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雑誌目次

論文

精神医学2巻1号

1960年01月発行

雑誌目次

展望

最近15年間の妄想研究(1945〜1959)—その1 記述的方法

著者: 島崎敏樹 ,   井上晴雄 ,   中村舜二 ,   阿部忠夫 ,   豊田三郎 ,   瀬川浩 ,   宮本忠雄 ,   斎藤幸雄 ,   倉持弘 ,   梶谷哲男 ,   金森健 ,   矢崎妙子 ,   中根晃 ,   大森広子

ページ範囲:P.3 - P.16

 妄想研究を大別すると,記述的考察,力動的考察,人間学的考察の3つに分けることができる。
 1940年にG. Schmidtが「最近25年間のドイツ語圏における妄想(1914〜1939)」を報告した当時は,人間学的研究を行なう人々はまだごくかぎられていた。そのためSchmidtは妄想研究を記述的考察と力動的考察の2つに大きく分けるとともに,さらに記述的考察を原発妄想と二次的妄想に分け,Storch,Kunz,v. Baeyerらの実存的存在論に立つ妄想研究は記述的考察の原発妄想のところで取扱われていた。

研究と報告

戦後10年間における神経症的葛藤の推移について

著者: 中川四郎 ,   江熊要一 ,   沼部敏夫 ,   桂あぐり ,   神岡芳雄

ページ範囲:P.17 - P.21

 昭和22年(1947)から昭和31年(1956)にいたる10年間に診療した心因性精神神経疾患の中で,発症の契機となつた心的葛藤の明瞭なものを,各年度ごどに50例宛無作為に抽出し(ただし昭和22年と23年は全例使用),総数44S例を資料としてその葛藤の種別の各年度ごとにおける割合を算出し,その変動の様相から,これを3期に分け,22〜25年を第Ⅰ期,26〜28年を第Ⅱ期,29〜31年を第Ⅲ期として,各葛藤の出現率を推計学的に検定しつぎの結果をえた。
 (1)家族葛藤はⅠ期からⅡ期およびⅢ期において著明な増加がみられ,とくに第Ⅲ期の増加は中年の家婦において顕著であり,その内訳をみると嫁姑間の葛藤が増加していた。
 (2)愛情(性的)葛藤はⅠ期よりⅢ期において増加し,中年の男性にその傾向がみられた。
 (3)経済葛藤はⅠ期に多く,これは41才以上の男子において著明であつた。その内容も戦後の社会的経済的変動に密接に関係する右のであつた。
 (4)職業葛藤はⅠ期に多いが,これは25才以下の青年男子に多くみられた現象である。
 (5)身体葛藤はⅠ期に比べⅡ期,Ⅲ期は激減しているが,Ⅱ期の減少はとくに女子において著明であつた。
 (6)道徳葛藤は各期の間に有意の差が認められなかつた。
 以上の成績は心因性の精神神経障害発現の契機となる心的葛藤の内容が,顕著に社会的文化的環境を反映していることを示すとともに,その統計的処理のうえからみた変動に対応してかりに区分した3つの時期が,戦後の混乱期,不況期,回復期とほぼ一致していることは,社会精神医学上興味あるところである。

酒客のCyanamideによる飮酒量抑制効果について

著者: 向笠寛

ページ範囲:P.23 - P.28

Ⅰ.緒言
 慢性酒精中毒の治療がしばしば失敗する最大の理由は,患者が飲酒の誘惑(酒を飲む楽しみ,あるいは酒を飲んでStressを忘れること)に負けて抗酒薬の服用を止め,ふたたび飲酒を試みる結果,たちまち従前通りの連続的大量飲酒をはじめるに至ることである。したがつて,Antabuseの発見者E. Jacobsenもいうように1),酒精中毒者から飲酒の楽しみをすべて奪い去るのでなく,常人なみの飲酒はこれを続けさせることができるような手段があればもつとも合理的であろう。そしてこれは慢性酒精中毒者達の夢でもある。しかしながら不幸にしてこのような手段は現在まで発見されておらず,今日唯一可能な方法は,絶対的禁酒を生涯続けさせることである。
 私はさきにCyanamide(以下Cy. と略記)の抗酒作用について報告し4),それが極めて著明な抗酒作用を持ち,かつ速効性,安全性,廉価,副作用がないなどの点で,Antabuseや石灰窒素に優ることを指摘した。

自動車運転事故の精神医学的研究—第1報てんかんと運転事故

著者: 内田亨 ,   戸嶋豊 ,   長谷川保

ページ範囲:P.29 - P.34

 われわれは,てんかん発作を有する20例の職業的自動車運転手について,事故の頻度,事故形態,事故と発作との関係,事故発現の条件などを中心に検討してつぎの結果をえた。
 1.てんかん発作をもつ自動車運転手20例中,事故をおこしたことのあるもの14例,このうち発作による事故は6例,30%である。
 2.発作型別にみると,大発作15例,失神発作1例,もうろう状態1例,偏頭痛発作1例,大発作+不機嫌症1例,大発作+小発作1例で,大発作のみのものがもつとも多い。事故の原因をなした発作は大発作3例に対して失神発作1例,もうろう状態1例,大発作+不機嫌症1例であり,大発作以外の発作が事故の原因をなす傾向が大きい。とくにてんかん性不機嫌の1例は事故頻発の傾向が著明であつた。
 3.病症の自覚および薬物治療の有無は事故の発現に影響するところが大きい。病症を自覚し,服薬するものは,しからざるものに比して,事故の危険が少ない。
 4.走行距離と事故との関係は密接である。事故の多くは長距離運転のさいにおこる。
 5.一般に発作は運転中よりも,休息,就寝などの緊張解除時におこりやすい傾向が認められる。

慢性幻嗅患者の臨床的研究

著者: 鹿野達男 ,   大塚俊男 ,   本荘暢子

ページ範囲:P.37 - P.41

Ⅰ.序言
 ここに集めた症例は幻嗅を主訴としているものでその他の顕著な身体的疾患,たとえば,てんかん発作のあるものや,他の重要な精神症状,たとえば疎通性のえがたいものなどは観察の対象に含まれていない。つまりここでは幻嗅を主症状とし他に身体症状や重要な精神症状を含まないにもかかわらず,その患者の生活が相当高度にまで障害されている症例を観察の対象とした。そもそも幻嗅症状については最近側頭葉の電気生理学的研究の進歩から,いろいろと注目されてきているが,精神医学における臨床的立場からこれをとりあげているものはきわめて少く,わずかにフランスに1,2の断片的な報告をみるにすぎない1),2)。その事実は臨床的に本症状が分裂病の初期の一症状としてあるいは分裂病のその他の重要な症候群のかげにかくれたあまり重要でないささいな一症状として看過されてきたことと,本症状が幻視や幻聴などに比較して幻覚としての体験形式の把握が困難であつたことに由来するのであろう。しかし以下にのべるように幻嗅を主症状としてほかに重要な身体精神症状を伴わず,定型的な分裂病に発展することもなく数年を経過する患者群もたしかに存在するのであり,またそれらについて観察を続けるうちにその症状の出現に関するある種の条件について若干の知見をえたので以下に報告する。

電気けいれん療法の経過中に非定型的病像を示した躁病患者の1例

著者: 平井静也 ,   竹中久三 ,   福田千恵子

ページ範囲:P.43 - P.45

Ⅰ.緒言
 1957年にフォン・ベーヤーは,電気けいれん療法の経過中に,一過性にうつ病患者に現われた非定型的(分裂病様)病像について報告した。これは本来の躁うつ病の症状にも,コルサコフやせん妄状態のごとくはつきりした器質的症状にも属さず,また最初ははつきりしない抑うつ状態にあつたものが,けいれん療法によりしだいに分裂病の症状を現わし,結局は進行性の分裂病の経過をとるものなどにも属しない,内因性のうつ病に短期間挿間的に現われ,けいれん療法の影響がなくなるにしたがつて,かなり急速に消失する分裂病に類似した病像である。
 このような例は非常にまれなものであつて,実際上には大して問題にならないが,精神病理学的には興味あるものである。

感応性精神病の事例—症状展開の社会学的考察

著者: 白石英雄

ページ範囲:P.47 - P.52

Ⅰ.緒言
 私はかつてBergson,Storchらの社会学的,人間学的な考察を参考にしながら,1人の急性精神病者について社会的ならびに心理的な分化性の変動を追跡し,その症状の展開・変遷を考察した。それは個人の社会的および心理的な生活圏の変動—分化し開いた大きな生活圏から混沌とし閉じられた小さな生活圏への変化と,その逆の変化—を個人の精神病理学的な状況と対照しながら考察したものであつた。それによると一定の素質を備えた患者が社会的・心理的な葛藤にあつて心身の勢力を消費し,勢力を節約せんがための一次的防御手段として社会に対し封鎖的様式をとり,また心理的にも閉鎖的となつて社会共同存在から遊離する。社会共同存在からの遊離はかえつて個人に過度の心的緊張を要求し,さらに勢力を消耗さすために二次的な防御手段として遊離の程度が強化される。このようにして孤立化が生じ,その孤立した姿は深い実存の不安を含むものであり,かつ心的水準の低下の結果として未分化な諸種の心性の出現を招来するものである。そしてそれがとりもなおさず精神病理学的な病像であると考えられた。今回一家8名のうち全部が急性精神病ないし精神的な失調をきたし,前もつて1名,そののち一挙に5名が集団的に入院してきた事例があつたので,さきに個人でなした考察の方法を家族単位という次元に適用してみた。この事例の家族の社会的・心理的な分化性に焦点を合わせ,その孤立化してゆく過程(未分化な状態に陥る過程)と,呈した精神病理学的な像とを関連せしめつつ考察する。

動き

独仏精神医学者の懇話会(Journées d'études franco-allemande)

著者: 三浦岱栄

ページ範囲:P.53 - P.54

 今年の4月17日から19日の3日間にわたり,フランスのBonneval(Henri Eyはここの公立精神病院長である)で独仏精神医学者の懇話会が行われた。その大体の模様が最近着のEvolution Psychiatrique(Année 1959 Fascicule Ⅱ)に出ているので,世界の精神医学界の動きの一つとして紹介したい。
 このような懇話会を開く計画は,1957年のチューリヒにおける第2回国際精神医学会でEyとZutt教授の間でとりきめられた。

紹介

—Hans W Gruhle 著—了解心理学 Verstehende Psychologie—〔第1回〕

著者: 秋元波留夫 ,   東京大学医学部精神医学教室精神病理学グループ

ページ範囲:P.55 - P.59

序説
 Hans Gruhle(1880-1958)の代表作「了解心理学」"Verstehende Psychologie"(第2版,1956年)をこれから7回にわたつて解説することになつた。本書をテキストとして教室の精神病理グループの諸君が輪読を行つているので,そこで討議されたことをまとめて,この書物の特色をできるだけ鮮明な形に整理することが本稿の目的である。しかし,原著はなにぶん600頁に近い大著であるし,この本の副題が「体験の学」"Erlebnislehre"と誌されているように,理論よりも体験を重んずる著者の態度からしても,およそダイジェストには不適当である。このような書物を限られた紙面に圧縮することは至難でもあるし,下手をすると著者の精神を歪曲することにもなりかねない。この点については解説にあたるものとして討議をつくして遺漏なきを期したい。
 この書の中心はいうまでもなく精神医学のαでありωたる「心理的事実の了解」という根本的命題であり,これをEmil Kraepelinとその弟子たち,Karl Jaspers,Kurt Schneiderおよび著者らに共通する経験批判の立場から,著者独特の鋭い論法を用いて敍述したものである。

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再び研究書の出版について

著者: 金原一郎

ページ範囲:P.60 - P.60

 待望の所 安夫博士の「脳腫瘍」がいよいよ出版されることになつた。A4判974頁・挿図874個・図表157個・18,000円の大冊である。一冊18,000円と云うと日本では最高価の書籍であり,医学書として勿論前例のない豪華版である。もつとも外国の医学書では一冊30,000円や50,000円のものは,そんなに珍らしいことではない。Schmolka:Cytodiagnostik B5判161頁で12,000円に較べれば,まだ安い方である。最近入荷したものではMoellendorff:Mikroskop. Anatomie Bd. 4 Teil 4.31,800円 Lubarsch:Handbuch Bd. 13 Teil 3.29,800円の如きがある。
 それでも研究者にとつては必読書なので,高い本だとこぼしながら買い求めざるを得ないのである。この4月医学書院で開催した外国医書展示会でLubarsch:Handbuch(既刊分だけ562,660円) Bergmann:Handbuch(既刊分だけ248,680円)など陳列まもなく売切れてしまつた。私が毎度申し上げる言葉であるが(良いものは必ず売れる,必要は高価のものを買わしめる)と云う学術書の鉄則がここでも如実に示されている。

精神医学統一用語集(P〜S)

ページ範囲:P.16 - P.16

—P—
psychosomatic medieine(E) 心身医学
psychothérapie persuasive(F) 説得療法

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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