲載誌情報