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雑誌目次

雑誌文献

精神医学2巻3号

1960年03月発行

雑誌目次

展望

失語・失行・失認に関する最近の諸研究

著者: 大橋博司

ページ範囲:P.127 - P.139

 フランスのBicȇtre病院の外科医P. Broca(1861)がパリ人類学会において,有名なaphémie(後の運動失語)の症例Leborgneに関する臨床解剖学的報告を行なつてからすでに百年が経過しようとしている。以後「失語,失行,失認」に関する諸先人の業績は莫大な量にのぼる。この方面に活躍した代表的な人々としてはJackson,Wernicke Charcot,Pick,von Monakow,Déjerine,P. Marie Kleist,Head,Goldstein,Pötzl等々,いずれもそうそうたる"grosse Nervenärzte"をあげることができる。この1世紀間の史的回顧は先人の功績を忘却しないためにも,今後の研究の導きのためにも是非とも書かるべきものであろうが,ここではその余裕も準備もないので,もつぱら1940年代以後の諸研究を紹介するにとどめる。
 大脳病理学はまず臨床的症状と解剖学的局在との対応を研究することから始められた。この大脳局在論的な方向はBroca,Wernickeをはじめ「古典論者」が進んだ路で,Henschen,Kleistにより徹底され,Nielsenらにうけつがれている。しかし大脳病理学は単に局在論にあまんずることはできなかつた。むしろ言語や行為,認知などの象徴機能を失つた人間を対象として,人間性洞察の資料とする試みが現われたことは当然で,Head,v. Monakow et Mourgue,Goldsteinらのたどつた方向がそれであつた。前者の観点が要素的静態的であるとすれば,後者の見地は全体的,力動的である。両者の立場の鋭い対立が失語研究史を多彩にいうどつたことは周知のところである。

研究と報告

結節性脳硬化症の臨床像補遺—症例を中心として

著者: 小笠原暹 ,   鷲塚昌一

ページ範囲:P.141 - P.147

 両側性の顔面皮脂腺腫・てんかん様発作・精神発育制止をもついわゆる結節性脳硬化症は1880年にBournevilleにより初めて記載された。本邦では1916年に佐藤が本症につき初めて報告して以来,その不全型も入れると約300の報告例がある。
 われわれは最近経験した3例の本症をここに報告するが,それらはいずれも臨床上定型像を示すほかに,1例では脳室撮影により脳室内腫瘍が認められ,1例ではてんかん様発作として精神運動発作あるいは自動症が,残り1例では臨床症状をみない同胞に異常脳波を認めるなどの興味ある所見がえられたからである。

精神発育制止とてんかん発作を示したToxoplasmosisの1症例

著者: 坂井昭夫 ,   竹内輝博

ページ範囲:P.149 - P.152

緒言
 Toxoplasmosisは1908年NicolleとManceauxが発見したToxoplasma gondiiにより発症するもので,多く小児にあらわれ,脳水腫,脳髄膜炎,脳内石灰沈着,けいれん発作,脈絡膜網膜炎,眼球振盪,精神障害などを惹起するといわれ,わが国でも,宮川15),松林16),宮崎17),大鶴18)らの報告があるが,著者はてんかんけいれん発作,自発性眼球振盪,精神発育制止,を主徴とする本症患者1名につき,比較的長期間観察加療の機会をえたので報告する。

精神薄弱児に対する薬物療法

著者: 高橋彰彦 ,   三浦隆

ページ範囲:P.153 - P.163

 重症精薄児延63例に4種の薬剤を投与して,精神薄弱の治療の可能性を追求した。
 Chlorpromazine(コントミン)療法は10例に行い,8例に興奮鎮静効果を認めた。その中1例は1年間効果が持続し,他は治療期間のみか,または治療後短期間で元の状態に戻つた。
 Perphenazine(P. Z. C.)療法は11例に行った。単独投与の9例では,効果のあつたもの6例で,その中2例は疎通性がやや改善され,他の4例は感情の鎮静・安定と行動の落着ぎを見た。PzとCp・Phenobarbita1の併用投与の2例は併用中のみ行動の落着きと従順さが見られた。Cp,Pzおよび同種の他の薬剤のいずれによつても症状に変化のない症例があつた。
 Dimethylaminoethanol(レクレイン)療法は,18例に行い,16例に効果が見られた。行動増加を来たしたのは13例で,その中6例は粗暴性を示すようになつたものであつた。行動の質的な進歩を見せたものが3例あつた。全般に意欲の高まりを認めたが,それを望ましいi形に方向づけることは,本療法の限界を越えるものと考えるべきである。
 γ-AmiIlobutyric acid(GABA)療法は24例に行い,15例に効果が見られた。感情鎮静,安定作用は15例中7例に,精神活動の活濃化は8例中5例に,また日常行動の進歩は23例中8例に見られた。

抗てんかん剤Gemonil(Metbarbital)による治療経験

著者: 佐藤時治郎 ,   浅野昭一 ,   酒井敏子 ,   佐藤愛 ,   山田旭 ,   熊谷秀夫

ページ範囲:P.165 - P.170

 Gemonilは1948年Petermanによつて新抗てんかん剤として,臨床面に導入され,てんかん患者の60%に有効であるとのべられた。ついでPerlsteinによつてInfantile myoclonic spasmsに著効があり,かつ器質性脳疾患によるてんかん発作にとくに有効であると発表された。
 Gemonilは化学的には5-diethyl-1-methyl barbitulic acidで第1表のごとき化学構造式を有する。

著明な精神神経症状を呈したペニシリンショック後遺症の1症例

著者: 中島顕 ,   小林節夫 ,   加藤嘉彦 ,   飯塚正章

ページ範囲:P.171 - P.173

 ペニシリン・ショックの後遺症として,長期にわたり,精神神経症状を呈することは,きわめてまれなことであるが,われわれは,ペニシリン・ショック後,性格変化,失調症状,錐体外路症状,球症状など多彩な精神神経症状をのこした症例を観察したので報告する。

動き

フィリッピンの精神衛生運動

著者: 三浦岱栄

ページ範囲:P.175 - P.176

 私は本年1月2日から10日まで,マニラに滞在する機会をもつたが,旅行の目的が精神医学や精神衛生とは直接何の関係もなかつたので,その方面の詳しい事情をお伝えする資格もないし,また適任でもない。ただ,マニラに出発する前に,フィリッピン精神衛生協会のDr. Estefania Aldaba-Limから内村先生にあてて書かれた御手紙を預り,その手紙の内容の件についてよく相談してくるようにといわれたので,フィリッピン精神衛生協会と若干の接触をもつたにすぎないのである。
 Dr. Est. Aldaba-Limとはいろんなかけ違いで最後まであうことができず,残念であつたが,PMHA(Philippine Mental Health Associationの略字)の事務局長であるMiss Dolores S. Franciscoと面会して,いろいろ説明をきいたり,沢山のパンフレットや資料なども貰つたので,それに基いてフィリッピン精神衛生運動の現況を述べてみようと思う。

紹介

—Hans W. Gruhle 著—了解心理学 Verstehende Psychologie—〔第3回〕

著者: 東京大学医学部精神医学教室精神病理グループ

ページ範囲:P.179 - P.184

Ⅴ.人格と環界
 イ.幼時における人格の形成
 新生児がもつている素質は多数あるが,そのうち,比較的簡単に確認できるものはそう多くはない。その1つは豊かな自発性である。衝動発生の活溌さは生後3,4カ月で可成り目立ち,意志と密接に関連して,人格の根本特性を形成する。このような自発性の豊かさは環界と結びつくことが少ない。これに反して自発性の貧困は素質よりもむしろ発育障害や身体的疾患に帰せられる。そして,自発性以外の多くの素質は成長と共に漸次顕現してくる。
 しかし,精神の成長は虚な空間の中で行なわれるのではなく,環界の2つの重要は作用がこれに働きかける。すなわち,環界は一方では経験に必要な素材を与え,他方では育成に適当な条件を附与するのである。豊かな教養,たびたびの旅行,良い風習などに恵まれた環界が全生涯にわたつて有利に影響することは1つの原則といつてよい。

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精神医学統一用語集(Z)

ページ範囲:P.170 - P.170

—Z—
zoophilia(E) 動物嗜愛
zoophobia(E) 動物恐怖

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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