icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

精神医学19巻8号

1977年08月発行

雑誌目次

特集 在宅精神医療(2)—社会復帰活動とその周辺

印刷工場における職能訓練

著者: 山田禎一 ,   安藤晴延 ,   臺弘

ページ範囲:P.833 - P.843

I.はじめに
 精神障害回復者の社会復帰活動の一環として職業的技能訓練が必要であることは,ここにあらためて述べるまでもない。問題は,わが国の社会的医療的現状の中で,それをいかにして実現するかにある。山田は,昭和49年に,回復者就労援助に関する論文1)の中で,次のように書いた。「苦労して外勤制度をくぐり抜け,祈るような気持で病院から送り出しても,退院していざ家庭から就労すると,つぶされてしまう者,ウダツのあがらない下積みの職種から抜け出せない者がどんなに多いことか。私共はそれを政治の責任だ,国が悪いのだと診察室でボヤイているだけでよいのだろうか。この命題を誰がいつ解決してくれるのだろうか」。回復者が社会的に自立する能力を身につけること,自分の職業に自信と誇りを持てるようにすること。私共はそれを助けるために診察室から出なければならないのである。
 昭和47年8月,私共は社会福祉法人新樹会,創造印刷を設立した。その定款第1章第1条(目的)には,「この社会福祉法人は,援護,育成または厚生の措置を要する者などに対し,その独立心をそこなうことなく,正常な社会人として生活することができるように援助することを目的として,次の社会福祉事業を行なう。(1)第一種社会福祉事業(イ)授産施設の設置経営」とある。ところでわが国の社会福祉のための公私の授産施設は,身体障害者,精神薄弱者に対しては,それそれすでに100余および70余ヵ所(昭和48年現在)2)が存在し,民間施設に対する施設整備の補助金や措置費負担などの公的援助も,福祉法によって一応整っているが,精神障害に対してはいまだ福祉法すらなく,創造印刷の法人認可も「その他」の項目でようやく扱われた有様であった。そしてわが国の精神障害回復者のための授産施設の数は,本特集で佐々木の述べているように,現在数えるほどしか存在しない。このような現状は,精神障害回復者に就労援助の必要がないというよりも,関係者が予測される困難の前にたじろいでいて,手を出しかねているという事情によることが多いと思われる。

慢性分裂病患者の共同住居の近況

著者: 大原重雄

ページ範囲:P.845 - P.852

I.はじめに
 昭和41年4月より慢性分裂病患者の共同住居を試みてからやっと満10年を過ぎたところで,今回の特集にその近況を報告する機会を与えられたことに感謝し,拙著"共同住居による慢性分裂病患者の社会復帰"の訂正と補遺をかねて,その問題点を散文的に記載させていただくことをお許し願いたいと思う。

共同住居「友愛寮」の試み—家族会と精神衛生関係者による実践活動

著者: 土肥武雄

ページ範囲:P.853 - P.859

Ⅰ.静岡県内の精神医療状況
 静岡県内における精神医療状況の片鱗を表1から読みとってみると,精神障害者数対病床数は28.7%,対医師数は0.8%,対看護婦数は6.6%となっており,誠にお寒い現状である。病床数からみると人口万単位県は18.2床,全国は25.3床で県は不足,措置患者数は県が7.3人,全国が5.8人で県が上まわっている。
 次に身近かで行なわれている事例をあげよう。SWを使って外勤作業を組織的に行なっている県立病院のみで,通勤者は30人,事業所は15カ所である。他にデイ・ホスピタルは退院者を院内の作業場に参加させ,社会復帰への足がかりと通院中断防止に努めている。

一民間機関における精神衛生活動—やどかりの里の経過と現状

著者: 谷中輝雄 ,   田口義子 ,   荒田稔 ,   高畑隆 ,   北村早穂

ページ範囲:P.861 - P.867

I.はじめに
 やどかりの里を語るのにはいくつかの困難さを感じる。一つはめまぐるしいほどにあり方が変化してきたことである。二つには“いわゆる社会復帰施設”としてだけでは言いつくせないものがある。しかし,これら一連の流れの中に一つの特徴をとらえることができる。すなわち,一民間機関であったということである。それ故に,その時々の問題や状況の対応において,機関のあり方が流動性,柔軟性を持っていたことである。専従会員(スタッフ)が軸になり意見をまとめたり,方向性を見出す役割を持っていたにしろ,会員全体の共働作業によって作りあげてきた作品ともいえる。したがって,その歩みも「医療」から「福祉」を主張し,「福祉」から「市民」として,ごくあたりまえの社会生活を求めるといったように変化してきている。この変化には,埼玉県での精神科医療状況とも深くかかわりを持っている。発足当時(昭和45年),「中間施設」についての問題が提起されていた時でもあり,これらとも深く関係していると考えられる。いずれにせよ,今日に至るまで模倣するものすらなく現実の様々な要請に対応してきたのが実情である。

社会復帰関連法規をめぐる問題点

著者: 竹村堅次 ,   井口喬

ページ範囲:P.869 - P.876

I.はじめに
 われわれが烏山病院でいわゆるナイト・ホスピタル(NH)の患者第1号を送り出したのが昭和35年であったから,今年で17年になる。NHは何といっても精神病院のリハビリテーション(Reh)活動の中核であったし,今後もこの体制が当分続くであろうことは間違いない。初期の頃,自ら職親を開拓しつつ日本的中間施設の実験をはじめ営営として築き上げた苦労は,今日もなお全国至るところの病院で続けられている1)。NHの患者が労働基準法第9条の労働者であるかどうかの考え方は治療に当たる者の継続的苦労とは別に誠に気の疲れる問題である。このことはすでに昭和42年頃からやかましく論議され,43年8月には正式に労働省労働基準局長名で各都道府県基準局長あて通達(42基収第3650号)されたのであるが,その見解は「原則として法第9条の労働者には該当しないが,形式的に判断することなく,実態に応じ,使用従属関係の有無を判断し,もし使用従属関係が認められ労働に対価が支払われているときは労働者に該当する」というものである2)。しかし,われわれとしては入院患者である以上,院外個人作業療法とみなし,たとえ多少の報酬が得られたとしても,それは「作業の結果生じた収入は患者の勤労意欲を増進し,社会復帰を促進するといった治療効果を考慮して取扱う」という厚生省側の見解に同調してきた。同じく昭和43年8月,われわれはPSWの協力も得て,NHの発展によって発生するさまざまの問題点を詳細に検討報告3)したが,このなかでもこの問題にふれ,また関連すべき法規,諸制度のはなはだ不備であることを痛感しつつ,結論を中間施設を制度化する方向に持ち込んだのである。
 その後10年近くの時が経過したが,この間80%もの病院がNHを実施しているという調査結果があるにもかかわらず,中間施設はもちろんわれわれの望むReh体系もあまり進まず,わずかに各地にRehセンターが設立される傾向がみられる程度である。ただ関連法規からいえば,精神障害者の人権とくにその労働権をめぐっていろいろ不利な条件を負わされているのが注目され,昭和47年には労働基準法第51条の精神病者の就業禁止規定が廃止されるに至ったことは,やはりそこに時の流れを思わせるものがある。一方労働安全衛生法第68条では,なお病者の就業禁止ないし制限を労働省令で定めるとしているが,これは単に「精神分裂病,躁うつ病,麻痺性痴呆その他の精神病の患者であって就業が不適当なもの」を禁止とし,「患者で自傷,他害のおそれのある者」を就業不適当とするという極めて当たり前の常識的な政令にすぎない。

アルコール症患者および家族に対するコミュニティ・ケア

著者: 今道裕之 ,   小川誠 ,   西川京子 ,   長尾輝子 ,   中山霞 ,   野間恵子 ,   牧里毎治

ページ範囲:P.877 - P.885

I.はじめに
 他の精神障害者と同様にアルコール症患者の場合も,その回復あるいは社会復帰のためには,急性期に対する医療と同時に再発予防および社会復帰をめざしたアフター・ケアが不可欠であることはいうまでもない。アルコール症の場合も,その慢性的な発展過程において,精神的身体的な医学的問題のみならず,同時に家族関係の歪み,失職や職場での信用の失墜,子供の教育上の問題など,数多くの社会経済的問題が派生してきている。これら諸問題がさらに患者の飲酒を促がす誘因となって悪循環を形成しており,たとえ通院または入院治療によって医学的には一旦軽快しえても,これらの問題が解決されなければ,到底この悪循環を断ち切ることは困難である。そのためには病院医療をも包含する幅広いcommunity-centeredなケアがどうしても必要である。すなわち地域における長期間の一貫した持続的援助が体系化されてこそ,アルコール症患者の再発予防,社会復帰が可能になるといえる。
 Community psychiatryがわが国に紹介されてからすでに久しいが,実際には今日までほとんど根本的に改善されることなく過ぎてきたわが国の精神科医療制度のもとでは,community psychiatryの実践は遅々として進まず,むしろごく一部の医療機関や保健所などの医療衛生関係者の個人的な関心と熱意に支えられて細々と実践されているのが現状であろう。このようなわが国の現状の中で,幸いアルコール症治療は比較的systematicに発展してきたといえる。それは,アルコール症の場合,断酒継続という共通の治療目標があり,これに有効な断酒会組織が大きく発展し,再発予防に貢献してきたからである。昭和38年全日本断酒連盟が結成されてからは,各地で回復アルコール症患者からなる断酒会が次々に誕生し,現在では全国に100を越える断酒会が組織され,昭和49年の現会員数は1万7千名と報告されている1)。さらに幸いなことには,わが国の場合,アメリカと違って2),最初から断酒会と医療者との協調は比較的円滑に進み,その連携が今日のアルコール症治療の発展をもたらしたといえる。

巻頭言

特集にあたって

著者: 後藤彰夫

ページ範囲:P.774 - P.775

 本特集は,本誌18巻6号の特集「在宅精神医療——日常生活における指導と治療」の続編として企画された。
 前特集では「日常生活における指導と治療」として患者と治療者の現場におけるかかわりのなかから問題を提起し,それにいかに対応すべきかをテーマにとりあげ,とくに患者と治療者間の治療関係状況を中心に論じた。そして,在宅精神障害者の実態を大都市,中都市,農村,僻地において把握したうえで生活療法理念を在宅医療の中軸にすえ,病院,診療所などにおける外来診療,保健所における保健婦その他パラメディカル・スタッフの活動,家族治療などの治療状況に分けて実践の過程に即した報告なり問題提起を行なった。

資料

各都県における精神障害者社会復帰対策の現状

著者: 関根悦男 ,   原田憲一

ページ範囲:P.827 - P.831

 今日わが国の都道府県は独自に様々な精神障害回復者社会復帰援助制度をもっている。表1に示したように,そのうちの大部分はいわゆる職親制度である。表2には職親制度の現状を示した。
 この資料は,昭和51年秋,長野県で社会復帰援助事業を検討するに際して作製されたものである。資料は,各都県の精神衛生主管課に対してアンケート方式で問い合わせた結果を整理した。細かい点ではあるいは間違いがあるかもしれないが,わが国のとくに職親制度の現状をおおよそ把握するには有用であろうと考え公表することにした。なお表1は51年4月,表2は同7月時点での調査であるため,その相互の間に幾分の相違がありうる。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら