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研究と報告
一画家における絵画による抑うつ病の経過観察—とくにLSD実験と関連して
著者: 野村章恒1 河合博2 高橋侃一郎2 進藤利雄2 太田博2
所属機関: 1東京慈恵会医科大学神経科教室 2根岸国立病院
ページ範囲:P.423 - P.430
文献購入ページに移動およそ芸術的所産がなんらかの意味でその作者の内部構造の反映であることは,とくにある制作がある病的体験のうえに成立つている場合,芸術と精神異常との関連として興味のあることである。絵画と精神異常の研究は,Prinzhorn1),Reitman2),Dax3),Volmat4)らの著述があり,わが国では古く野村5)が報告しており,柴田6)や,安永・徳田・栗原7)8)らによつて精神分裂病者の絵画が考察されている。一方絵画療法はHill9)により大系づけられているが,精神病者に応用した研究として,わが国では小林10)や中川11)らによつて発表されている。われわれはたまたま抑うつ病にアルコール中毒を併発した一画家を診療し,その絵画制作を通して症状の経過を観察することができた。なお,人工的精神障害惹起物質として近時用いられるようになったLSD(Lysergsäurediätylamid)を投与して絵画制作の実験を行なつた。LSDによる実験精神病の研究はStoll12)以来きわめて多く行なわれているが,絵画実験はMátéfi13),Tonini & Montanari14),徳田15)らによつてなされている。LSDの治療面への応用はCondrau16),Savage17)らによつて抑うつ病に使用されたが,とくにいちじるしい効果は認められなかつた。おれわれは一画家の3回にわたるLSD実験による絵画制作を通して,これが治療的効果をあらわしたと考えるのでここに報告したいと思う。
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