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雑誌目次

雑誌文献

精神医学2巻6号

1960年06月発行

雑誌目次

展望

セネストパチーとその周辺

著者: 保崎秀夫

ページ範囲:P.325 - P.332

 体感異常のみを単一症候として,そのほかにほとんど異常を認めない患者に遭遇した場合に,多くは心気症,神経症,精神衰弱,心身症,抑うつ症などの診断をつけてしまうが,その経過,症状を仔細に観察してみると,これらの診断がしつくりといつていないのに気がつく。このような場合に,フランス精神医学で用いられているCénéstopathieセネストパチーなる概念を援用すると大変つこうがよいのであるが,セネストパチーという言葉のもつ実際の意味はあまりはつきりとはしていない。文献も最近はほとんどないので,ここでは従来使われていた意味と,こんにち私達の使つている範園についてふれてみたいと思う。まずセネストパチーのもとになるセネステジーからのべると。

研究と報告

脳動脈硬化の臨床—脳病理学的巣症状を中心として

著者: 山本達也 ,   前川杏二

ページ範囲:P.333 - P.339

 脳動脈硬化ないし脳卒中にさいして,失語,失行,失認などの,いわゆる脳病理学的巣症状がしばしばあらわれ,しかもとくに関心の深い精神医学者の手によつて,その構造が詳細に分析された報告の少くないのは周知のことである。ところでこの巣症状の他の側面,すなわち,基礎疾患である脳動脈硬化によつてひき起こされる全体的な精神神経障害のなかで,巣症状患者の示す特徴を明らかにすることができるならば,脳血管障害の問題にとつてまた1つの示唆をうることができるであろう。そこで今回,種々の精神神経症状を指標として,脳動脈硬化のなかにおける巣症状をもつ症例の位置づけを試みたわけである。

両側側頭葉の軟化をともない大脳半球の著明な萎縮を呈した1例

著者: 野上芳美 ,   林英三郎 ,   矢吹天司 ,   赤井契一郎 ,   竹石芳光 ,   北周二 ,   轟章 ,   島田清 ,   豊田正穂 ,   今村正夫

ページ範囲:P.341 - P.350

 われわれは最近周期的な意識障害発作,精神的幼児様化その他の多彩かつ特異な症状を呈した症例を観察した。剖検のうえ病理学的な検索を行なつたが,その結果もまた特異で,本例の疾病学的位置づけは現在なお問題を残している。すなわち考按の部で後述するごとく,本例を肝脳変性症の一異型とみなすことは不可能でないが,それに対し若干の疑点もあるし,ほかのいかなる疾患ないし疾患群に本例を属せしめることも困難と思われる。したがつてここに臨床的ならびに病理学的所見を記述し,今後の類似症例の報告をまちつつ,諸賢の批判をあおぎたいと思う。

頭部外傷後の神経症症状形成における社会的心理的要因の意義(第1報)/(第2報)

著者: 諏訪望 ,   森田昭之助 ,   古屋統 ,   藤井英生 ,   川村幸次郎 ,   本間均 ,   駒井透 ,   大和田宏 ,   石戸政昭 ,   西堀恭治 ,   山下格 ,   小林義康 ,   村田忠良 ,   吉田稔 ,   伊藤嘉弘 ,   西信博 ,   吉村洋吉

ページ範囲:P.351 - P.366

はしがき
 頭部外傷の後遺症のうちで,多彩な自覚症を有しながら,その裏づけとなる器質的障害,または機能的障害を明確にしえない症例が増加してきていることは,臨床的に直接われわれが経験しているところである。
 これらの症状形成の因子に関して,かつては単純な心因論と器質論とが対立したこともあつたが,この両者を截然と区別することはきわめて困難である。したがつて,かかる問題の究明には単に狭義の医学的な立場からだけでなく,社会的要因の意義についても十分な考察が必要と考えられる。とくにわが国においては,第2次大戦後,労働者災害補償保険法(労災法)が施行され,外傷の機会の多い労働者に対する社会補償が,一応形態を整えてはきたが,そのことは反面において,頭部外傷後遺症の症状形成にさらに複雑ないろどりを与えているとも考えられるわけである。

高度の尿意頻数衝動をきたした神経症の1例

著者: 中江正太郎

ページ範囲:P.367 - P.371

 尿意頻数の症状は泌尿器疾患のほかに,内科的疾患によつてもみられるが,心因性の疾患の場合にもしばしばみられる。つぎに報告する症例は,神経質症などにみられる尿意頻数恐怖とは異つた頻繁な排尿衝動を示した特異な神経症と思われるので,ここに報告するしだいである。

薬剤

MAO阻害剤JB 516の抑うつ状態に対する効果

著者: 中久喜雅文

ページ範囲:P.373 - P.379

Ⅰ.まえがき
 うつ病の治療法として従来用いられてきた電気衝撃療法や持続睡眠療法は,最近いちじるしい発展を示している薬物療法にその座をゆずろうとしているようにみえる。いわゆる抗うつ剤AntidepressantとしてはAmphetamine,Pipradrol,Methylphenldate,Cafilonなどの中枢神経刺激剤,Acetylcholineの前躯物質である2-Dimethylaminoethanol(DMAE),Imipramineなどがあげられる。ここに報告するJB 516(Catron)も一応中枢神経刺激剤と考えられているが,従来のものとは中枢神経系におよぼす作用を異にしている。
 このものは,脳内のMonoaminoxidase(MAO)阻害作用により,二次的に脳内Serotonin,Noradrenaline量を増加せしめ,したがつて体外より与えられた刺激剤とは異つてより生理的な精神賦活作用を有するといわれる。MAO阻害剤としてはかつてIproniazid(Marsilid)がうつ病治療に用いられ,ある程度の臨床効果をおさめたが,肝に対する不快な副作用のために臨床的に十分な検討を経ないままに使用が中止されたのは周知のとおりである。CatronはIproniazidよりも脳・血液関門を通過しやすく,また肝に対する副作用が少く,脳のMAO阻害作用はIproniazidの30〜50倍強いといわれている。MAO阻害剤はほかの抗うつ剤と異つてその脳内作用機構が明らかであるため,単にうつ病治療剤としてのみでなく,うつ病ないしうつ状態の病態をさぐるうえにも有意義な薬剤と思われる。われわれは中外製薬よりCatron試供品をえたので,昨年9月以来,抑うつ状態を主とする精神疾患に使用し,その効果を検討した。われわれの検索の目的は,第1にCatronの精神状態におよぼす影響を明らかにし,第2に本剤がうつ病のいかなる症状,いかなる状態像に有効であるかを調べることである。薬剤の効果をみる場合に,成因の異なるうつ病を一括してその何%に有効であるかというだけでは,その薬剤を真に治療に活用せしめるうえの示標とはなしがたい。種々の抗うつ剤が発見されている現状においては,それぞれの薬剤の作用の特長と適応を知ることが,もつとも重要と考えられる。

抑うつ状態に対するJB 516の使用経験

著者: 那須敏雄 ,   小田晋 ,   小林健一

ページ範囲:P.381 - P.388

Ⅰ.まえがき
 抑うつ状態に対する薬物療法のうち,いわゆるStimulantとよばれる一連の薬物が最近,かなり知られてきており,カフィロン,メチルフェニデート,ピプラドロールなどが用いられてきている。
 これらは,いわゆるParasympothomymeticaとして,その中枢刺激作用をうつ状態の治療に応用しているわけなのであるが,したがつてそれ自体の効用と限界をあわせもつているわけである。

精神科領域におけるJB 516の使用経験

著者: 上村忠雄 ,   竹内輝博 ,   上条和四夫 ,   保科泰弘 ,   原誠衛 ,   野崎央

ページ範囲:P.389 - P.396

Ⅰ.緒言
 戦後,反応性,内因性を問わずうつ状態を主訴として病院を訪れる患者が増加しているといわれているが,その治療に関しては精神科医の頭痛のたねであり,わずかに電撃療法がその存在を認められているにすぎず効果を期待しうるものはまず皆無といつても過言ではない。しかし最近にいたり種々の抗うつ剤Anti depressants,精神賦活剤Psychoactive drugsが相ついで登場し,臨床症状のうえにかなりの改善を期待しうるようになつた。中でも現在注目をあつめているのは中枢神経刺激剤としてのモノアミンオキシダーゼ(MAO)抑制剤である。1952年,SelikoffがINAHのIsopropyl誘導体である1-Isonicotinyl-2-Isopropylhydrazine,すなわちIpronizid(Marsilid)にかなりの中枢神経刺激作用があると発表し,同年に,Zellerが本剤がモノアミンオキシダーゼ抑制作用を有することを発見して以来,本剤とモノアミンオキシダーゼ(MAO)とSerotoninとの関係について種々の実験がなされてきた。SerotninやEpinephrineなどのアミン類が精神活動に関与し,中枢的に働き精神-自律系-身体を統合する化学的媒介物であることが判明してから,MAO抑制剤についての研究も急速に推進されてきた。しかしこの種のMAO抑制剤を投与しても,脳内における治療水準に達しないうちに肝臓のMAOに作用するため,常用量においてもしばしば肝臓にかなり強度の障害をおよぼし確実な効果を期待することが不可能な状態であった。最近Iproniazidの数倍のMAO抑制作用を有し,かつ副作用がほとんどみられない有力な抗うつ剤として,β-Phenylisopropyl hydrazin-HClすなわちCatron(BJ 516)が発展された。
 CatronはAmphetamineのAmineがHydrazineでおき換えられたものでAmphetalnine類似の中枢作用とIproniazid類似のMAO抑制作用の双方が期待されるものである。ほかのMAO抑制剤に比して脳血液関門を通過しやすく脳と最大の親和性をもち,したがつて肝臓障害を起こすことも少なく,かなり急速に作用するものと考えられている。

動き

ドイツ通信(2)

著者: 関野やす

ページ範囲:P.397 - P.400

 言葉というのはやつかいなしろ物で,ひところはこれでひどいノイローゼになりました。来た当座はかえつて無我夢中でしたし,わからなくてもはじめだからしかたないくらいの気持でいられたのですが,1ヵ月くらい経つたころ,むこうのいうことは相変わらずちっともわからず,いいたいことが1ヵ月もたまつていらいらしてしまい,1日でいいから思うことをしやべつてみたいものだと思いました。皮肉,冗談,含みのあるいいまわしを1日しやべれたら,このいらいらは当分おさまるだろうと思つたものでした。しかし,このノイローゼもなおったのか,このごろはあまりいらいらしなくなりました。その証拠に1ヵ月くらい前までは,どこかで日本人に会えないものか,会えたら誰でもいいから,ひつつかまえて日本語で思う存分しやべつてやろうなどと考えていましたのに,先週の日曜日に,丘の上のビール店で,フランクフルトあたりからでもドライブにきたらしい日本の青年をみましはが,話しかける気にもならず,こちらは相手のドイツ人のおしやべりをきかされていました。と申しましても決してドイツ語がよく理解でき,しやべれるようになったわけではなく,環境に少しなれたというにすぎません。
 ご存知のとおりこの国には,私立の大学はごくわずかで,大部分が国立,それも数が非常に少いので,どの大学にもわれわれが名前くらいは知つているような人が何人かはおります。ライヒャルトはこの大学におり,つい数日前85才の誕生日をむかえたのだそうでございます。私の部屋の前の廊下の窓ごしに彼の住まいがみえ,このクリニークと地つづきの丘の上に住んでいます。またフォン・ゲープザッテルもこの大学におり,医学生も,彼の人間学の講義をきいております。彼もすでに80才くらいだそうで,今年の2月彼の誕生日には,かつてやはりこの大学にいたハイデツガーもお祝いにやつてきたそうでございます。いま,私は会話の個人教授をうけておりますが,この教師が,心理の学生で11月から始まるゲープザッテルの講義に出るようにすすめてくれますが,どうせわかるわけはありませんが,一度顔くらいみておこうかなどと考えております。また私の教師というのが学生といつても,すでに40才に近く,3年前までロシヤの捕虜だつたという人で,カントのすぐ前頃Wolffという哲学者がこの国にいたそうですが,その4代目だそうです。

紹介

—Hans W. Gruhle 著—了解心理学 Verstehende Psychologie—〔第5回〕

著者: 東京大学医学部精神医学教室精神病理グループ

ページ範囲:P.401 - P.405

E.社会と民族の科学
 本項では,言語の発生と原始言語に関する所説をもととして,文化の発展,変化などの消長が論ぜられている。
 とくに原始言語の特性や民族性と,文化の環境の作用との関連性などについては,Gruhleがもつとも得意とする科学的批判の見解が十分にもられており,まことに興味ふかい。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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