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雑誌目次

論文

精神医学2巻12号

1960年12月発行

雑誌目次

展望

てんかん—臨床と脳波

著者: 和田豊治

ページ範囲:P.779 - P.788

いとぐち
 てんかんに関する臨床研究は終戦後の10年間にいちじるしく進歩し,またその臨床脳波面も基礎的神経生理学の進展と相まつて大いに開拓されたことは何人も認めるところであろう。しかしそれにひきかえて,その後とくに1955年以降においては,神経生理の基礎領域における発展に比べると,てんかんの臨床面はやや停滞気味であるといつても過言ではあるまい。たとえば1950年あたりをふりだしとしてとりあげられた側頭葉てんかんの研究に比較しうるほどの臨床的新知見のごときものは,少なくともここ2〜3年の間にはもたらされていない。ただその裏面には,偏桃核辺縁系そして網様系へと綜合的に進んでいる生理学的研究があることはみのがしえないところであつて,やがてそのうちにそれらの成果がてんかんの臨床に寄与することが期待される現況である。
 ここ2〜3年の間に出版されたてんかんの成書としてはつぎのものが見出されるだけで,その数もさして多くはない。すなわち,Gibbs & Stamp:Epilepsy Handbook(1958),Baldwin & Bailey(ed.):Temporal Lobe Epilepsy(1958),Haas(ed.)Lecture on Epilepsy(1958),Ajmone-Marsan & Ralston:The Epileptic Seizure(1957),Sakel(遺稿):Epilepsy(1958),Tower:Neurochemistry of Epilepsy(1960),そして近刊のLennox:Epilepsy and Related Disorders(1960)などである。

フランスの妄想研究(5)—第2部 病因論(つづき) 妄想の器質論,Pierre Janetの妄想論,Henri Eyの妄想論,あとがき

著者: 小木貞孝

ページ範囲:P.789 - P.794

妄想の器質論
 MonakowとMourgue1)は精神機構に2つの階層を認め,これを本能領域(sphère des instincts)と因果領域(sphère de la causalité)とよんだ。本能領域は精神機構の下層を占めて生体エネルギーを放出する場であり,因果領域は上層にあつて人間が外部と交通する場である。彼らは,妄想や幻覚は,因果領域が障害され,本能領域の生体エネルギーが外界と交通できなくなつた状態であるとした。この場合,本能領域の非論理的でかつ本質的にthymiqueな面が表面にあらわれ,それが妄想の意味内容を規定する。
 この考えかたはGuiraud2)3)のいわゆる生物学的妄想論においてさらに発展せられた。

研究と報告

視覚性失認の象徴型

著者: 井村恒郎 ,   野上芳美 ,   千秋哲郎 ,   後藤弘

ページ範囲:P.797 - P.806

 著者たちは一昨年暮から今年にかけて,視覚性失認の1例を観察したので,その記録の要点をここに報告し,あわせてこの症例の示唆する問題について考察したい。症例は,いわゆる同時失認,相貌失認,動物失認,場所の失認,それから色彩失認と,一連の視覚性失認,症状を呈していた。その個々の失認症状は,従来の文献例に比較して,大同小異のものであつたが,この症例を全体としてみると,つぎの諸点ではなはだ特異な1例であつた。
 第1にふつうの知能検査法の施行にたえることができ,その成績は総点としては優に正常知能の範囲内にあり,ただ文字以外の視覚的な素材を用いた知的操作にいちじるしい欠陥を示していた。その特殊な知能プロフィルは,これまでたびたび問題になつた知能と失認との関係について,臨床に即した実際的な知見を与えるものと思われる。

双生児精神障害(Folie gémellaire)の1例

著者: 稲野穎弍 ,   稲野久子

ページ範囲:P.807 - P.810

1.緒言
 双生児法Twins methodを初めて人類遺伝学に導入したのはGalton 1876であるといわれているが,精神疾患研究にこの方法を適用したのはSiemens 1924であるとされている。こののちにも有名なLuxenburger 1930を初めその業績は少なくない。わが国においては,東大脳研一門を主とする精力的な研究がある。しかしその中でも,一方の精神障害が対偶者罹患の直接原因をなしているとみなされる場合,すなわちいわゆるFolie àdeuxの範疇に属するものは必ずしも多くはない。われわれの経験した症例はこの意味でかなり興味ぶかい発病要約を示し,双生児間感応性精神病Folie gémellaireとも称しうるものであると思われるのでここに報告することにした。

ナルコレプシーの1家系—ナルコレプシーと精神疾患

著者: 笠原嘉 ,   瓜生萬里

ページ範囲:P.813 - P.818

1
 ナルコレプシーの家系内出現については,estW-phal以来すでに50余例の報告があり,症候性のそれをも含めてナルコレプシーの発現には家族性体質性の素因が不可欠であるとされている。しかしこの疾患の遺伝臨床的研究は乏しく,ナルコレプシーの遺伝型式についてはむろん,ほかの内因性精神病,てんかんなどとの関係についても定説をもたない。われわれの一家系はナルコレプシーと内因性精神病を多発しており,両者の関係の考察に寄与できると思う。従来から家系員の精神疾患についての記載は少なくないが,ただすべて1〜2例の,しかも簡単な報告にすぎず,詳細は不明である。したがつてここではおもに家系員の精神病像に焦点をあわせたい。

拘禁性精神病の臨床的研究

著者: 森一 ,   長浜宗昭 ,   松本啓

ページ範囲:P.819 - P.825

1.はしがき
 拘禁性精神病に関しては,Delbrück以来数多くの研究があり,わが国においても中6)および左座,大谷9,10),野村7,8),久保5),中田そのほかの報告がある。しかして,拘禁性精神病はこれら諸家の研究の結果,種々な素因のうえに発現する心因性疾患として承認され,種々の分類がなされているが,従来の研究はそのほとんどが精神病理学研究である。われわれは,拘禁性精神病に対する生物学的研究の立場から,本症の脳波を追求しているが相当の高率に異常脳波の出現を認めている。したがつてそれらの本症における異常脳波の出現を,その個々の症例の身体的素因の一端を示すものと考え,臨床像とその脳波所見とを対比検討した結果,若干の興味ある成績をえたので報告する。

分裂病とパントテン酸

著者: 高坂睦年

ページ範囲:P.827 - P.833

1.はじめに
 分裂病生体における代謝をうかがうつもりで,患者の血液について調べていたところ,血球自体がになつている変化に気づいた1)1)。この変化は血球の形態においてみられたり,in vitroにおいて,赤血球自身が行なう解糖作用に変化があつたり,あるいはまた赤血球が持つている炭酸脱水酵素活性値が低かつたりすることであつた。これらのうち解糖作用の変化とビタミンの関係をさがしたのが最初の仕事であつたが,パントテン酸をとりあげてみたのが直接分裂病とパントテン酸の関係を調べる最初のものであつた(共同研究者松枝の論文)。2)それからパントデン酸(PaAと略す)を分裂病患者に投与し,副腎皮質機能を調べたり,臨床状態像の変化を観察した。詳細は他日共同研究者たちの論文に記すこととして,ここではその概略を紹介しておきたい。

精神分裂病者の眼球運動

著者: 阪本正男

ページ範囲:P.835 - P.837

(1)眼球運動を運動角3分1/1000秒の精度で観察記録する方法が記述された。
(2)筆者は予備実験として20名の慢性分裂病者と10名の対称群との眼球運動を記録しつぎのごとき結果をえた。
 ①刺激開始と眼球運動開始のラグタイム=分裂病者は対称群の約2倍である。
 ②運動角速度:病者は,対称群に比し30%大きい。
(3)無反応,ラグタイム,角速度の増加はこれらが複雑な行動にあらわれると無関心,衝動性,突発性に構成されるのではないかと考えられた。
(4)これらの変化は,分裂病者の反射運動がふつうと異つた様式をもつことを暗示するものである。

ロールシャッハ精神診断法による尊属殺人者の研究

著者: 坪井孝幸 ,   中村一夫

ページ範囲:P.839 - P.846


 殺人ほどさまざまな人によつて,またさまざまの動機から行なわれる犯罪はない。しかし,そのうちでも親が子の犠牲となることは特別の場合である。犯人が精神的に,あるいは道徳的に欠陥を有していたか,または犠牲者である親が暴虐非道の人であつたとか,さまざまな特殊の事情を考慮しなければならない。
 私たちは尊属殺人者の精神医学的・犯罪学的研究の結果,犯人が精神異常者であつた場合,犠牲者の人格に問題のあつたもの,両者ともに人格異常のあつた場合などがあることはすでに指摘した13)

動き

独・米精神医学者を迎えて

著者: 田椽修治 ,   本多裕

ページ範囲:P.847 - P.853

 最近,外国からの同僚の来日がさかんである。この春にはフライブルグからJung教授を迎え,続いて,ベルリンのSelbachおよびHippius両氏,さらに米国東部精神医学協会の来日があった。彼らの来日を機会に,東京をはじめ各地で集会があり,単に彼らの話を聞くだけでなく,われわれの側の研究や意見の発表が行なわれ,学問的交流の実をあげるうえに役だつところがあつた。これらの動きを簡単に本欄で紹介したい。

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精神医学 第2巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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