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雑誌目次

雑誌文献

精神医学2巻7号

1960年07月発行

雑誌目次

展望

頭部外傷後遺症の臨床

著者: 後藤彰夫

ページ範囲:P.411 - P.421

Ⅰ.まえがき
 頭部外傷後遺症はきわめて広範な問題を含んでいるが,臨床精神医学の立場からは,主として,閉鎖性頭部外傷の亜急性期ないし慢性期すなわち後遺症がもつとも重要である。とくに,頭痛そのたがんこな病訴を主とする後遺症患者の診断と治療については,神経症との鑑別など,理論面でも実際面でもこんにちなお多くの問題点を残していることは周知のとおりである。近来交通事故や労務災害などにより頭部外傷患者が増加する傾向があることと考えあわせると,頭部外傷後遺症の臨床面の研究にはさらに多くの関心がはらわるべきものと思われる。
 私は,昭和32年より自衛隊の空挺降下訓練時の頭部外傷患者を対象として閉鎖性頭部外傷の後遺症について詳しく観察する機会をえ,すでにその結果を発表した85)。今回は,とくに当時参考としえた諸家の論文をもとにしてこの問題の展望をこころみることにする。関係する領域が広くかつ複雑であるので,内容を主として閉鎖性頭部外傷のいわゆるdas cerebrale Allgemeinsyndromならびに精神症状にかぎり,巣症状そのほか多くの興味ある問題にはふれえなかつたことをおことわりしておきたい。

研究と報告

一画家における絵画による抑うつ病の経過観察—とくにLSD実験と関連して

著者: 野村章恒 ,   河合博 ,   高橋侃一郎 ,   進藤利雄 ,   太田博

ページ範囲:P.423 - P.430

Ⅰ.緒言
 およそ芸術的所産がなんらかの意味でその作者の内部構造の反映であることは,とくにある制作がある病的体験のうえに成立つている場合,芸術と精神異常との関連として興味のあることである。絵画と精神異常の研究は,Prinzhorn1),Reitman2),Dax3),Volmat4)らの著述があり,わが国では古く野村5)が報告しており,柴田6)や,安永・徳田・栗原7)8)らによつて精神分裂病者の絵画が考察されている。一方絵画療法はHill9)により大系づけられているが,精神病者に応用した研究として,わが国では小林10)や中川11)らによつて発表されている。われわれはたまたま抑うつ病にアルコール中毒を併発した一画家を診療し,その絵画制作を通して症状の経過を観察することができた。なお,人工的精神障害惹起物質として近時用いられるようになったLSD(Lysergsäurediätylamid)を投与して絵画制作の実験を行なつた。LSDによる実験精神病の研究はStoll12)以来きわめて多く行なわれているが,絵画実験はMátéfi13),Tonini & Montanari14),徳田15)らによつてなされている。LSDの治療面への応用はCondrau16),Savage17)らによつて抑うつ病に使用されたが,とくにいちじるしい効果は認められなかつた。おれわれは一画家の3回にわたるLSD実験による絵画制作を通して,これが治療的効果をあらわしたと考えるのでここに報告したいと思う。

台湾における迷信に基づく神経症について

著者: 中脩三 ,   蔡陽昆

ページ範囲:P.431 - P.436

緒言
 最近各種の精神疾患にさいし,社会的背景を考えることがBlerer,Wittkower and Friedらにより提唱せられ,その研究方法について議論されているが,そのおもな目的は各種民族の心理状態の比較研究である。そこにもつとも障害となるものは言葉であり,日本の精神医学が西欧に理解されないのも言葉のむずかしさによると思う。
 台湾には多くの日本の教育を受けた医師がおり中国民族の心理の研究には好適の場所である。筆者の1人は長年月台湾に教鞭をとつていたがこのほど2回にわたる台湾の学術旅行により,ふたたびこんな研究の重要であることをさとるにいたつた。ここに報告する小論文は彰化市の蔡医学士の観察に基づくもので社会精神医学的にはなはだ興味があると思われるものである。

伝導失語の1臨床例とその模倣言語障害の成立機転について

著者: 山県博 ,   斉藤正道

ページ範囲:P.439 - P.450

はしがき
 こんにち,失語症の各病型の中でももつとも問題の多いものの1つに,伝導失語がある。
 これは臨床報告が少く,とくに解剖学的研究がはなはだ少いためにほかの失語症の研究から非常にたちおくれている。

精神分裂病症状の再燃に対するChlorpromazineの効果—維持量服用例の観察

著者: 岩佐金次郎 ,   原常勝 ,   岡田瑛子

ページ範囲:P.451 - P.456

1.緒言
 精神分裂病の薬物療法にはつぎつぎに新薬が紹介され,その結果,精神病院から退院し社会復帰する患者の率はしだいに増加している。しかしいつたん社会復帰しても数カ月ないし数年ののち,また病状が増悪して再入院が必要となる者はいぜんとして少くない。このような例に社会的寛解を続けさせることを目的として,寛解退院後も長期間持続的にChlorpromazine(以下CPと略す)の一定量——維持量を服用させる方法をこころみた。
 維持量とは薬物療法その他で症状が好転したのち,寛解ないし軽快状態をそのままたもつため持続的に服用させる量をさし,それに対して,ふつう行なわれているような投与法を一般投与法として区別した。維持量は一般投与法の量に比べて少量であるが,個々の症例によつて異り,ある量以下を維持量と定めるというように一律にはいえない。

Methopromazineの使用経験

著者: 高橋良 ,   仮屋哲彦

ページ範囲:P.457 - P.462

 新phenothiazine系薬剤methopromazineを精神分裂病13例,躁病3例,うつ病3例,心因反応および神経症5例,そのた2例,計26例に使用し,著効4例,有効6例,やや有効8例,多少の効果が認められた点もあるが,はつきりしたmethopromazineの効果として認められぬもの6例,無効2例という興味ある結果をえ,特記すべき副作用は認められずchlorpromazineのごとく効用ある薬剤と考えられた。

Iminodibenzyl誘導体(Tofranil)による抑うつ状態の治療経験ならびに正常人脳波におよぼす影響について

著者: 島薗安雄 ,   山口成良 ,   猪原駿一 ,   小野啓安 ,   鳴河弘旨

ページ範囲:P.465 - P.471

Ⅰ.緒言
 Chlorpromazineの出現以来,精神科領域においては,つぎつぎに新しい薬物があらわれ,その名は枚挙にいとまがないほどである。しかし種々の抑うつ状態に対するこれらの薬物の効果は,十分満足するまでにいたつていない。電気ショック療法が,うつ病に対してしばしば劇的効果をおさめることは,周知の事実であるが,種々の合併症を有する者や,老年者には施行困難であり,このため抑うつ状態にとくに効果をもつ薬物の出現が早くから望まれていた。1957年に,KuhnがIminodibenzyl誘導体としてTofranilを抑うつ状態の治療に用い,著効を示すことを発表して以来,Tofranilに関する多くの発表がなされている。
 われわれもこの薬物を用いて,抑うつ状態の治療を行ない,また筋注により,正常人の脳波におよぼす影響を観察した。

動き

ドイツ通信(3)

著者: 関野やす

ページ範囲:P.473 - P.474

 先生(信大西丸教授)は相変らず多方面に御勉強で,外国まで来てボヤボヤしている自分がはずかしくなります。しかしドイツにいる同胞で,本当に勉強している人は案外少いのではないかと思えるふしがたくさんあり,これは,目下最もよい自分の不勉強の言い訳にしております。事のついでに申しますと,大体日本から来る留学生は中途半端なのではないかと思います。本当に勉強し働くというのなら,30才すぎてから来ても仕方がありませんし,またドイツの大学の方でも,30,40才という年寄の扱い方にも困るのではないかと思います。この年になつた人が今更ドイツで事新しく勉強しなければならないことは,恐らくどの分野でもあまりないと思われますし,見学するというのなら1ヵ所に1年も2年もいても仕方ないのではありますまいか。先日,ある日本の教授で,こちらに留学している人に逢いましたら,後で,当神経科のScheller教授に相手の身分をきかれたので,ありのまま申しましたところ,日本では教授が半年も1年も留守にできるのか,教授になつている人が,外国に来て勉強する必要があるのか,日本医学の水準はそんな程度なのか,とやられてすつかり恐縮し,以後は同胞の誰を紹介する時でもAssistantだということにしました。幸い日本人は若く(大抵10年くらい)見られますから。と言う訳で,何も言葉の不自由をおして,ここで勉強する必要はないと変な理屈をつけて,のんびりかまえることにしました。しかしこの心がけは非常によかつたらしく,こう思いついたら,それ迄のNeurose(あせつたような落付かなかつた気持)が一ぺんにすつとんでしまいました。そしてむずかしい精神医学のことを,たつた1〜2年外国にいる間に無理して勉強することをやめ,安直に目や耳(耳の方は大部あやしいのでございますが)に入つてくるもろもろの事象の歴史的考察をしております。こういう見方をしますと,今まで外国人の美徳として教えこまれていたことも環境からの必然性から生れたことであり,恐懼感激する必要もないと思えることがたくさんございます。どうやら現代の日本人は80年か90年前に国の門戸をひらいた時,西洋文明に「驚歎」し,劣等観念をもつた祖先の血を今でも遺伝的に持つているのではないかと存じます。この内訳を今申し上げてしまいますと,帰つてからお話する種がなくなりますので,症例報告は後にゆずります。
 ところで,私も40になつてからここに参りましたが,どこの国でも,女と男の扱い方の(ニュアンスの違いはあつても)違うという点は同じで,これが私の場合は比較的うまく利用され,その上院内住いですので,院内の人々,患者との接触も多く,比較的物の裏……というより真実……を見ることが出来ているようでございます。もし私が男でしたら,ドイツの悪い所など仲々見せてもらえないだろうと思います。

紹介

—Hans W. Gruhle 著—了解心理学 Verstehende Psychologie—〔第6回〕

著者: 東京大学医学部精神医学教室精神病理グループ

ページ範囲:P.475 - P.480

F.法律学
 今まで本書は主として批判的な態度によつて論述されてきたが,本項の内容はGruhleが数十年来親しんできた事柄であるため,原則として批判はおあずけにされ,積極的なものだけが述べられている。
 単なる法律論を事とするのでない限り,法律家にとつては常に「人間」が中心の問題である。しかし法科の学生が,若干の心理学を学べばそれですむ,というものではない。講壇の理論的心理学は人間知識について多くのものを与えはしない。むしろ半年とか1年とかの間,精神科医と密接に協同して,刑務所などで実習するならば,得るところが大きいであろう。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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