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文献詳細

雑誌文献

精神医学2巻6号

1960年06月発行

文献概要

動き

ドイツ通信(2)

著者: 関野やす1

所属機関: 1元横浜市大

ページ範囲:P.397 - P.400

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 言葉というのはやつかいなしろ物で,ひところはこれでひどいノイローゼになりました。来た当座はかえつて無我夢中でしたし,わからなくてもはじめだからしかたないくらいの気持でいられたのですが,1ヵ月くらい経つたころ,むこうのいうことは相変わらずちっともわからず,いいたいことが1ヵ月もたまつていらいらしてしまい,1日でいいから思うことをしやべつてみたいものだと思いました。皮肉,冗談,含みのあるいいまわしを1日しやべれたら,このいらいらは当分おさまるだろうと思つたものでした。しかし,このノイローゼもなおったのか,このごろはあまりいらいらしなくなりました。その証拠に1ヵ月くらい前までは,どこかで日本人に会えないものか,会えたら誰でもいいから,ひつつかまえて日本語で思う存分しやべつてやろうなどと考えていましたのに,先週の日曜日に,丘の上のビール店で,フランクフルトあたりからでもドライブにきたらしい日本の青年をみましはが,話しかける気にもならず,こちらは相手のドイツ人のおしやべりをきかされていました。と申しましても決してドイツ語がよく理解でき,しやべれるようになったわけではなく,環境に少しなれたというにすぎません。
 ご存知のとおりこの国には,私立の大学はごくわずかで,大部分が国立,それも数が非常に少いので,どの大学にもわれわれが名前くらいは知つているような人が何人かはおります。ライヒャルトはこの大学におり,つい数日前85才の誕生日をむかえたのだそうでございます。私の部屋の前の廊下の窓ごしに彼の住まいがみえ,このクリニークと地つづきの丘の上に住んでいます。またフォン・ゲープザッテルもこの大学におり,医学生も,彼の人間学の講義をきいております。彼もすでに80才くらいだそうで,今年の2月彼の誕生日には,かつてやはりこの大学にいたハイデツガーもお祝いにやつてきたそうでございます。いま,私は会話の個人教授をうけておりますが,この教師が,心理の学生で11月から始まるゲープザッテルの講義に出るようにすすめてくれますが,どうせわかるわけはありませんが,一度顔くらいみておこうかなどと考えております。また私の教師というのが学生といつても,すでに40才に近く,3年前までロシヤの捕虜だつたという人で,カントのすぐ前頃Wolffという哲学者がこの国にいたそうですが,その4代目だそうです。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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