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雑誌目次

雑誌文献

精神医学2巻10号

1960年10月発行

雑誌目次

展望

精神身体医学

著者: 池見酉次郎

ページ範囲:P.645 - P.655

Ⅰ.はしがき
 私が本稿の依頼を受けてから間もなく,ニューヨークのコーネル医科大学のDr. Harold G. Wolffから「精神身体医学(以下PSMと略記)の定義」についての詳細なレターを受取つた。そしてこのレターに述べられた彼の意見に対して,私がどう思うか,是非返事をして欲しいと書き添えてあつた。
 ウォルフ教授はもともと内科の教授であるが,同時に精神科のAssociate Professorを兼ねている程の碩学であり,私の考えでは米国におけるPSMの第一人者である。彼は内科医として,実証医学的な立場を堅持しつつ,米国でも最も真面目にPSMの問題に取組んでいる人の一人である。本レターに述べられたPSMの定義もまことにincisive(鋭利な)でPenetrating(透徹した)なものであり,これ位包括的で,しかも科学的な立場から,PSMの定義を論じ得た人は,今日まで外にはないようにさえ思える。
 彼のレターは,私どもがかねてサイエンスとしてのPSMはかくあるべきだと考えていながら,この方面に対する素養の不足から,あえて明言し得なかつたところを,ズバリと言い切つた感じである。これは余程自信があり,自らしつかりした実証的なデータを持つた人でなければ言えないことである。また彼は,現在のPSMにおけるトップレベルの研究の要点を,うまくまとめてレターに紹介してくれており,PSMの大きな骨組みだけは一通り出来上りつつあることを吾々に肯かせてくれる。それと同時に,これらの骨組みを足がかりとして,今後発展するべきPSMの領域が,いかに広大なものであるかをも教えてくれる。
 以上のような次第で,私どものささやかなデータにもとづくPSM論をここに展開するよりも,ウォルフ教授のレターの内容を全訳して,そのまま紹介し,これに対する私どもの考察をつけ加えることにしたい。

フランスの妄想研究(3)—第1部 症候論(つづき) 空想妄想病と熱情妄想病(A.恋愛妄想病・B.復権妄想病)

著者: 小木貞孝

ページ範囲:P.657 - P.665

空想妄想病(délire d'imagination)
 すでに1860年に,Morel(1)は,ある種の誇大妄想者の中に空想***(imaginaion)が精神活動の中核となつている患者を見出していた。同じころJ. P. Falret(2)も空想という精神活動についての透徹した考察を残している。ドイツでも,これと相前後してSander(3)がoriginäre Paranoiaの一型として家族性誇大妄想を記載している。その後,ドイツではこの病型について,多数の研究がなされことにDelbruck(4)の空想虚言はわが国でもよく知られているが,フランスでは,20世紀初頭のForel(5)の研究までみるべきものが少なかつた。
 これから紹介しようとする空想妄想病はそれまでの研究を土台にして,1910年とその翌年Dupreとその協力者Logre(6)(7)によつて呈出された。以後フランスではこの名が一般化し,例の空想虚言の名はごく一部の人をのぞいてはあまり知られないこととなつた。

研究と報告

分裂病者における言語の音調理解に関する研究

著者: 丸山芳也

ページ範囲:P.667 - P.678

まえがき
 分裂病者の言語については,これまで多くの研究が行なわれている。しかし,いまなお問題として残されている点も多い。その第1の点は,いままでの研究の多くが,患者の「表現」の異常に重点をおいて,患者が相手の言葉をどのように「理解」しているかを,あまり問題にしていないことである。たとえば,Kleistは脳病理学の立場から,分裂病者の言語表現を失語症と比較しているし,Schneider, C.,Gruhle,Berze,Kronfeld,Frostig,Schilder, Pなどは精神病理学的立場から,患者の言語異常を思考障害と結びつけて考察している。これらの研究は,患者の「言語表現の異常」を問題にしたものといえる。
 むろん,分裂病者の言語理解の異常を問題にしている学者がいないわけではない。Vigotsky,Cameron,Kasaninらは発達心理学的立場から,患者の言語理解の特異性をとりあげている。さらに一歩をすすめて,Kanner, L.,Slotkin, J. S.,高臣などは,行動ことに「対人関係における行動」として言語をとらえようとしている。

精神分裂病様症状を呈したAthyroidismの1例

著者: 兼谷俊

ページ範囲:P.681 - P.686

緒言
 先天性,または,後天性の甲状腺機能欠如および低下のさいに,精神活動全般の遅鈍化を主とする,精神病像がみられることは,すでに知られているところであるが,最近私は,分裂病症状が前景に出ていた症例で,諸種検査の結果,甲状腺機能障害があり,組織学的にも,痕跡程度の甲状腺組織しか認められなかつた症例を経験し,甲状腺剤を与えつつ,病像の経過を追う機会をえたので,ここに報告する。

ナルコレプシーの2例—脳幹網様体の神経生理学的知見から

著者: 渡部龍一

ページ範囲:P.689 - P.692

 ナルコレプシーは,特異な睡眠発作と筋緊張喪失発作との合併を主症状とする一疾患であるが,その本態に関しては古くからいろいろと論議されてきた。ところが近年,睡眠,覚醒,意識ならびに筋緊張,姿態維持などに関与する脳幹網様体の神経生理学的機構が解明されてきており,この概念をナルコレプシーの発症機序の説明にもとりあげ,本症がこのような神経機構の機能的障害を意味するものであるという新しいみかたが生まれてきた。
 一方,最近出現した中枢神経刺激剤のある種のものが,ナルコレプシーの治療に応用されて,卓効を奏することが知られているが,本症の観察とはまつたく別な立場から,このような薬物の作用機序に関する研究がなされ,本薬剤の第一の侵襲点こそ脳幹網様体であるとされている。

動き

イギリス精神病院の印象

著者: 黒川正則

ページ範囲:P.695 - P.703

 筆者は1958年9月から約1年半の間,ロンドン大学精神医学研究所に滞在したが,この間機会をえて,2,3のイギリス精神病院を見学したので,その模様を簡単に記してみたい。滞英中ちようどイングランド・ウエールズの精神保健法が改正され,新しくMental Health Act,1959が成立した。これは154条にわたつていて,全体を理解することは容易ではないが,議会の論議を通じてとくに問題とされた点だけをとりあげて紹介したいと思う。

紹介

—ヘルマン・ロールシャッハ—「標準ロールシャッハ図版」

著者: 高橋艶子

ページ範囲:P.707 - P.708

 最近,日本版ロールシャッハテストの図版が出版されることを人伝に聞き,今までに感じていた,不便さ,たとえば,新しい図版を必要に応じ,容易に入手できないこと,また,輸入のために値段が高いことが,もつと“すぐに”“安価に”入手できるということに期待を持つていた。しかし,さて日本版ができるということになると,今さらのように図版は印刷物であり同じものにしても,日本で同じようにできるかどうか,スイスから輸入された図版でも,時々に色彩のニュアンスや濃度,鮮明さが少し,ちがつたりしていることが何回かあり,それも今までは原版という信頼から特にその問題点の検討もせずに使用していたが,さて図版そのものに注意をしてみると,図版からくる諸問題にあまりに無関心であつたと思いなおしているのである。
 その矢先に日本版ロールシャッハテスト図版について意見をもとめられた。しかし,この図版そのものの問題は沢山の問題を持つているのでもあり,私たちが,簡単にとかくいう段階ではないと思うので,まず私は自分達の廻りの人々の自分以外の目に原版と日本版との差がどの程度に認められるかということについて,つぎの簡単な試みをしてみた。まず,昭和30年に買もとめた比較的,きれいな図版と,もつとも最近入手したものと(共にスイス版)と日本版ロールシャッハの3種を比較検討し,その中で一種だけ他と違つた物を取り出す方法を取つてみた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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