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雑誌目次

論文

精神医学19巻8号

1977年08月発行

雑誌目次

特集 在宅精神医療(2)—社会復帰活動とその周辺 巻頭言

特集にあたって

著者: 後藤彰夫

ページ範囲:P.774 - P.775

 本特集は,本誌18巻6号の特集「在宅精神医療——日常生活における指導と治療」の続編として企画された。
 前特集では「日常生活における指導と治療」として患者と治療者の現場におけるかかわりのなかから問題を提起し,それにいかに対応すべきかをテーマにとりあげ,とくに患者と治療者間の治療関係状況を中心に論じた。そして,在宅精神障害者の実態を大都市,中都市,農村,僻地において把握したうえで生活療法理念を在宅医療の中軸にすえ,病院,診療所などにおける外来診療,保健所における保健婦その他パラメディカル・スタッフの活動,家族治療などの治療状況に分けて実践の過程に即した報告なり問題提起を行なった。

病院外における精神障害者社会復帰活動の現況—全国調査(1976)をふまえて

著者: 佐々木雄司 ,   関根和夫 ,   佐藤三四郎 ,   谷中輝雄 ,   田口義子 ,   荒田稔 ,   高畑隆 ,   北村早穂

ページ範囲:P.776 - P.783

I.はじめに
 精神障害者にとっての社会復帰活動の必要性が叫ばれて,すでにかなりの年月が過ぎた。またそのあり方をめぐって,いくつかの議論が生まれた。これらの動きの中に「病院医療から地域医療へ」向かう大きな流れを見出すことができる。しかし地域における精神障害者の処遇の具体的方向については,われわれ第一線スタッフ自身にとっても,国や都道府県にとっても,いまだ暗中模索の点が多い。そこでわれわれは,まず地域における社会復帰活動の全国規模での実態の把握が必要と考え,この調査を実施した。
 調査対象は精神障害者(精神薄弱者,アルコール・薬物中毒者を除く)の病院外における社会復帰活動に限定した。
 調査はおよそ次の方法によった。まず各都道府県の精神衛生センター・相談所に対して,また未設置の府県では情報に詳しいとみられる医療従事者に対して,各都道府県での活動についてのアンケート調査を行なった。次にその中で興味深い活動や回答の得られなかった府県などで,必要と感じられた活動に対しては,われわれが直接赴いたり,電話したりして具体的な実情を把握した。以上によって得られた情報に,各精神衛生センター所報などによる資料を補足した。結果的には全都道府県からの資料が得られ,部分的には調査もれや不正確な点もあろうが,一応全国状況を把握できたと考えられる。なおこの調査は昭和51年4月1日現在行なわれている活動によって把握した。
 本調査を通じ,社会復帰活動が実に多様であることを再認識させられた。以下4つの視点(Ⅱ〜Ⅴ)からの検討を試みた。

資料

全国精神障害者社会復帰活動一覧(1976年4月1日現在)

ページ範囲:P.783 - P.795

 本文の中では,紙数の都合で個々の活動の紹介まではすることができなかった。しかるに,全国的にどこで,どんな社会復帰活動が行なわれているのか,特に民間の活動についてはあまり知られていないのが現状である。そこで,調査時点からすでに1年数カ月を経過して古くなった感はまぬがれないが,個々の活動の要点を,資料編として紹介してみたい。この資料が,社会復帰活動の検討のために生かされれば幸いである。

保健所におけるグループ・ワーク(デイ・ケア)および就労援助

著者: 浅尾博一 ,   山中豊子 ,   荒賀文子 ,   眞野元四郎

ページ範囲:P.797 - P.802

I.はじめに
 保健所での精神衛生相談には,入院問題,退院後の社会復帰の問題,通院医療の問題,在宅精神障害者の訪問指導等があるが,年々社会復帰の問題が多くなり,一方,病院より保健所に退院後の患者の生活指導の依頼がもちこまれるようになったため,これらの解決の道としてグループ・ワークであるデイ・ケアの実施に至ったのである。
 すでに中原保健所では,障害者に対する社会復帰援助として,保健所が保護工場的役割を演ずる活動を昭和41年3月より実施している1)。保健所がかかる役割を果たすことの是非は別として,保健所が精神障害者のためのリハビリテーションを行なう一社会資源として利用されるべき要請がもたらされてきていると考える。

精神衛生センターにおける社会復帰活動

著者: 黒田知篤

ページ範囲:P.803 - P.810

Ⅰ.精神衛生センターの機能と社会復帰
 精神衛生センターが,昭和40年の精神衛生法改正に基づいて,精神衛生に関する知識の普及,調査研究および複雑困難な相談・指導を行なう都道府県(以下県と略)立の公的施設として定められ,厚生省公衆衛生局長通知によって,保健所および関係諸機関に対して専門的立場から,技術指導および技術援助,教育研修,広報普及,調査研究,精神衛生相淡,協力組織の育成の業務を行なう総合的技術センターであり,地域精神衛生活動の中核となる機能をそなえたものとされているが(精神衛生センター運営要領),現状は必ずしも十分ではない。
 また,現在36都道府県に設置されたときくが,設備,人員,予算規模の面において,各県各様であるばかりでなく,その活動内容においても決して一様ではない。このあたりの状況については,菅又の「精神衛生センターと精神医療」1)と題した論述に詳しいので多くは述べないが,要は,貧弱な規模と不明確な行政機構上の位置づけ,さらには無体系な地域精神医療システムの中で,各県各様に,保健所や精神衛生に関連する諸機関,諸団体と関わりをつくり,不十分ながらせいいっぱいの公衆衛生上の技術指導機関としての役割を果たしてきたというのが実情であろう。

リハビリテーション・センターにおける就労援助

著者: 蜂矢英彦

ページ範囲:P.811 - P.818

I.はじめに
 精神科医療の現場で行なわれる就労援助活動の歴史は,決して新しいものではない。古くは,われわれ現役が精神科医療にたずさわるはるか以前から行なわれており,例えば病院精神医学誌上にも,戦時中から戦後にかけてと,昭和20年代の東京都立松沢病院における就職退院after careの経験について,横井の報告がある。昭和30年代の半ば以後,精神障害者の社会復帰を標題とする報告は数多く,就職・復職の問題に重点のおかれたものも少なくない。しかし,精神科リハビリテーションの過程の中で,極めて重要な場面であるにもかかわらず,就労援助活動という一断面に焦点を絞って論じたものは,意外なことにあまり多くない。
 その理由のひとつには,精神病院における外勤作業の検討でこと足りると考えられたこともあるかもしれない。もうひとつには,多くの精神科医がこの活動を精神科ソーシャルワーカー(以下PSWと省略)にまるごと委ねてきたことに示されるように,就労援助活動を精神科の医療技術とは別物とする考え方があったのかもしれない。しかし,精神科リハビリテーションの過程の中で,ここまでは医者と看護者が,ここからはPSWが,この場面では作業療法士が,あの場面では臨床心理士が,そして地域に帰ったら保健婦が,というように役割分担を明確にすることは,リハビリテーションを受ける側からいえば不本意なことだろう。それぞれの役割には柔軟な重複があるのが自然であり,したがって就労援助活動も医療技術として検討されるべきだし,その中から他の場面では見出せなかった精神医学的学説が生まれても不思議はないのである。東京都立世田谷リハビリテーション・センターでは,職種をこえて技術系全職員が就労援助に当たっている。また,当センターの活動には,病院における外勤作業と共通する部分があるとともに,病院入院患者を対象とする場合とは質的に違った部分もある。

精神障害者の職親制度の現状—東京都における職親制度の経験から

著者: 菅又淳 ,   林幸男 ,   六反田幸子

ページ範囲:P.820 - P.827

I.はじめに
 精神障害者のリハビリテーション援助の中で最も大切な最終目標は,患者をまがりなりにも1人の社会人として独立させることである。そのためには一定の職を持たせ,生活の資を得させることが必要となる。すべての患者に何らかの職業に正式就労させることが理想であるが,種々の程度に残った欠陥や,症状の不安定さ,社会訓練の不足などで正式就労が不可能な患者が決して少なくないことは衆知のとおりである。そこで理解のある事業主にハンディキャップを承知の上で,訓練を兼ねて使っていただくという方法が考えられたわけで,この事業主を一般に職親と称しているわけである。精神病院で院外作業をお願いしている事業主を職親と通称しているようであるが,事業主の善意と負担だけに依存していては本式には発展しないということで,公的に委託費を出して,この負担を軽減して,十分な訓練を依頼しようというのが職親「制度」である。東京の精神衛生センターでは,後に述べるような社会復帰援助の過程で職親制度の開発に踏み切ったものであるが,その後この制度の必要性を痛感していた全国のいくつかの県が,後を追うように次々とこの制度を発足させている。これはこの特集で関根・原田が長野県で調査した結果を資料として本論文のあとに発表している。むろん国としての制度はないわけであるが,将来は国として制度化されることを目途として,現在東京都において実施している制度の実状を述べ,その利点や問題点を考察してみることにする。すでに発足以来6年半を経過し,種種の問題点が発見され,そのために思うようにこの制度が進展していないのが実状である。他の県ではそれぞれ実状に応じ,われわれのものとは違った制度(仕組み)をとっているわけで,いかなる方法が最も適当であるかを検討すべきである。そのためにまず東京都の実績を述べるわけであるが,この点に関する活発なご批判やご意見を切に希望するものである。

資料

各都県における精神障害者社会復帰対策の現状

著者: 関根悦男 ,   原田憲一

ページ範囲:P.827 - P.831

 今日わが国の都道府県は独自に様々な精神障害回復者社会復帰援助制度をもっている。表1に示したように,そのうちの大部分はいわゆる職親制度である。表2には職親制度の現状を示した。
 この資料は,昭和51年秋,長野県で社会復帰援助事業を検討するに際して作製されたものである。資料は,各都県の精神衛生主管課に対してアンケート方式で問い合わせた結果を整理した。細かい点ではあるいは間違いがあるかもしれないが,わが国のとくに職親制度の現状をおおよそ把握するには有用であろうと考え公表することにした。なお表1は51年4月,表2は同7月時点での調査であるため,その相互の間に幾分の相違がありうる。

印刷工場における職能訓練

著者: 山田禎一 ,   安藤晴延 ,   臺弘

ページ範囲:P.833 - P.843

I.はじめに
 精神障害回復者の社会復帰活動の一環として職業的技能訓練が必要であることは,ここにあらためて述べるまでもない。問題は,わが国の社会的医療的現状の中で,それをいかにして実現するかにある。山田は,昭和49年に,回復者就労援助に関する論文1)の中で,次のように書いた。「苦労して外勤制度をくぐり抜け,祈るような気持で病院から送り出しても,退院していざ家庭から就労すると,つぶされてしまう者,ウダツのあがらない下積みの職種から抜け出せない者がどんなに多いことか。私共はそれを政治の責任だ,国が悪いのだと診察室でボヤイているだけでよいのだろうか。この命題を誰がいつ解決してくれるのだろうか」。回復者が社会的に自立する能力を身につけること,自分の職業に自信と誇りを持てるようにすること。私共はそれを助けるために診察室から出なければならないのである。
 昭和47年8月,私共は社会福祉法人新樹会,創造印刷を設立した。その定款第1章第1条(目的)には,「この社会福祉法人は,援護,育成または厚生の措置を要する者などに対し,その独立心をそこなうことなく,正常な社会人として生活することができるように援助することを目的として,次の社会福祉事業を行なう。(1)第一種社会福祉事業(イ)授産施設の設置経営」とある。ところでわが国の社会福祉のための公私の授産施設は,身体障害者,精神薄弱者に対しては,それそれすでに100余および70余ヵ所(昭和48年現在)2)が存在し,民間施設に対する施設整備の補助金や措置費負担などの公的援助も,福祉法によって一応整っているが,精神障害に対してはいまだ福祉法すらなく,創造印刷の法人認可も「その他」の項目でようやく扱われた有様であった。そしてわが国の精神障害回復者のための授産施設の数は,本特集で佐々木の述べているように,現在数えるほどしか存在しない。このような現状は,精神障害回復者に就労援助の必要がないというよりも,関係者が予測される困難の前にたじろいでいて,手を出しかねているという事情によることが多いと思われる。

慢性分裂病患者の共同住居の近況

著者: 大原重雄

ページ範囲:P.845 - P.852

I.はじめに
 昭和41年4月より慢性分裂病患者の共同住居を試みてからやっと満10年を過ぎたところで,今回の特集にその近況を報告する機会を与えられたことに感謝し,拙著"共同住居による慢性分裂病患者の社会復帰"の訂正と補遺をかねて,その問題点を散文的に記載させていただくことをお許し願いたいと思う。

共同住居「友愛寮」の試み—家族会と精神衛生関係者による実践活動

著者: 土肥武雄

ページ範囲:P.853 - P.859

Ⅰ.静岡県内の精神医療状況
 静岡県内における精神医療状況の片鱗を表1から読みとってみると,精神障害者数対病床数は28.7%,対医師数は0.8%,対看護婦数は6.6%となっており,誠にお寒い現状である。病床数からみると人口万単位県は18.2床,全国は25.3床で県は不足,措置患者数は県が7.3人,全国が5.8人で県が上まわっている。
 次に身近かで行なわれている事例をあげよう。SWを使って外勤作業を組織的に行なっている県立病院のみで,通勤者は30人,事業所は15カ所である。他にデイ・ホスピタルは退院者を院内の作業場に参加させ,社会復帰への足がかりと通院中断防止に努めている。

一民間機関における精神衛生活動—やどかりの里の経過と現状

著者: 谷中輝雄 ,   田口義子 ,   荒田稔 ,   高畑隆 ,   北村早穂

ページ範囲:P.861 - P.867

I.はじめに
 やどかりの里を語るのにはいくつかの困難さを感じる。一つはめまぐるしいほどにあり方が変化してきたことである。二つには“いわゆる社会復帰施設”としてだけでは言いつくせないものがある。しかし,これら一連の流れの中に一つの特徴をとらえることができる。すなわち,一民間機関であったということである。それ故に,その時々の問題や状況の対応において,機関のあり方が流動性,柔軟性を持っていたことである。専従会員(スタッフ)が軸になり意見をまとめたり,方向性を見出す役割を持っていたにしろ,会員全体の共働作業によって作りあげてきた作品ともいえる。したがって,その歩みも「医療」から「福祉」を主張し,「福祉」から「市民」として,ごくあたりまえの社会生活を求めるといったように変化してきている。この変化には,埼玉県での精神科医療状況とも深くかかわりを持っている。発足当時(昭和45年),「中間施設」についての問題が提起されていた時でもあり,これらとも深く関係していると考えられる。いずれにせよ,今日に至るまで模倣するものすらなく現実の様々な要請に対応してきたのが実情である。

社会復帰関連法規をめぐる問題点

著者: 竹村堅次 ,   井口喬

ページ範囲:P.869 - P.876

I.はじめに
 われわれが烏山病院でいわゆるナイト・ホスピタル(NH)の患者第1号を送り出したのが昭和35年であったから,今年で17年になる。NHは何といっても精神病院のリハビリテーション(Reh)活動の中核であったし,今後もこの体制が当分続くであろうことは間違いない。初期の頃,自ら職親を開拓しつつ日本的中間施設の実験をはじめ営営として築き上げた苦労は,今日もなお全国至るところの病院で続けられている1)。NHの患者が労働基準法第9条の労働者であるかどうかの考え方は治療に当たる者の継続的苦労とは別に誠に気の疲れる問題である。このことはすでに昭和42年頃からやかましく論議され,43年8月には正式に労働省労働基準局長名で各都道府県基準局長あて通達(42基収第3650号)されたのであるが,その見解は「原則として法第9条の労働者には該当しないが,形式的に判断することなく,実態に応じ,使用従属関係の有無を判断し,もし使用従属関係が認められ労働に対価が支払われているときは労働者に該当する」というものである2)。しかし,われわれとしては入院患者である以上,院外個人作業療法とみなし,たとえ多少の報酬が得られたとしても,それは「作業の結果生じた収入は患者の勤労意欲を増進し,社会復帰を促進するといった治療効果を考慮して取扱う」という厚生省側の見解に同調してきた。同じく昭和43年8月,われわれはPSWの協力も得て,NHの発展によって発生するさまざまの問題点を詳細に検討報告3)したが,このなかでもこの問題にふれ,また関連すべき法規,諸制度のはなはだ不備であることを痛感しつつ,結論を中間施設を制度化する方向に持ち込んだのである。
 その後10年近くの時が経過したが,この間80%もの病院がNHを実施しているという調査結果があるにもかかわらず,中間施設はもちろんわれわれの望むReh体系もあまり進まず,わずかに各地にRehセンターが設立される傾向がみられる程度である。ただ関連法規からいえば,精神障害者の人権とくにその労働権をめぐっていろいろ不利な条件を負わされているのが注目され,昭和47年には労働基準法第51条の精神病者の就業禁止規定が廃止されるに至ったことは,やはりそこに時の流れを思わせるものがある。一方労働安全衛生法第68条では,なお病者の就業禁止ないし制限を労働省令で定めるとしているが,これは単に「精神分裂病,躁うつ病,麻痺性痴呆その他の精神病の患者であって就業が不適当なもの」を禁止とし,「患者で自傷,他害のおそれのある者」を就業不適当とするという極めて当たり前の常識的な政令にすぎない。

アルコール症患者および家族に対するコミュニティ・ケア

著者: 今道裕之 ,   小川誠 ,   西川京子 ,   長尾輝子 ,   中山霞 ,   野間恵子 ,   牧里毎治

ページ範囲:P.877 - P.885

I.はじめに
 他の精神障害者と同様にアルコール症患者の場合も,その回復あるいは社会復帰のためには,急性期に対する医療と同時に再発予防および社会復帰をめざしたアフター・ケアが不可欠であることはいうまでもない。アルコール症の場合も,その慢性的な発展過程において,精神的身体的な医学的問題のみならず,同時に家族関係の歪み,失職や職場での信用の失墜,子供の教育上の問題など,数多くの社会経済的問題が派生してきている。これら諸問題がさらに患者の飲酒を促がす誘因となって悪循環を形成しており,たとえ通院または入院治療によって医学的には一旦軽快しえても,これらの問題が解決されなければ,到底この悪循環を断ち切ることは困難である。そのためには病院医療をも包含する幅広いcommunity-centeredなケアがどうしても必要である。すなわち地域における長期間の一貫した持続的援助が体系化されてこそ,アルコール症患者の再発予防,社会復帰が可能になるといえる。
 Community psychiatryがわが国に紹介されてからすでに久しいが,実際には今日までほとんど根本的に改善されることなく過ぎてきたわが国の精神科医療制度のもとでは,community psychiatryの実践は遅々として進まず,むしろごく一部の医療機関や保健所などの医療衛生関係者の個人的な関心と熱意に支えられて細々と実践されているのが現状であろう。このようなわが国の現状の中で,幸いアルコール症治療は比較的systematicに発展してきたといえる。それは,アルコール症の場合,断酒継続という共通の治療目標があり,これに有効な断酒会組織が大きく発展し,再発予防に貢献してきたからである。昭和38年全日本断酒連盟が結成されてからは,各地で回復アルコール症患者からなる断酒会が次々に誕生し,現在では全国に100を越える断酒会が組織され,昭和49年の現会員数は1万7千名と報告されている1)。さらに幸いなことには,わが国の場合,アメリカと違って2),最初から断酒会と医療者との協調は比較的円滑に進み,その連携が今日のアルコール症治療の発展をもたらしたといえる。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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